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番外編7.最終決戦
121.また来た!
しおりを挟むもうもみ合いを通り越して取っ組み合いになっちゃう。ペロケとこんなにケンカしたの、初めてかもしれない。僕は絶対花を摘んでブーケにするんだもん!!
「おーい、二人ともやめろー」
少し離れたところから、シーニュに呆れたように言われちゃう。でも、負けられないーーっ!
「はーなーしーてーーっ! 僕はブーケを作るんだもんっ!」
「だーめー!! 花嫁になんかさせないもーんっ!!」
シーニュがとめるのも聞かず、喧嘩を続けていたら、いつのまにか花園に、みんなが集まってきていた。
群衆をかき分け、兄ちゃんが真っ青な顔をして僕に駆け寄ってくる。
「クラジュ!! お前はまた……とんでもないことをっ!」
「に、兄ちゃん! 離してーーっ! 僕はペロケと決着つけるんだもんっ!!」
絶対に引き下がりたくなんかないのに、兄ちゃんに羽交い締めにされ、無理やり引き剥がされちゃう。ペロケの方も、キャティッグさんに同じようにされていた。
「やめろ、ペロケっ!! 気持ちはすげーわかるけど!!」
「じゃあ離してーーっ!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ僕らに、今度は魔法の道具のクロクディルさんが言った。
「静かにしなさい。何か聞こえませんか?」
え? 何かって……
不気味な言葉に、他のみんなもしんとなる。静かになったあたりに、ざわざわと、ついさっき聞いた怖い音が鳴り響いた。根のトンネルからだ。え、え……この音……
みんな、根のトンネルの方に注目する。
迫って来た音が一気に大きくなって、トンネルから芝が噴き出して来た。
うわああああーー!!! 芝、まだ育ってたんだ!!
「逃げろっ!! 襲って来るぞっ!!」
キャティッグさんが叫んで、みんな逃げ出す。だけど、芝の勢いはさっきの比じゃない。とても走って逃げるなんて無理だ。
うわあああー!! もうだめ!!
怖くて動けない僕の頭の上から、芝が襲って来る。だけど、飛んで来た芝はじゅっと蒸発するような音を立て、湯気になって消えちゃった。た、助かった……
「そこまでだ。クラジュ」
空から羽を広げて降りて来たのはオーフィザン様。
ふわああ……よかったああ……オーフィザン様が魔法で芝を消してくださったんだ。
トンネルから噴き出していた芝とトンネルの根は、一瞬で小さくなり鉢植えになって、オーフィザン様の手に収まった。
すぐにキャティッグさんがその鉢植えを受け取る。
「俺の大事な苗……無事か……よかった……ありがとうございます! オーフィザン様!!」
あの苗……そんなに大事なものだったんだ……ううううー……まずい……
キャティッグさんは、僕の方に敵意のこもった目を向けて来る。
「てめえ……クラジュ!! お前これに何しやがった!!」
「う、うううー……ごめんなさい……」
すごく怒ってる……
今度はクロクディルさんが、変な形に曲がった鍵を見せて来る。この人もすっごく怒っているみたい。僕を見る目がものすごく怖い。
「よく倉庫の鍵を開けられましたね……」
「う……が、頑張ったら開いたんです……」
「頑張ってはいけません。あなたのような人が入ると危険だから鍵をかけているとわからないのですか?」
「うううー……」
曲がった鍵にオーフィザン様が魔法をかけると、それは元どおりになった。どうやらあの鍵も大事なものらしい。クロクディルさんはそれを大切そうにしまっている。
よかったけど、オーフィザン様、僕のしたことも絶対に全部お見通しのはず。い、今のうちに逃げちゃおうかな……
花に隠れて逃げようとするけど、オーフィザン様に首根っこを掴まれちゃう。
うううううー……あっさり捕まった……やっぱりお仕置きなのかなあ……怖い……
「……お、お仕置きは嫌です……」
泣き出しそうな僕に、オーフィザン様は怖い顔で言う。
「朝までたっぷり仕置きしてやるからな」
「うううううー……」
やっぱりお仕置きになっちゃうんだ……
オーフィザン様が杖を振ると、花園をよごしていた灰も消えて、何もかも元どおりだ。
ペロケが花壇に駆け寄って行く。
「僕の花!!」
花壇の花は、みんな何事もなかったかのように美しい。彼はそれを見て安心したのか、その場に座り込んでしまった。
立ち上がらない彼に、オーフィザン様はゆっくり近づいて行く。
「お前の育てた花はいつも美しいな」
「オーフィザン様……」
「ペロケ、花を摘ませてくれないか?」
「…………でも、でも……」
「お前が育てた花も、お前も、この城にいるものは、全て俺の大切なものだ。ずっと、俺が守る。俺が誰を嫁に迎えようが、必ずだ。だから、花を摘ませてくれないか? 晴れの日をお前の花で飾りたいんだ」
「……お、おーふぃざんさまあ……」
ついにペロケは泣き出しちゃう。う、う、どうしよう……これって、僕のせいだよね? オーフィザン様と結婚したいけど、ペロケがこんな風に泣いちゃうのは辛いよ。
「あ、あの……ペロケさん……」
恐る恐る話しかけた僕をペロケは思いっきり睨みつけてくる。
「このっ……クソ猫っっ!! よくも……………………オーフィザン様!! ほ、本当にそんな猫でいいんですか!? だってその猫、何にもできないどころか、何度もあなたに迷惑を……それどころか、あなたの命すら危険に晒したんですよ!! あなたが大切にしているものを盗み出し、あなたの部屋のものを破壊したり捨てたり、立ち入り禁止の部屋に入って中の貴重なものを破壊して、この城を竜から守っていたものを破壊して、あなたの友人を危険に晒して、挙句の果てには寝ている隙に火まで放って……ほ、本当に、その猫でいいんですか!!?」
うううう……言い返したいけど、ペロケの言っていることは全部本当のこと。改めて聞くと、僕ってひどい。結局ドジも治ってないし……オーフィザン様も、やっぱりやめるって言い出すんじゃ……
恐る恐る、隣のオーフィザン様を見上げようとしたら、いきなり抱きしめられちゃう。怖くて泣き出しそうになっていた僕に、オーフィザン様は優しくキスしてくれた。
「俺は、こいつに惚れているんだ」
わああああ……こ、こんなにそばでそんなこと言われたら真っ赤になっちゃう。だけど、さっきまでの恐怖は弾け飛んだ。
僕、絶対にこの人のお嫁さんになりたい。オーフィザン様を幸せにしたいよ。
泣いていたペロケも涙を拭って、羽を広げ、花壇に飛んで行く。そこから一際美しい花をいくつか摘んで、あっという間に見事な花束を作り上げた。それを持って、彼はこっちに近づいて来てくれる。
もしかして、僕らの結婚、祝福してくれるの!?
嬉しくて彼に駆け寄り、両手を出すけど、冷たく手を叩かれちゃう。
「お前じゃないよ。死ねクソ猫」
えええー……そんな、一瞬で怖い顔になって言わなくても……
ペロケは僕の横を通り抜け、僕の前に立った時とは打って変わって涙を流しながら、オーフィザン様に花束を差し出す。
「あ、あなたが……あなたがそこまでおっしゃるのなら……ぼ、僕の一番の願いは、あなたが幸せになることですから……」
ううう……僕にはくれないんだ……
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