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番外編5.花嫁修業してドジを直します!
103.迎えに来てくれた!
しおりを挟む「逃げなきゃ! キュウテ、フィッイル! 行こう!!」
叫んで、僕は犬さんを抱っこして走り出そうとした。だけど、犬さんは僕の腕をすり抜け、窓を開けようとしてる。窓なんか開けたら、銀竜がきちゃう!
急いで犬さんを連れて行こうとする僕だけど、後ろからフィッイルが思いっきり腕を引っ張ってくる。
「そいつは放っておけばいいから! 早く逃げるよ!!」
「オーフィザン様の犬さんを置いて逃げるなんてできないもん! 離して!!」
「だーかーらー!! それ、犬じゃないからーーっ!」
僕らはもみ合いになっちゃう。フィッイルの手を振り払おうとした僕はよろけて、窓に背中をぶつけちゃった。いたた……
「ほら、早く逃げるよ」
フィッイルが手を伸ばしてくれるけど、その手を取る気にはなれない。だってフィッイル、ひどいもん!!
「フィッイル、ひどいよ!! オーフィザン様と昔何かあったからあんなこと言うの!?」
「確かにあれはムカつくけど今はそうじゃないから!! 行くよ!!」
「あ!」
言い合っている間に、犬さんは窓を開けてしまう。その上、僕らに振り返って叫んだ。
「クラジュ! お前はここにいろ!!」
ええ!? なんで犬さんがオーフィザン様の声で話すの?
オーフィザン様の声で話す犬なんて、ますます放っておけない!
窓から飛び出した犬さんに、僕は飛びかかるけど、届かないーーっ! その上、窓から飛び出しちゃった。
わーーっ! 落ちる!!
落っこちそうになる僕だけど、すぐに僕の体に何かが絡みついて、僕が落ちるのを止めてくれた。
僕の体にはキラキラしたものが巻きついている。まるで光る透明な縄だ。その先を、窓のところでフィッイルが握っていた。フィッイルが魔法で僕を捕まえてくれたんだ!
「お前……どこまでドジなのー!」
「うううー……ありがとう、フィッイル……あ、あれ?」
支えてもらっているはずの僕の体がグラって揺れた。わ、わー!! 体に巻き付いていたものが消えていく!
「クラジュ!」
「キュウテ! ダメ!!」
僕を助けようと手を伸ばしたキュウテも、それを止めようとしたフィッイルまでもが、窓のところでバランスを崩し、そこから落ちてしまう。
だけど、地面に落ちるギリギリで、僕らの体は浮き上がり、ゆっくりと、地面に降りることができた。
「怖かったあ……フィッイルもドジするんだね」
キュウテが言うと、フィッイルが僕を指差し、怒鳴る。
「僕は今はうまく魔法が使えないだけなのっっ!! そいつと一緒にしないで!!」
えええ……今のは僕のドジなの?
「ねえ!! 銀竜がくるよ!!」
キュウテが叫ぶ。空の上から、僕らの何倍も大きな竜が急降下してくる!! 広げた顎だけで、僕の身長くらいありそう。それが起こす風で、周りの木々は根こそぎ折れて、葉っぱは空に飛んで行っちゃう。
早く逃げなきゃ……だ、だけど怖くて怖くて体が震えちゃう。もう動けないよ!!
隣のフィッイルも、その場で立ち尽くしている。
真っ青な顔をしたフィッイルだけが、動けない僕とキュウテの手を取ってくれて、僕らはなんとか走り出した。
竜は衝撃で体が痛くなるくらいの咆哮をあげて、僕らを追ってくる。
あ、あれ? 犬さんがいない!! 置いてきた!?
慌てて振り返る。
すると、犬さんは僕らのずっと後ろで竜と対峙していた。あんなところにいたら竜に犬さんが殺される。
僕はフィッイルの手を離して、犬さんに向かって走った。
「危ないよ! こっちに来て!!」
「クラジュ! お前はフィッイルと逃げろ!」
犬さんが僕に向かって叫ぶけど、オーフィザン様がくれた犬さんだ。僕が絶対守るーっ!!
「クラーージュッッ!! 戻ってきてよ!!」
フィッイルが叫んで僕を追ってくる。だけど、僕はそれを無視して犬さんに飛びついた。早く連れて逃げたいのに、犬さんは僕の腕から逃げようと暴れ出す。
「離せ! クラジュ! あれは俺が引き付ける! お前はフィッイルと逃げるんだ!」
「小さな犬さんを囮にできないよ!」
「お前より大きいから離せ!! それにこれは使い魔だ! 犬じゃない! 俺が魔法で作ったものだ!!」
「使い魔でもオーフィザン様がくれたんだから大事にするもん!」
何を言われても絶対に離さない!! 僕はずっと暴れる犬さんを抱きしめていた。
「クラジュ! もう行くよ!!」
フィッイルが怒鳴る。だけど、この子を置いてなんて行けない!! 犬さんが逃げちゃわないように、ぎゅーって抱きしめていたら、犬さんは僕を怒鳴りつけてきた。
「あー! もう分かった!! 俺も行くから、逃げるぞ! もうすぐ俺がつく! それまで耐えろ!!」
「え? 犬さんはここにいるよ?」
「いいから逃げるぞ!!」
僕は犬さんと走り出した。フィッイルとキュウテも後ろからついてくる。だけど後ろからは銀竜が迫ってくる。このままじゃ追いつかれちゃう!
「こっちだ!!」
犬さんが叫んで、僕らを大きな木の陰に連れて行く。僕らはそこで息を潜めた。銀竜は僕らを見失ったみたいだけど、諦めずに空を旋回して僕らを探してる。
「早くきてよね……お前のクラジュのせいでひどい目にあった」
ブツブツ言いながら、フィッイルは犬さんを睨みつける。だけど、犬さんは答えない。あれ? 犬さん、ぐったりしてる。僕が触っても、全然動かない!!
「どうしようーーーっ! 犬さん、動かなくなっちゃったよ!!」
びっくりして大きな声をあげちゃう僕の口を、フィッイルが横から手で塞いだ。
「魔法が切れただけだよ。そのうち、オーフィザンがつく」
「オーフィザン様が!? 本当に!?」
「うん。だから、お前はもう、絶対に、何もしないこと。ね? オーフィザンがきたらなんとかしてくれるから。頼むからもう何もしないで。考えてみて。お前が何もしなかったら、何も起こらなかったんだよ。お前のバカとドジはすごいよ。だからもう何もしないで」
「でも……犬さんに何かあったら……」
「だからね、あれは……」
フィッイルが言いかけたところで、ものすごい風の音がして、周りにあったものはみんな吹き飛んじゃう。僕やキュウテも風に負けて、少し離れたところまで飛ばされちゃった。
僕らの周りがふっと暗くなって、空を見上げれば、そこから巨大な銀竜が恐ろしい目で僕らを見下ろしていた。
その竜は、フィッイルの前に降り立つ。
「あ、あ……」
震え上がるフィッイルに銀竜はよだれを出して近づいていく。このままじゃ、フィッイルが食べられちゃう!! 助けに行かなきゃ!!
ガタガタ震えながら、僕は立ち上がり、まともに走れない足でフィッイルに近づこうとするけど、こんなに震えてたら彼のいるところまで行けない。フィッイルも、腰が抜けたのか、地面にお尻をついたまま立てないでいる。
銀竜が震えるフィッイルに近づこうとする。だけど、その竜の首に、空からおりて来た別の銀竜が食いついた。
首に食いつかれた竜は、この辺り一帯に響きそうな悲鳴を上げる。そこから血が飛んで、牙は首に食い込み、ついにその首を地面に落としてしまった。
フィッイルの目の前に、血と土煙を上げて銀竜の首が落ちる。首を食いちぎった方の銀竜は、落ちた首めがけて怒鳴り散らした。
「俺のフィッイルに何しやがるっ!!」
え……この声、ロウアルさん?
じゃあ、あの竜、ロウアルさんなの?
彼は人の姿に戻り、フィッイルに駆け寄った。
「フィッイル! 大丈夫か!?」
だけどフィッイルは動かない。ずっとガタガタ震えてる。きっとすごく怖かったんだ。
彼の方に気を取られていたら、隣にいたキュウテが、空を見上げて叫んだ。
「まだいるよ!!」
僕も空を見上げた。そこではさっきの竜に勝るとも劣らない大きさの竜が二匹、僕とキュウテを見下ろしている。
え……うそ……こっちにくる!?
だけど、降りてきた竜の一匹は、閃く長剣の一撃に頭を切られ、もう一匹は途中で体が燃え上がり、二匹とも咆哮をあげて逃げていく。
キュウテの方に、長剣を下げた陛下が駆け寄ってきた。
「キュウテ!! 無事か!!」
「うわああああんっ!! 陛下あ!! 怖かったよおおっ!!」
キュウテはボロボロ涙を流しながら、陛下に抱きついている。
僕の前にも、空から大好きな人が降りてきた。
「クラジュ、無事か……」
絶対怒ってるって思ったのに、オーフィザン様は僕を見て、そう言ってくれた。それを聞いたらすごく安心して、これまでの恐怖を思い出しちゃって、涙が出てきた。
「お、おーふぃざん……さまああ……」
ボロボロ泣く僕をオーフィザン様は抱っこしてくれる。耳元で「あとで仕置きだぞ」って言われたけど、それすら嬉しくて、僕は泣いていた。
いっぱいドジしちゃったし、オーフィザン様のお嫁さんになれる日は遠そう……
キュウテはずっと陛下に抱きついたまま、頭を撫でてもらってるし、フィッイルは、彼が泣いていることに焦ってオロオロしているロウアルさんに抱きついている。
しばらく慰めてもらって、僕が泣き止んでから、オーフィザン様は僕を抱き上げ羽を広げた。
「帰るぞ。クラジュ」
「……」
「どうした?」
色々やっちゃったもん。お仕置きは仕方ないけど……
「お、オーフィザン様……」
「なんだ?」
「……僕、その……」
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だけど、オーフィザン様は僕にキスをしてくれた。
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「え?」
「お前は何もしなくていい。花嫁になれるまで、俺がしつけてやる」
うううううー……この顔、いっぱいお仕置きするときの顔だ。だけど、これもお嫁さんになるためだ。僕はオーフィザン様の顔を見上げて、自然と笑顔になっちゃった顔のまま、はいって答えた。
*番外編5.花嫁修業してドジを直します!*完
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