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番外編3.ずっとここにいたい
81.ペロケに怒られた
しおりを挟むあーあ……オーフィザン様、行っちゃった。寂しいけど、ずっと寂しがっていても、オーフィザン様に心配をかけちゃう。また夜まで寝るか……
寝所で一人で待つの、最初はすごく寂しくて、我慢できなくて、部屋を抜け出して城の中をオーフィザン様を探して歩き回ったりしていた。その時は、オーフィザン様を見つけるより先にセリューに見つかっちゃって、怒鳴られて大急ぎで逃げて、寝所でメソメソ泣いていた。
だけど、最近になって、一人で待つのにも慣れてきた。
だって、この部屋、すっごく気持ちがいい。窓からあったかい太陽の光が入ってくるし、ベッドもふっかふか。
毛布の上で丸くなって、大切なぬいぐるみを抱きしめて、僕用にオーフィザン様が新しく用意してくださったふわっふわの毛布をかぶって眠ると、すごく幸せ。夜、全然寝てないから、昼間はすっごく眠い。
お日様、暖かい……ポカポカでふかふかあああ……夜になってオーフィザン様が戻るまで、ここでぐっすり眠ろう……あああ……気持ちいいよお……
オーフィザン様の許可がない限り、この部屋には誰も入れない。だから今は僕だけの部屋だ。
窓から入ってくる風も、すごく気持ちよくて、ますます眠くなる……だけど、お腹すいた。クッキー、もっと食べてから寝たい……
つい、天井に浮いているカゴを見上げちゃう。
朝食は、食堂まで降りていけばもらえる。だけど僕はあのクッキーが食べたい。
オーフィザン様は、いつも僕がクッキー食べすぎないように、おやつとジュースが入ったカゴを天井近くまで浮かせている。だけど、僕、結構ジャンプ力あるんだ。
ベッドの上で構えて飛び上がると、カゴまで簡単に届いた。やったあ!
浮いたカゴにしがみついたまま、クッキーを持てるだけ手に取った。
あれ? ドアの外から足音がする。ま、まさか、オーフィザン様!? わっ!
びっくりした僕は、バランスを崩して床に落ちちゃった。
いたた……うわあ! クッキーとジュースまで落ちてきた!!
それは僕には当たらなかったけど、クッキーは床に落ちて割れちゃうし、ジュースは床にこぼれちゃう。瓶が割れないのは、多分、オーフィザン様の魔法のおかげだろう。だけど、床はクッキーとジュースでぐちゃぐちゃ……どうしよう……拭かなきゃ!!
僕は急いでベッドの上のタオルで床を拭いた。
あ、あんまり綺麗にならない。雑巾じゃないとダメだ。
焦っていると、何かが窓から飛び込んできた。ペロケだ。
大きな花束を持った彼は、部屋の中をキョロキョロ見渡して言った。
「オーフィザン様!? どうされました!? ……って、クラジュかよ……」
「……お、おはようございます……」
床に散らばったクッキーとジュースを見られたら困る。僕は挨拶をしながら、それらをベッドの下に追いやった。
ペロケとは一ヶ月前のパトの一件からますます険悪な仲になっちゃったんだよなあ……
今もペロケは、僕をものすごくうざそうに見ている。
「なんでお前みたいな奴がまだここにいるの?」
「だ、だって僕、オーフィザン様のお相手をしないといけないから……ぺ、ペロケさんこそ、なんでここに入ってくるんですか? この部屋、オーフィザン様の許可がなかったら入っちゃダメなのに……」
「そんなの、お前なんかに言われなくても知ってる。僕はオーフィザン様のお部屋からすごい音がしたから、オーフィザン様に何かあったのかと思って来たの!! そしたらお前だったなんて……」
「し、心配かけてごめんなさい……」
「お前の心配なんて、誰がするもんか。またオーフィザン様のお部屋を散らかして!!」
ペロケは汚れた床を指す。うわああ! バレてた!!
「お前って、オーフィザン様に迷惑かけるためにいるの?」
「そ、そんなことないです……」
「でも、迷惑しかかけてないじゃん。オーフィザン様のお部屋を汚すなんて、信じられない。お前は早く出て行って!! 僕が掃除するから!!」
「掃除なら、僕がします!」
「お前に掃除なんかできるはずない! 掃除の前にその格好、なんとかしろ!」
「こ、これはオーフィザン様からいただいた服で……」
「そういうことじゃないよ!」
ペロケ、ちょっと顔が赤い。そんなに怒ってるのかな?
「とにかく、掃除は僕がするから、お前は出て行って。そうだ。せっかくだから、今朝咲いたこの花も飾ろう!」
「じゃあ、僕が飾ります!」
僕だって、オーフィザン様のお部屋を綺麗にしたい。だけど、ペロケは花束を背後に隠しちゃう。
「お前なんかに触られたら花が萎れちゃう。それに、お前に花を生けるなんて無理だろ? どうせ花瓶をひっくり返すくせに」
「ううう……」
いかにも僕がしそうなことを言うから、反論できない……
「お前みたいな役立たず、いらないんだよ。早く出て行って。もうお前がここにいる必要、ないんだから!」
「お、オーフィザン様は、いたかったらいていいって言ってくれました……」
「そんなの、オーフィザン様はすごく優しいからそうおっしゃっただけ。本当は役立たずでドジなお前には出て行って欲しいんだよ!」
「そ、そんなことありません!!」
「あるよ。だいたい、この部屋だって、お前がいたらぐちゃぐちゃに散らかすに決まってる。早く出て行ってー!!」
「散らかしません!! 見ていてください!!」
僕は、棚の上の香炉に手を伸ばした。だけど、それは棚から動かない。
「ほら! オーフィザン様が部屋のものが壊れないように魔法をかけてくれたんです!! だから、僕がここにいても大丈夫なんです!!」
「……なんでそれをそんなに嬉しそうに話せるの?」
「え? だって、オーフィザン様、僕のためにしてくれたから……嬉しいから……」
「……僕には、役立たずなお前がオーフィザン様に甘えているようにしか思えない!! バカ猫は早く出て行ってーーっ!!」
うううー……ペロケ、ちょっとひどい。ペロケが僕を嫌いなのは知ってるけど、そこまで言わなくても……
「ぺ、ペロケさん……僕、バカだけどオーフィザン様のお役に立ちたいって思ってるんです。そ、そんなに言わなくても……」
「花も生けられないお前に、役に立つなんてぜーったい無理!!」
「無理じゃありません!! は、花を花瓶に入れるくらいできます!! 花、かしてください!」
僕は手を伸ばすけど、ペロケは花を高くあげて、羽を羽ばたかせ天井まで飛び上がる。
「残念でしたー。欲しければここまでくれば? 役立たず」
うー……このまま役立たず扱いされたままなんて嫌だ!!
僕はペロケに飛びかかった。
「花、渡してください!!」
「は、離してよっ!! バカ猫!」
「やだ! 花! ください!!」
「離して……うわ!!」
僕が無理やり花に手を伸ばすと、ペロケはバランスを崩して、床に落ちてしまう。一緒に僕も床に落ちて、尻餅をついた。
いたた……あれ? お尻、冷たいよ……
うわーーっ!! ま、まずい……お尻にペロケの花、敷いちゃってる!! 花びらが散ってぐちゃぐちゃ……ど、どうしよう……
恐る恐るペロケを見上げると、彼は今まで見たことがない顔で、僕を見下ろしていた。怖い……
「クラジュ……お前……」
「ぺ……ペロケさん……お、怒らないで……」
「なんでそんなことが言えるの……もう……お前なんか……お前なんか……」
ゆっくり、僕が震え上がるような声で言いながら、ペロケは果物かごに手を伸ばす。そこには皮をむくための果物ナイフが置いてあった。
え……え? ぺ、ペロケ?
「お前なんか……出て行かないなら……僕が殺してやるっ!!」
「わああああっ!!」
悲鳴をあげて、僕は部屋から逃げ出した。
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