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番外編3.ずっとここにいたい
84.大好物をもらえた
しおりを挟むオーフィザン様を探して城の中を歩いていた僕は、調理場の前まで来た。
あー、いい匂いがする。ご飯はとっくに終わってる時間なんだけど、もしかして、もう仕込みをしているのかな?
そうだ。ダンドならオーフィザン様がどこにいるか、知ってるかも!
だけど、うーん……困ったなあ。ダンドとは、顔を合わせづらいんだ……
僕、ちょっと前に調理場に忍び込んでスルメとおやつを盗んだばかりだから。
ランキュ様がいた頃は、しょっちゅうご飯を取り上げられて、泣いている僕を不憫に思ったダンドが、こっそりご飯を渡してくれたり、僕が盗み食いをしていても見逃してくれたり、他の料理人にばれちゃった時に、うまく話をつけてくれたりしていた。
だけど、ランキュ様がお城からいなくなって、ご飯を取り上げられることもなくなったから、ダンドも、最近はもう盗まないようにって言うようになった。
それでも、欲しいものは欲しい。僕はついつい、前と同じように調理場に忍び込んでは、スルメに手を伸ばしちゃう。
その上、数日前に、スルメ以外に美味しそうなおにぎりを見つけて全部食べちゃったんだ。
あれ、美味しかったなー。またないかなあ……ちょっとのぞいてみよう!
僕は、近くの窓から庭に出て、そこから調理場の裏口の前まで走った。裏口から入った方が、人と会う可能性が低くて、僕には好都合なんだ。
裏口のドアには、いつもどおり、鍵がかかっている。鍵は料理人の人達しか持っていない。だから、僕には開けることができない。
だけど、しばらくドアの前で待っていれば、だいたい誰かが出てきて、鍵を閉め忘れるんだ。だから、近くの木にのぼって日向ぼっこして、ドアが開くのを待っていよう!
すぐそばにある木によじ登り、太くて頑丈そうな枝の上でうつ伏せに寝そべると、ちょうど僕の体が木の葉っぱに隠れた。これで誰か出てきても気づかれない!
開かないかなー……ドア。あったかいなー……お日様。眠くなってきたな……寝ながら待とうかな……ふああ……あくびが出る……
うとうとしていると、ドアが開いて、料理人の一人が庭に出て行く。
やったあ……開いたあ……だけど、もうお昼寝したい。寝てから入ろうかなあ…………あれ? なにしにきたんだっけ? あ、スルメだ。それと……あ! あの美味しいおにぎり!! あれがあるかもしれないんだ。
スルメとおにぎりは食べたい。だけどお昼寝もしたいし、うとうとしてきたから起き上がるの辛い。
うううー……どうしよう……寝たいけど……スルメは捨てがたい……
よし! スルメを探して、食べてから寝よう!!
起き上がって木から降りた僕は、裏口のドアに駆け寄り、それに耳を当てて、ドアの向こうの様子をうかがった。
静かだな……多分、誰もいないんだ。
こっそり、ドアの中に入る。そこは、棚や木箱がいっぱい並んだ食料庫だ。
あああ……美味しそうな匂い……あ! あった! 棚に並んだスルメの箱! それを開くと、僕が大好きなスルメがいっぱい入ってる。
やったあ。いただきまーす!! うまい……幸せ……
後は、おにぎり!! あるとしたら、調理場だ!!
食料庫の奥に見える扉の向こうが調理場だ。そこから光が漏れているけど、話し声や物音は聞こえない。もしかしたら、都合よく誰もいないのかも!!
扉に駆け寄り、耳をくっつけてみる。なんの音もしない!!
こっそりドアを開く。広い調理場は綺麗に片付けられていて、誰もいない。
あ! 調理台に何かある! あれ……おにぎりだ!! やったあ!!
大きなお皿には、ほかほかのご飯にいっぱい鰹節を混ぜたおにぎりがのっている。これ、僕、大好きなんだ。
おにぎりもご飯も、前にこれを盗み食いした時に初めて食べて、味が忘れられないくらい大好きになった。だからすごく嬉しい。
いただきまーす!! あああ……おいしいい……
「やっぱりクラジュだったんだ」
え!? 誰!?
いきなり声をかけられて、僕は慌てて振り向く。そこには腕を組んで立つダンドがいた。
「だ、ダンド……」
「そのおにぎり、前にも盗んだでしょ?」
「え? え? う、うん……」
ば、ばれてたんだ……
「クラジュ!! 盗んだらダメだって言っただろ!!」
「ご、ごめんなさい!!」
僕はすぐに頭を下げた。うううー……ダンド、すごく怒ってる。盗んでおいて、図々しいのかもしれないけど、ダンドに嫌われるの、嫌だよ……
絶対すごく怒られると思ったのに、彼はそれ以上怒鳴らず、僕の頭にポンと手を置く。
「仕方ないな。クラジュは」
「え?」
「最初に黙認してた俺も悪かったんだ。だから、もういいよ」
「ダンド……」
「あ、でも、もう盗んじゃダメだよ?」
「うん!」
ホッとする僕に、ダンドはおにぎりが乗ったお皿を差し出してくれる。
「じゃあ、これはあげる」
「え!? で、でも……」
「もともと、クラジュのために作ったんだ。朝ごはん、食べてないだろ?」
「ダンド……あ、ありがとう……ありがとう! ダンド!!」
「うん。もう盗みにきちゃダメだからね」
「はい!!」
返事をして、早速おにぎりに手を伸ばす。うわああ……おいしいい……
「それ、気に入ったの?」
「うん! すっごくおいしいもん!」
「じゃあ、毎朝作ってあげるから、朝ごはん、ちゃんと食べにきて」
「……だって、朝はいつの間にか寝ちゃってて、起きたらお昼過ぎてるんだもん……」
「クラジュは自由だなー。じゃあ、お昼にお腹空いたら、俺に言って。クラジュの分のごはん、用意しておくから」
「うん! ありがとう!!」
おにぎりが美味し過ぎて、僕はあっという間に食べ終えてしまう。
ダンドは、お茶とスルメをすすめてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうー……おいしいかったああ……」
「よかった。これから部屋に戻るの?」
「え? えっと……あ……」
すっかり忘れてた!! 僕、ご飯を探しにきたんじゃないんだ!!
「ダンド! オーフィザン様、どこにいるか知らない?」
「オーフィザン様? 俺は知らないな……最近は俺、ずっとここにいるから」
「……そう……」
「オーフィザン様に何か用があるの?」
「うん……ちょっと謝らなきゃいけないことがあるんだ……」
「また?」
「……うん……」
「今度は何したの?」
「……オーフィザン様からいただいた服、破いた……」
「それで今、そんなに色っぽい格好してるの?」
「ううう……」
「分かった。俺も一緒に探すよ。まだ仕込みまで時間あるし」
「ダンドお……」
「外で待ってて。着替えてくるから」
「うん!」
しばらくして、ダンドは普段着に着替えて、一枚シャツを持って戻って来た。
「クラジュ、これ、羽織ってて」
彼は僕にシャツを渡してくる。
う、受け取っていいのかな? 服はオーフィザン様に渡されたものを着ることになっているのに。
「えっと……」
「早く着て」
「でも……僕、オーフィザン様にいただいた以外の服、着ていいのかわからないし……今日はお日様がポカポカであったかいから平気だよ」
「いいから着て。寒いとか寒くないとかいう問題じゃないから」
「う、うん……」
いいのかな……? でも、服、破れちゃってるし、シャツをもらえるのは嬉しい。服を着るくらい、大丈夫だよね!
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