【本編完結】ネコの慰み者が恋に悩んで昼寝する話

迷路を跳ぶ狐

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番外編2.出張中の執事(三人称です)

52.城

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 セリューとダンドが二人で廊下を歩いていると、向こう側から誰か走ってくる。長い金髪の、セリューと同じくらいの身長の男、ブレシーだ。

 彼はセリューに駆け寄ってくる。

「こ、こんにちは! セリューさん!」
「ブレシー、久しぶりですね」
「お久しぶりです! オーフィザンのところから使者が来てるって聞いて挨拶がしたくて……会えて嬉しいです!」
「私もです……」

 ブレシーとは、王城にいた頃、よく愚痴を言い合ったりしていた。フイヴァ家の三男で、少し抜けたところがあり、城内のこと以外に全く興味を持たないが、誰にでも愛想がいい男だ。

「セリューさん、二ヶ月前はありがとうございました。魔物、退治してくださって」
「あれを退治したのはオーフィザン様です」
「分かっています。頼りになる方ですね。今回は、例の釘の事件のことでいらしたんですよね?」
「はい」
「僕、ずっとお城にいるので、あまり事件のことは知りませんが、ここの中のことは話せます。この前のお礼です。頼ってください!!」
「ありがとうございます。早速ですが、地図をいただけますか?」
「地図? セリューさん、お城の中のこと、忘れちゃったんですか?」
「城の地図ではなく、城下町の地図です」
「分かりました。城下町の調査に来たんでしたね。あの釘、町の人たちも怖がってるらしいですよ。怖いですねー」
「……適当に言っているようにしか聞こえないのですが、事件のことをどれくらい知っていますか?」
「あはは。すみません。全然知りません。僕、この城か屋敷にいるんで、城下町のことなんて、全くわからないんです。屋敷で召使いに少し聞いたくらいですね。だって、ほら、最近、僕たちの屋敷にも泥棒が出たり、領土に銀竜が出たり、他のことで大変なんです。城下町の小さな騒ぎにまで構っていられません」
「銀竜の件は、オーフィザン様から聞きました。群れが領地を襲ったとか。あなたはこんなところにいていいのですか?」
「僕が行ったって、何もできません。領地の方では、武神と名高いトライメト兄さんが兵を率いて戦っています。僕なんか行ったって、邪魔なだけですよ。あははは」
「伯爵も、今はそちらに?」
「いいえ。この城にいます。父上だって、トライメト兄さんに領地は任せっぱなしです。釘のことだって、城の貴族たちはほとんど気にしてません。町の警備隊が頑張ってくれてるんじゃないかなあ? 城下町で聞いてみてください」

 ブレシーがそう言ったところで、セリューは、廊下の向こうから不気味に派手な男が歩いてくるのに気づいた。ブレシーの兄で、フイヴァ家の長男のコリュムだ。

 彼はフイヴァの次期当主と言われており、三男のブレシーは頭を下げて道をあけた。

 せめて次男のトライメトがいれば、コリュムは少しは大人しいのだが、あいにく彼は領地で銀竜の相手をしている。

 コリュムは、必要以上にセリューに近づいてきて、ニヤリと笑った。

「セリュー、久しぶりだな……まさか、お前にまた会えるなんて思っていなかったぞ」
「……私もです。では、調査に向かいますので、これで失礼します」
「おい、待て」

 とにかく早くこの男から遠ざかりたい。しかし、足早に歩き出したセリューの腕を、コリュムは乱暴に掴んでしまう。

「これからティータイムなんだ。来い」
「申し訳ございませんが、私は調査が」
「待て!!」

 コリュムはセリューを引き寄せ、凄んでくる。

 この男は、いつも強引で傲慢だ。城を出て、この男から離れられた時はホッとしたのに、また出会ってしまった。

 できるだけコリュムから離れようと体を引くセリューに、コリュムは気味の悪い声で言った。

「落ちた貴族の分際で逆らうな。誰のおかげで処分を免れたと思っているんだ? ん? お前が両親の件で処分されそうになったのを、俺が救ってやったんだぞ? それなのに城から逃げ出した馬鹿な恩知らずが、頭を上げて話すな。お前のようなクズをフイヴァ家の次期当主が誘ってやってるんだぞ。感謝の言葉はどうした?」

 一気にセリューの頭に血がのぼった。

 しかし、カッとなったセリューが手を出す前に、ダンドが二人の間に入ってきた。

「やめてください。俺ら、これから調査に行かないといけないんです。もうすぐ日も暮れるし、話はまた後で」
「……フイヴァ家の次期当主に向かって、待っていろ? 山奥の魔法使いに使われている下衆が、何様だ!! 今すぐ土下座しろ!!」
「……そんなこと言われても……ふいゔぁけって、言われても、俺には分からないんです」
「……は? なんだと? まさか、知らないのか? フイヴァ家を」
「知りません。俺はずっと、オーフィザン様のもとで働いていたんです。だからあなたのことなんて知りません。残念だけど、あなたの権力なんて、その程度です」
「なんだと……?」
「コリュムさん、ずっとこの狭苦しい城で踏ん反り返っていたんじゃ分からないと思いますけど、あなたの権力が届かないところはいくらでもあります。俺らにそんなことを言っても、従いませんよ。俺らはお前達の王の下にいるんじゃない。お前達が決めた身分に従うつもりもない。俺たちの主人は、オーフィザン様ただ一人だからね」
「……なんだと……貴様ああっ!!」

 ついに理性をなくしたコリュムが拳を上げる。その腕を、セリューはつかんで止めた。

「やめろ。ダンドの言うとおりだ」
「離せえっ!! 貴様……」

 こちらを振り払おうとコリュムが暴れたので、セリューはつい、つかんだ腕を握りつぶしそうなほど力を入れてしまう。コリュムはうめき、驚いた顔でセリューを見下ろした。

 この城にいた時は、セリューもこんな風に感情をあらわにして苛立つことはなかったのだ。

 コリュムが黙り、セリューに少しずつ、理性が戻ってくる。何も言わなくなったコリュムの腕を乱暴に投げ捨て、セリューはダンドの手を引き歩き出した。

 コリュムはもう、セリューにもダンドにも手を出そうとはしなかった。
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