【本編完結】ネコの慰み者が恋に悩んで昼寝する話

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
81 / 174
番外編3.ずっとここにいたい

81.ペロケに怒られた

しおりを挟む

 あーあ……オーフィザン様、行っちゃった。寂しいけど、ずっと寂しがっていても、オーフィザン様に心配をかけちゃう。また夜まで寝るか……

 寝所で一人で待つの、最初はすごく寂しくて、我慢できなくて、部屋を抜け出して城の中をオーフィザン様を探して歩き回ったりしていた。その時は、オーフィザン様を見つけるより先にセリューに見つかっちゃって、怒鳴られて大急ぎで逃げて、寝所でメソメソ泣いていた。

 だけど、最近になって、一人で待つのにも慣れてきた。
 だって、この部屋、すっごく気持ちがいい。窓からあったかい太陽の光が入ってくるし、ベッドもふっかふか。

 毛布の上で丸くなって、大切なぬいぐるみを抱きしめて、僕用にオーフィザン様が新しく用意してくださったふわっふわの毛布をかぶって眠ると、すごく幸せ。夜、全然寝てないから、昼間はすっごく眠い。

 お日様、暖かい……ポカポカでふかふかあああ……夜になってオーフィザン様が戻るまで、ここでぐっすり眠ろう……あああ……気持ちいいよお……

 オーフィザン様の許可がない限り、この部屋には誰も入れない。だから今は僕だけの部屋だ。

 窓から入ってくる風も、すごく気持ちよくて、ますます眠くなる……だけど、お腹すいた。クッキー、もっと食べてから寝たい……

 つい、天井に浮いているカゴを見上げちゃう。

 朝食は、食堂まで降りていけばもらえる。だけど僕はあのクッキーが食べたい。

 オーフィザン様は、いつも僕がクッキー食べすぎないように、おやつとジュースが入ったカゴを天井近くまで浮かせている。だけど、僕、結構ジャンプ力あるんだ。

 ベッドの上で構えて飛び上がると、カゴまで簡単に届いた。やったあ!

 浮いたカゴにしがみついたまま、クッキーを持てるだけ手に取った。

 あれ? ドアの外から足音がする。ま、まさか、オーフィザン様!? わっ!

 びっくりした僕は、バランスを崩して床に落ちちゃった。

 いたた……うわあ! クッキーとジュースまで落ちてきた!!

 それは僕には当たらなかったけど、クッキーは床に落ちて割れちゃうし、ジュースは床にこぼれちゃう。瓶が割れないのは、多分、オーフィザン様の魔法のおかげだろう。だけど、床はクッキーとジュースでぐちゃぐちゃ……どうしよう……拭かなきゃ!!

 僕は急いでベッドの上のタオルで床を拭いた。

 あ、あんまり綺麗にならない。雑巾じゃないとダメだ。

 焦っていると、何かが窓から飛び込んできた。ペロケだ。

 大きな花束を持った彼は、部屋の中をキョロキョロ見渡して言った。

「オーフィザン様!? どうされました!? ……って、クラジュかよ……」
「……お、おはようございます……」

 床に散らばったクッキーとジュースを見られたら困る。僕は挨拶をしながら、それらをベッドの下に追いやった。

 ペロケとは一ヶ月前のパトの一件からますます険悪な仲になっちゃったんだよなあ……

 今もペロケは、僕をものすごくうざそうに見ている。

「なんでお前みたいな奴がまだここにいるの?」
「だ、だって僕、オーフィザン様のお相手をしないといけないから……ぺ、ペロケさんこそ、なんでここに入ってくるんですか? この部屋、オーフィザン様の許可がなかったら入っちゃダメなのに……」
「そんなの、お前なんかに言われなくても知ってる。僕はオーフィザン様のお部屋からすごい音がしたから、オーフィザン様に何かあったのかと思って来たの!! そしたらお前だったなんて……」
「し、心配かけてごめんなさい……」
「お前の心配なんて、誰がするもんか。またオーフィザン様のお部屋を散らかして!!」

 ペロケは汚れた床を指す。うわああ! バレてた!!

「お前って、オーフィザン様に迷惑かけるためにいるの?」
「そ、そんなことないです……」
「でも、迷惑しかかけてないじゃん。オーフィザン様のお部屋を汚すなんて、信じられない。お前は早く出て行って!! 僕が掃除するから!!」
「掃除なら、僕がします!」
「お前に掃除なんかできるはずない! 掃除の前にその格好、なんとかしろ!」
「こ、これはオーフィザン様からいただいた服で……」
「そういうことじゃないよ!」

 ペロケ、ちょっと顔が赤い。そんなに怒ってるのかな?

「とにかく、掃除は僕がするから、お前は出て行って。そうだ。せっかくだから、今朝咲いたこの花も飾ろう!」
「じゃあ、僕が飾ります!」

 僕だって、オーフィザン様のお部屋を綺麗にしたい。だけど、ペロケは花束を背後に隠しちゃう。

「お前なんかに触られたら花が萎れちゃう。それに、お前に花を生けるなんて無理だろ? どうせ花瓶をひっくり返すくせに」
「ううう……」

 いかにも僕がしそうなことを言うから、反論できない……

「お前みたいな役立たず、いらないんだよ。早く出て行って。もうお前がここにいる必要、ないんだから!」
「お、オーフィザン様は、いたかったらいていいって言ってくれました……」
「そんなの、オーフィザン様はすごく優しいからそうおっしゃっただけ。本当は役立たずでドジなお前には出て行って欲しいんだよ!」
「そ、そんなことありません!!」
「あるよ。だいたい、この部屋だって、お前がいたらぐちゃぐちゃに散らかすに決まってる。早く出て行ってー!!」
「散らかしません!! 見ていてください!!」

 僕は、棚の上の香炉に手を伸ばした。だけど、それは棚から動かない。

「ほら! オーフィザン様が部屋のものが壊れないように魔法をかけてくれたんです!! だから、僕がここにいても大丈夫なんです!!」
「……なんでそれをそんなに嬉しそうに話せるの?」
「え? だって、オーフィザン様、僕のためにしてくれたから……嬉しいから……」
「……僕には、役立たずなお前がオーフィザン様に甘えているようにしか思えない!! バカ猫は早く出て行ってーーっ!!」

 うううー……ペロケ、ちょっとひどい。ペロケが僕を嫌いなのは知ってるけど、そこまで言わなくても……

「ぺ、ペロケさん……僕、バカだけどオーフィザン様のお役に立ちたいって思ってるんです。そ、そんなに言わなくても……」
「花も生けられないお前に、役に立つなんてぜーったい無理!!」
「無理じゃありません!! は、花を花瓶に入れるくらいできます!! 花、かしてください!」

 僕は手を伸ばすけど、ペロケは花を高くあげて、羽を羽ばたかせ天井まで飛び上がる。

「残念でしたー。欲しければここまでくれば? 役立たず」

 うー……このまま役立たず扱いされたままなんて嫌だ!!

 僕はペロケに飛びかかった。

「花、渡してください!!」
「は、離してよっ!! バカ猫!」
「やだ! 花! ください!!」
「離して……うわ!!」

 僕が無理やり花に手を伸ばすと、ペロケはバランスを崩して、床に落ちてしまう。一緒に僕も床に落ちて、尻餅をついた。

 いたた……あれ? お尻、冷たいよ……

 うわーーっ!! ま、まずい……お尻にペロケの花、敷いちゃってる!! 花びらが散ってぐちゃぐちゃ……ど、どうしよう……

 恐る恐るペロケを見上げると、彼は今まで見たことがない顔で、僕を見下ろしていた。怖い……

「クラジュ……お前……」
「ぺ……ペロケさん……お、怒らないで……」
「なんでそんなことが言えるの……もう……お前なんか……お前なんか……」

 ゆっくり、僕が震え上がるような声で言いながら、ペロケは果物かごに手を伸ばす。そこには皮をむくための果物ナイフが置いてあった。

 え……え? ぺ、ペロケ?

「お前なんか……出て行かないなら……僕が殺してやるっ!!」
「わああああっ!!」

 悲鳴をあげて、僕は部屋から逃げ出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。 突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。 貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。 お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。 やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...