【本編完結】ネコの慰み者が恋に悩んで昼寝する話

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
42 / 174

42.目が覚めるのを待つ

しおりを挟む

 えええーー!! こ、こ、ここ、五階なのに、本当に放り出すなんて!!

 落ちる!!

 死ぬかと思ったけど、地面に激突する前に、誰かに抱きとめらてもらえた。え……オーフィザン様!?

「ちっ……クラジュかよ……」

 ペロケだった……彼は、すごーく嫌そうな顔で僕を抱きかかえ、庭に僕を下ろしてくれた。

「なんでお前なの……助けなきゃよかった……」
「お、怒らないで……あ、ありがとう……ございます……」
「別にお前を助けようとしたんじゃない。空から誰か落ちてくるから、お前以外の人かと思って助けたの」
「で、でも、ありがとう……あの……き、謹慎は?」
「これ」

 ペロケが、自分の首に巻かれた細い鎖を指す。それに下げられた、丸い鉄のプレートには、お仕置きって書いてあった。

「歩き回れるのは城の中の一部だけで、外出は禁止。だけど、あの部屋からは出ていいことになった。庭と、果樹園のお世話の手伝いをして欲しいって言われてる」
「い、忙しい……です……ね……」
「うん。すごく。だからもう、庭を荒らさないで。なんで落ちてきたの?」
「あ、あの……オーフィザン様の看病に行こうとしたら、窓から放り出されて……」
「看病? お前に看病なんて、できるわけないだろ!」
「でも……」
「オーフィザン様はお疲れなの! 魔力が回復するまで、ゆっくり休まないといけないんだ。誰にも会いたくないんだって」
「そ、そうなの……? ……じゃあ、僕……な、何かできること……あ!!」
「なに? お前にできることなんかないから。大人しく昼寝でもしてれば?」
「そ、そんなこと言わないで……あの……あの……」
「なに?」
「う……あ、あの……ぺ、ペロケ…………あの……は、ははは花を摘ませてくれませんか?」
「お前……喧嘩売ってるの?」
「ち、違うよ! お、オーフィザン様に……お見舞いの花を……」
「……お前には摘ませたくない。僕が摘む。僕が持って行きたいけど、オーフィザン様の部屋には入れないから……セリュー様に渡して」
「…………え……えええ……セリュー様に……?」
「うん。言っただろ? オーフィザン様は誰にも会いたくないんだ。セリュー様なら、そっと部屋に花を飾ることができるから」
「……せ、セリュー様は僕と話してくれないから……ぺ、ペロケ……が渡せば……」
「……無理なの。僕、オーフィザン様を裏切って情報を売ったから、セリュー様に会ったら切り刻まれちゃうもん」

 うう……セリューならしそう。だけど、そうされそうなのは僕も同じだ。

 怖いし嫌だ。でも、オーフィザン様に、お見舞いの花を渡したい。オーフィザン様に少しでも元気になって欲しい。

「……わ、分かった。僕が……セリュー様に……わ、渡し……ます……」







 うーん……どうしよう……

 花束とクッキーを持って、オーフィザン様の部屋に向かう廊下まで来たのはいいんだけど、やっぱり、セリュー、まだいる……

 オーフィザン様の部屋の前の机から、柱の陰に隠れている僕のことをずーっと睨んでる。

 部屋には絶対入れてくれそうにないなあ……

 うううー……い、入れてもらえないなら、せめて、預かったものだけでも渡す!!

 僕は、花束とクッキーを持って、ゆっくりセリューに近づいた。

 セリューも立ち上がる。

「まだ何か用ですか……? 何度来てもここは通しません……」
「あ、あの……と、通りはしません……こ、これをオーフィザン様に渡していただけませんか……?」

 僕は花束とクッキーをセリューに差し出した。

「ぺ、ペロケから花束と、だ、ダンドから、く、クッキーです! お、お見舞いです!」
「……オーフィザン様の部屋に入ることはできません……それは私も同じです。それを持って部屋に帰りなさい」
「…………じ、じゃあ、せめて、ここで待たせてください! お、オーフィザン様の目が覚めるまで……僕、ここで待ってます! 廊下で待つくらいなら、いいですよね!」
「目障りです」
「う、うー……じ、じゃあ、待っててください!」

 僕は、今日の朝まで寝ていた部屋に走って戻って、急いで毛布を持って来た。

 戻って来た僕を見て、セリューはうんざりした顔でまた立ち上がるけど、僕は、セリューから少し離れたところで毛布をかぶって自分の姿を隠した。

「これでもう僕の姿、見えないですよね? だから、ここにいていいですよね!?」
「………………は?」
「見えないならいいんですよね!? お、オーフィザン様が部屋から出て来るまで……ぼ、僕、ここで待ちます!!」

 毛布で顔も隠しちゃったから、セリューの姿すら見えない。そして何も言わないから、返事は分からなかった。だけど、さっきみたいに窓から捨てたりもしない。

 恐る恐る毛布から顔を出してみると、セリューは机でまた仕事を始めている。

 ここで待つこと、許してくれたんだ……早くオーフィザン様の目が覚めるといいな……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...