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番外編2.出張中の執事(三人称です)
67.執事
しおりを挟むしばらく二人で話していると、シーニュがドアを開けて部屋に入ってくる。彼は水を入れたコップと、パンを乗せたお盆を持っていた。
「これ……水。あと、大したもんじゃないけど、食事です……」
「ありがとうございます」
「助かったー」
ダンドと交互に礼を言って、二人でパンに手を伸ばした。もう日が暮れようとしている。腹が減るのも当然だ。
食事をとると、少し落ち着いた。水を飲み干して、ダンドがたずねてくる。
「これからどうする? セリュー」
「……シーニュさんまで巻き込んでしまっている。その上、城下町に銀竜が現れたとなれば、もう、悠長にはしていられない……」
「銀竜のこと、陛下に伝えた方がいいよね? 伯爵の領地だけじゃなく、ここまで襲う気かもしれないって」
「……いいや。見ろ」
セリューは、あの銀竜が落としていった鍵を取り出して見せた。
それを見て、ダンドは首をかしげる。
「それ、なに?」
「銀竜が落としたものだ。ここを見ろ。オーフィザン様の印がある。これは、オーフィザン様が陛下に贈られたものだ」
「陛下に? なんでそれを銀竜が……」
「……これは秘密だぞ」
「え? 何を……?」
「これは三年前に盗まれ、ヴァティジュ伯爵に渡ったはずなんだ」
「ぬ、盗まれた!?」
「ああ。盗み出したのは私の父だから、間違いない」
「父って……お、お父さん!? なんでセリューのお父さんがそんなの盗んで伯爵に渡すの!?」
「これを使って、伯爵にとりいり、失脚を免れようとしたらしい。トライメトからの情報だから、間違いない」
「……じゃあ、今はフイヴァ家にあるはずってこと?」
「ああ」
「……銀竜が人間の家から盗みを働くとは思えない……あれは同族でも食欲を満たすために平気で殺す。皆殺しにして奪うなら分かるけど、鍵だけ盗んで行くはずがない。そういえば、ブレシーさんも銀竜のこと、怪しいって言ってたね。伯爵が竜と組んでるとか……」
「……もしも、銀竜と伯爵が結託しているのなら、今、フイヴァの領地で銀竜と戦っているオーフィザン様が心配だ。以前、魔物の件で城に赴いた時、伯爵と言い争っておられたし、伯爵は銀竜の討伐を頼みにきた時は、ずいぶん困って下手に出ていた様に見えたが、オーフィザン様をよく思っていないはず……陛下を襲った魔物の件が、ブレシーの言うとおり、伯爵の差し金だったとしたら、なおさら、それを邪魔したオーフィザン様を放っては置かないだろう」
「……オーフィザン様に連絡は取れないの?」
「やってみよう」
セリューはカバンから、ガラス玉を取り出した。それを床にグッと押し付けると、それは氷のように溶けて、床に丸い水たまりを作る。それに向かって、セリューは問いかけた。
「オーフィザン様……オーフィザン様……」
何度か呼びかけると、その表面が光り、そこからオーフィザンの声がした。
『どうした? セリュー』
「オーフィザン様、どうかフイヴァを信用なさらないでください」
『……出し抜けになんだ……何かあったのか?』
「……申し訳ございません……こちらに銀竜が現れ、オーフィザン様が作られた鍵を持っていたのです。ヴァティジュ伯爵に渡ったはずのものです。伯爵と銀竜たちは結託している可能性があります」
『なるほどな………………釘の件はどうなった?』
「あれはコリュムの仕業で、まず間違いありません。事件翌日に釘の打たれた場所にコリュムがいたと言う証言がありますし、あれは狐妖狼しかもたないというペンダントを持っていました。まだ犯人だと言うには証拠は乏しいのですが、犯人はコリュムで決まりでしょう」
『よし……セリュー、ダンドとともに、フイヴァの屋敷に向かい、今回のことの証拠を探せ。釘にしろ、銀竜にしろ、あれのもとに解決の糸口があるはずだ』
「承知しました」
『期待しているぞ。好きにやれ。お前はもう、私の執事なのだからな』
オーフィザンがそう言うと、セリューが返事をする前に、床にできた水たまりはガラス玉に戻った。たまに強引なオーフィザンだが、今回は特に一方的な気がする。
セリューはガラス玉をカバンに戻した。
「ダンド、動けるか? フイヴァの屋敷へ向かうぞ」
「でも、セリュー、オーフィザン様は大丈夫かな? もしも、銀竜と伯爵が手を組んでいるのなら、オーフィザン様は敵の領地にたった一人でいることになる。いくらオーフィザン様でも、銀竜の群れが相手だ。その上、背後にかばう者たちまで敵となれば、寝首を掻かれることもあるかもしれない……伯爵の狙いがオーフィザン様であるのなら、銀竜討伐のためにと集められた奴らも敵だ。セリュー、俺はフイヴァの領地へ向かう」
「今私たちが行っても、銀竜一匹でこうなる私たちでは、足手まといになるだけだ」
「危険は知らせるべきだ!!」
「知らせるだけなら、いましただろう。フイヴァの屋敷へ向かうことが、オーフィザン様のご命令だ」
「命令なんかよりオーフィザン様の命の方が大事だ!! それでよくオーフィザン様に仕えるなんて言えるなっ!! オーフィザン様のことが心配じゃないのかっ!?」
「そうじゃない!! 今私たちにできるのは、フイヴァの屋敷へ向かい、あれが企んでいることを探ることだけだ!! 伯爵がオーフィザン様を狙っているとしても、あれはまだ城にいる! 何か他に目的があるのかもしれない! それを突き止める!! 私たちは、私たちにできることをして、オーフィザン様をお助けするべきなんだ!」
「……」
ダンドは少し黙ってから、頷いた。
「分かった……行く……でも、無理だと思ったら、俺はフイヴァの領地へ行くから……」
「……ああ」
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