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番外編2.出張中の執事(三人称です)
77.疑い
しおりを挟む同じ頃、セリューは、城で荷物をまとめていた。
明日には帰る。だからこそ、用事をすませておきたいのに、呼びつけた相手はいつまでたっても来ない。早くしないと、ダンドが戻って来てしまう。
苛立ちながらも、帰る用意を全て終えた頃、やっとドアがノックされた。
「こんにちはー。あ、いたいた! セリューさん!」
「遅かったですね」
振り向くと、部屋に入って来たフィッイルは、遅れて来たにもかかわらず、クレープを片手に、頬にクリームをつけている。
「このクレープ、すっごく美味しいですねー……城下町って、最高です!」
「……お金も持っていないのに、よく買えましたね……」
「シーニュさんが買ってくれました。僕がお腹空いたって言ったら、これが美味しいって教えてくれて」
「シーニュさんは図書館での仕事を続けられなくなり、求職中のはずです。それなのに、よくそんなものをねだれましたね」
「……そうなんですか? 僕知らなくて……シーニュさんって、すごく親切なんですね」
「……」
「ところで、セリューさん、何の用ですか?」
「……聞いておきたいことがあります……」
セリューは、窓際のテーブルにつき、フィッイルにも向かいの椅子に座るようすすめて、一息置いてから話し始めた。
「耳と尻尾のないダンドが、狐妖狼だと、よく分かりましたね」
「僕たちはそんなものなくても、力を感じることができるし、匂いだって他の種族と狐妖狼は違うんです! だから分かったんです! 助けてくれて、本当にありがとうございました!」
「あなたはあの場にいなかったのに、そんなことができるのですか?」
「僕、下手だけど一応魔法使いだから…………」
「あれだけ下手なあなたでもわかるものですか?」
「分かります……セリューさん、どうしたんですか? なんだかいつもの倍怖いです……」
「本当のことを話せば、何もしません」
「……僕のこと、疑ってるんですか?」
「はい。ダンドは狐妖狼の匂いが苦手なんです。オーフィザン様は普段それすら封じていました。あの方が隠したことを、あなた程度の魔法使いが見抜けるはずがない」
「……失礼な人だな……」
「あなたは自分で魔法は下手だと言ったじゃないですか」
「言いましたけど、同じ狐妖狼は分かるだけです……」
「先ほど、魔法は下手だと言いましたが、では、なぜこの部屋に私がいることがわかったのです? 私はこの部屋の場所を教えていません。魔法を使ったのではないのですか? 魔法が下手だというのは本当ですか?」
「本当です! 部屋の場所は城の中を歩いている人に聞きました!! なんで疑うんですか!!」
「私は、あなたのことはどうでもいいんです。ただ、ダンドに何かする気なら、放っては置けません。あなたはどこから来たんですか? 城下町に住み着いている狐妖狼ではないですね?」
「この町に住んでます! 本当です!」
「確かにこの町には、しばらく前から住み着いた狐妖狼たちがいるそうです。しかし、そのリストには、あなたの名前がありません」
「そ、そんなの調べたんですか!?」
「調べました。なぜあなたの名前がないのですか?」
「いーっぱいあるから、見逃したんじゃないんですか?」
「そんなはずありません。二度確認しました」
「……よくそんな面倒くさいことしますね……」
「あなたはどこから来たんですか?」
「森の中から来ました。森にも狐妖狼は住んでいるんです」
「群はどうしました?」
「はぐれちゃいました」
「探さないのですか?」
「探しても、見つからなくて」
「匂いで探せないのですか?」
「犬じゃないんだから、無理です」
「では、耳と尻尾で探知できないのですか?」
「無理です。なぜか分からないけど、無理です」
「理由がわからないのは、なぜですか?」
「……なんでそんなに問い詰めるんですか……?」
「あなたが正体を表そうとしないからです。正体も目的もわからないまま、あなたを放置するわけには行きません。先ほど言ったでしょう。ダンドに何かする気なら、私が止めます」
「ああ……」
フィッイルは呟いて、セリューに背を向ける。しばらく窓の外を見ていたが、突然、先ほどまでの不安そうな表情は嘘だったかのような笑顔で振り向いた。
「安心してください! ダンドさんには、もうなんの興味もありません!」
「どういう意味ですか?」
「あなたみたいにウザい奴につきまとわれたらダニがうつるからお話ししますけど、僕、ダンドの群れの奴らから頼まれて来たんです。あいつを探して、群れに連れ帰って欲しいって。あいつ、力も強いし、狩の腕前も群れで一番だから、手放したくないみたいです。それで、魔法であいつを探してこの城下町に来ました」
「ここへ来た時に、伯爵に誘われたのですか?」
「はい。銀竜の巣を探してくれって言われました。その仕事が終わってから、コリュムにいい話があるって言われて。釘の事件を起こしたんですけど、そしたらオー……じゃなくて……その……やっぱりこんなことダメだって考え直して、あー……あんまりひどいことしないようにしてたんです。そしたらコリュムのやつ、キレてあんなところに僕を閉じ込めたんです。ひどいですよね!」
「魔法で逃げなかったんですか?」
「逃げられたら逃げました。だけど、最初の事件を起こしたとき、ものすごく嫌なやつに脅されちゃって、それで魔力が回復するまで、ろくな魔法使えなくなっちゃってたから、逃げられなかったんです」
「ダンドを連れて行く気は無いんですね?」
「ありません。狐妖狼に怯えるなら、連れて行くのは楽そうだけど、あれにはあなたやオ……すごく嫌な奴がついているし、伯爵の二の舞は御免です。狩なんて、もうできないでしょうしね。群にもそう連絡しました。もう、ダンドにつきまとうようなことはしないそうです。まあ、どこまで本当かわかりませんけど。僕はこれから遊んで暮らします。この町にいるのも、楽しいので」
「……分かりました。それなら、もういいです。用は終わりました」
「よかった! じゃあ、失礼しまーす!」
「……くれぐれも、ダンドに手を出さないように」
「はいはい。もう興味ありません。だいたい、あんなの連れ帰っても、狩なんて無理だし──わっ!」
いきなり胸ぐらを掴みあげられ、フィッイルは驚いてセリューを見上げている。しかし、さっきの言葉は許せない。
「え? え? なに?」
「ダンドを侮辱するな……」
「……はい」
許したわけではいが、一応返事をしたので、離してやる。フィッイルは服を整えて、部屋を出て行こうとするが、ドアのところで立ち止まり、振り向いた。
「じゃあ、僕、行きます。そっちこそ、僕につきまとったりしないでくださいね」
「私はしない。ですが、もっと真面目に誓った方がいいですよ。ダンドには二度と手を出さないと。さもないと、後で恐ろしい目にあいます」
セリューが答えると、彼はそれを笑い飛ばす。
「馬鹿だねー。僕を脅すの? 言っておくけど、もう魔法、ちゃんと使えるよ? 試しにお前の頭、吹き飛ばしてやろうか?」
「……誓う気はないのですね……仕方ありません。私では魔法使いのあなたには勝てませんので、どうぞ、お帰りください」
「はーい。じゃあねー。腰抜け」
フィッイルはこちらを嘲笑して出て行った。
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