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番外編11.フィッイルと仲良くなる!
130.喧嘩した
しおりを挟むもう僕、オーフィザン様なんか、嫌いだ。顔も見たくない。今日から口も利かないんだ。
「それはいいけど、なんで僕の部屋にくるの?」
すっごく迷惑そうに、フィッイルが僕を睨んでくる。ここはいつも僕がいるお昼寝部屋じゃなくて、フィッイルが静養のために使っているお部屋。暖かい昼の太陽が差し込む、気持ちいいお部屋。今は夏だから、普通に日が当たっていたらすごく暑いんだけど、オーフィザン様が魔法をかけたカーテンのおかげで暑くならないし、時々冷たくて気持ちいいそよ風がふいてくる。
僕のお部屋も、オーフィザン様がいつもお昼寝しやすいような気持ちいいお部屋にしてくれている。
だけど、もうあの部屋には帰らないもん!! オーフィザン様なんか、嫌いなんだから!!
「もうオーフィザン様なんか知らない!」
くるんてお布団を頭からかぶると、フィッイルはなぜか怒って、気持ちいいふかふかお布団を剥ぎ取っちゃう。
「だから! なんで僕の部屋に来たの!?」
「だ、だって……お昼寝部屋にいたら、すぐにオーフィザン様に見つかっちゃうし、オーフィザン様が置いてくれたものばっかりで……なんだかムカつくんだもん!!」
「だからってなんでよりによって僕の部屋に来るんだよ! 僕は静養のためにここにいるの!! お前みたいなうるさいのがいたら、休むどころか疲労が溜まり過ぎて死ぬ!! オーフィザンと喧嘩したなら、シーニュかお前の兄ちゃんのとこ行けよ!!」
「だ、だって、シーニュも兄ちゃんも他のみんなと一つの大きなお部屋を使ってるから……前に僕が入っていったら、他のみんなが悲鳴をあげちゃって、僕、立ち入り禁止にされちゃったんだもん。ダンドの部屋はダメって言われてつまみ出されちゃったし……」
「だからって、僕の部屋に来ないで。お前みたいなうるさい猫がいたら、僕が休めない。出てけ。昼寝したいなら屋根の上にでも行けば?」
「フィッイル冷たい……僕、屋根なんか登ったら落ちちゃう……」
「……情けないやつ……お前、本当に狐妖狼?」
フィッイル怖い……
僕たち狐妖狼は、森の中を駆け回ったり、獲物を狙って狩りをする種族だけど、僕はドジだし、屋根になんか乗ったら、絶対滑り落ちる。
だけど、フィッイルはよほど僕が邪魔なのか、お布団をベッドに敷きなおして、すごーく嫌そうに僕を睨んでくる。
「落ちないように命綱でもつけておけば?」
「落ちなくても、屋根は暑くて嫌だ……」
「じゃあオーフィザンとこに帰れ!! なんで喧嘩したんだよ! 面倒くさい!!」
うう……フィッイル、怒ってる。
だけど僕を追い出すこともせずに、彼はゴロンとベッドに寝転がり、クッキーを食べ出す。僕の相談に乗ってくれるんだ!
嬉しくて、僕もフィッイルの隣で丸くなった。
「フィッイル、優しい!」
「は? 何勘違いしてるの? 僕はクッキー食べたいだけだから」
「でも、相談に乗ってくれるんでしょ?」
「……お前、どれだけポジティブなの? それとも馬鹿なの? 誰がそんなこと言ったんだよ……」
「だって、話聞いてくれるもん!! 嬉しいもん!!」
フィッイルは、言うことはいつも冷たいけど、いつも僕を助けてくれるし、優しいんだ!
嬉しくて尻尾が勝手に揺れちゃう。フィッイルはなぜかため息をついて、お布団に置かれたカゴから、クッキーを一枚つまんで口に入れた。
「……分かったよ。このクッキー持ってきたところはよくやったし、食べながら聞いてあげる。なんで喧嘩したの?」
「あのね! オーフィザン様、ひどいんだよ!! 僕、オーフィザン様のお部屋でオーフィザン様のことずっと待ってたのに来てくれないし、寂しくて探しに行って、やっと見つけたのに、客が来てるんだって言って僕を摘み出して、しかも邪魔だって言ったんだよ!!!」
「……ふーん……」
あれ? こんなに悲しい話をしてるのに、フィッイル、全然興味なさそう。ベッドの上で僕に背を向けて丸くなっちゃう。
なんで? 僕、すごくすごく悲しかったのに。最近、オーフィザン様ずっと忙しくて、ちっとも構ってくれなくて、今日は一緒にいられるはずだったのに、急にお客さんが来ちゃって、すごく残念だけど、仕方ないから、ずっとオーフィザン様が戻ってきてくれるの待っていたのに、それなのに、やっと会えたら邪魔だって一言冷たく言って、僕を部屋から放り出したんだ。僕、すごく悲しくて泣いちゃったのに、フィッイルはあくびしてる。
「フィッイルー…………ちゃんと聞いてよお……」
「きーてる。聞いてるけど、その客って、あの突然来て偉そうにしてる人族の王だろ? オーフィザン、あいつがお前をからかうのがすごくムカつくみたいだし、お前が肌出した格好のまま部屋に来て、自分以外の奴にお前のエロい姿見られて腹が立っただけだろ。悲しいどころか、のろけ聞かされた気分だよ」
「のれけてないもん! もうオーフィザン様嫌いなんだから!!」
「あー、はいはい。優しい飼い主がいて羨ましいでーす」
「羨ましくならないで!! ひどいんだから!! それに、フィッイルにはロウアルさんがいるじゃん」
「あいつがいるからなんなのっ!!??」
ガバッと起き上がり、フィッイルは怖い顔で僕を怒鳴りつける。な、なんで?
ロウアルさんは、フィッイルと一緒にこのお城に来ている銀竜。フィッイルのことが大好きみたいで、いつもすごく大事にしている。お部屋だって、フィッイルの隣。
ここに来たばかりの頃は、ロウアルさんはフィッイルのことが心配で、フィッイルの部屋のそばをずっと飛んでいたんだけど、フィッイルが窓の外を見てうなされるようになっちゃったから、オーフィザン様が「部屋をやるからそこにいろ」って説得したらしい。
このお部屋の窓辺にも、ロウアルさんがフィッイルに渡した竜の置物があって、壁にはロウアルさんがフィッイルのために狩ってきた魔物の角とか不思議な植物の枝なんかが飾ってあって、ベッドにある毛布も、ロウアルさんがフィッイルに渡したもの。
ロウアルさんは、フィッイルにたくさん贈り物をするのが好きらしい。
僕から見たら、ロウアルさんはすごくフィッイルを大事にしているように見えるんだけど、フィッイルは怒り出しちゃう。
「あいつと僕は、お前とオーフィザンみたいな関係じゃないの!! 僕、あいつ嫌いなんだから!!」
「なんで? ロウアルさん、フィッイルにだけはすごく優しいのに」
「優しい? いつ? いつ優しいんだよ。あいつ、いつも乱暴なんだ!! 愛情表現が鬱陶しいの!! ずっと僕にくっついて離れないし、変なプレゼント渡されるし……暑苦しいんだよ!!」
「大きなお魚だよね!!? 僕知ってるよ!! フィッイルがお魚好きだから持ってきてくれたんだよね!」
「僕、別に魚なんか好きじゃないよ。何か好きなもん持ってきてやるっていうから適当に答えただけ!! そしたらあんな馬鹿でかいの持ってきて……僕のお部屋、大きな魚に埋め尽くされたんだよ!! おかげで部屋中鱗まみれ!! ろくなことしないんだから!! あいつの話なんかしないでっ!!!」
「お、怒らないで……」
「泣くな。面倒くさい。そんな理由ならオーフィザンのとこ帰れば?」
「やだ!! もうオーフィザン様なんか、口きかないもん!!」
「ふーん……」
フィッイルはちょっとだけいじわるそうに笑う。どうしたんだろう……?
「いいよー。そんなにオーフィザンに会いたくないなら、僕の部屋にいなよ!!」
「本当!? いいの!?」
「うん! お前がいなくなって、慌てるオーフィザン、見てみたいし」
「……オーフィザン様は僕がいなくなっても慌てないよ。僕のこと嫌いなんだもん!」
「うん、そうだねー。だからずーっとここにいていいよ!!」
「本当!? フィッイル、すごく優しい!!」
「うんうん。じゃあ、お前はこのベッドから降りないようにね」
フィッイルは僕たちが乗っているベッドをポンポン叩く。
僕、ベッドから降りちゃダメなの? なんで?
このベッド、僕とフィッイルが一緒に上に乗って、手足を広げて寝ても、まだスペースが余るくらい広いけど、ずっとここにいるのはちょっと退屈そうだよ?
「なんで僕、ベッドにいなきゃいけないの?」
「部屋をふらふら歩かれてドジされたら堪らないからに決まってるだろ!! 僕の部屋のものを壊すなっ!!」
「えー……僕、まだ何にも壊してないのに?」
「壊してなくてもダメ!! 絶対今から壊すだろ!! お前はベッドから降りちゃダメ!!」
「……わ、分かったよー……」
……フィッイル、怖い。僕、壊したりしないのに!!
だけど、僕がドジなのは本当だし、フィッイルに迷惑かけちゃいけないよね……
しぶしぶ、僕はお布団の上で丸くなって、クッキーを一口。
クッキーは美味しいし、お布団はふかふかで気持ちいいんだけど、ちょっと退屈。いつもならお昼寝してる時間なのに、今日は眠くならない。
「ねえ、フィッイル」
「……んー……」
「フィッイル?」
「……」
「フィッイル!!」
「……」
「フィッイル! 聞いてよ……フィッイル!」
何回呼んでも、フィッイルは返事してくれない。あれ? フィッイル、寝ちゃってる。
お布団の端で、フィッイルはロウアルさんにもらった毛布を敷いて、丸くなって寝息を立ててる。あの毛布はフィッイルのお気に入りで、あれの上で丸くなると、フィッイル、すぐ寝ちゃうんだ。
うううー……もう少し話、聞いて欲しかったのに、寂しいよ。
だけどフィッイルは耳がピンって動いて気持ちよさそうに寝てるし、きっと疲れてるんだ。お昼寝の邪魔はダメだよね。
フィッイルが寝ちゃったんだから、僕も寝ようかなあ。だけど、眠くない。いつもはあったかいお部屋のベッドで丸くなったら、すぐに寝ちゃう僕なのに、なんで今日に限って眠くないんだろう。
丸くなって尻尾をふりふりしてみる。フィッイル、起きてくれないかな? うーん、ぐっすり寝てる……起きそうにないよ。
そうだ! お布団の中に入ったら眠くなるかも!
僕は布団の中に入っていく。
今は夏。だから、お布団もちょっと薄め。オーフィザン様と寝てる時に、寝ぼけてお布団を頭からかぶっちゃうことはあるけど、一人でお布団の中に入るのは久しぶり。
う……しまった。またオーフィザン様を思い出しちゃった。もう、お布団をオーフィザン様だと思って包まっちゃおう。
くるんて自分の体にお布団を巻きつけると、なんだか落ち着く。オーフィザン様に抱きしめられたときのことを思い出しちゃうんだ。
うううー!! オーフィザン様なんか、ひどいんだから、もう忘れるって決めたのに、やっぱり寂しい。もっといっぱい、オーフィザン様に抱きしめられた時の感触が欲しいよ!
やっぱりオーフィザン様のところに帰ろうかな?
いや、そんなのだめだ!! 悪いのはオーフィザン様なんだから、帰らないもん! もう布団から出る!
あ、あれ?? お布団が体に巻きついてうまく動けないよ? きつく体に巻きつけすぎちゃったみたい。ぐるぐる巻きになって体が動かない! わわわ!! どうしよう!
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