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35.なんで来てくれたの?
しおりを挟むなんとか枷は外れたけど、鞭で打たれたところが痛くて、僕はその場に座り込んでしまう。
「い、いた……」
うううー……ちょっと動くだけでも痛い。だけど、痛がってる場合じゃない。
逃げなきゃ! でないと、あいつらが戻ってくる!
僕は、枷を外してくれた尻尾を拾い上げ、それをポケットにしまった。
パトたちが出て行ったドアは開かない。鍵がかかっているんだ。だけど、そのドアとは別に、背後に、隠れるようにして小さなドアがあるのを見つけた。
開くかな?
それに駆け寄って、ノブを握る。鍵、かかってない!!
パトたちが出て行った方を警戒しながら、音を立てないようにゆっくりドアを開けた。
わ……もう外だ! こんなにすぐに出れるなんて、ラッキー!
ドアを開けた先は、全然知らない森だ。気絶している間に、ずいぶん遠くまで運ばれちゃったみたいだ。
方向も分からないけど、とにかく僕は走り出した。
空には満月が上っている。木々が枝を伸ばしているせいで、その光はほとんど届いていない。冷たい夜風が強く吹いて、木々の葉を大きく揺らした。その音がザアザアと森の中に響いて、先に進むのが怖くなりそうなくらい不気味だ。
全く見覚えがない森だし、暗くて、狐妖狼の力が戻っていなかったら、歩くことすら危なかったかもしれない。
狐妖狼の耳と尻尾さえあれば、暗くても、周りの様子がわかる。ついでにオーフィザン様のお城の場所も探知できればよかったんだけど、耳と尻尾で分かるの、自分の群れの位置だけなんだ。
だけど、なんとしてでもオーフィザン様のところに帰るんだ!!
必死に走るけど、体じゅうが痛くて、うまく走れない。
でも、逃げなきゃ。一年前だって、ダラダラ血を流しながら逃げたんだ。僕は普段は根性なしだけど、逃げる時だけはすごいんだから!
しばらくフラフラしながら走っていると、後ろの方から、足音がした。
なに? ついてきてる! 誰? 逃げなきゃ!
とにかく逃げなきゃいけないのに、絡み合うように伸びた草に足を取られ、転んでしまう。
後ろを振り向くと、あの小屋にいた男が走ってくるのが見えた。怖くて足が動かない。
男が僕に近づいてくる。
「見つけたぞ!!」
やだ……殺されちゃう! 逃げなきゃ!! なんで立てないの!? また腰が抜けた!?
動けない僕に、男が近づいてくる。怖くて、僕は両手で頭を抱えて目を閉じた。もう殺される!
だけど、僕は死ぬことはなくて、どさっと、何か重いものが落ちる音がした。
な、なんだろう……
恐る恐る、僕は目を開いた。
「え…………わっっ!!」
僕のすぐそばで、僕を追ってきた人が倒れている。気絶しているみたいだ。
男の後ろには、僕の知っている人が立っていた。いつも着ている真っ黒の燕尾服が、夜の森に溶け込んで、まるで僕を暗殺しに来た人のように見えるけど、違う……よね?
なんでセリューがこんなところにいるの? さっき僕を追って来た人を倒してくれたのも、多分セリューだ。
まさか、セリューが僕を助けに来てくれたの? なんでセリューが来てくれるの?
びっくりして彼を見上げていると、セリューは、凄く怖い目で僕を睨みつけて言った。
「立ちなさい。早く城に戻るんだ」
「え? え?」
「早くしろ!! オーフィザン様に言われて、お前を探しに来た。立て!!」
「は、はい!」
慌てて立って、僕は走り出すセリューについて行った。
僕をあれだけ嫌っていたセリューが来てくれるなんて驚いたけど、セリューはオーフィザン様の命令なら、どんなことでも従う。
嫌そうにしているけど、来てくれてよかった! 僕一人だったら、さっきの男に捕まって終わりだった。とにかく、今は逃げなきゃ!
僕は、前を走るセリューに必死についていった。だけど体が痛くて、どうしてもフラフラしてしまう。
「わ!!」
い、いた……また転んじゃった……
セリューが僕に振り向き、怒鳴る。
「なにをしている!? 走るんだ!!」
なんとか立とうとするけど、体が痛くて立ち上がれない。
後ろから「いたぞ!」と叫ぶ声がした。早く逃げないと、追いつかれちゃう!!
セリューは僕を抱き上げ、木の陰に隠れた。
しばらく息を殺していると、近くにあった人の気配は遠くに消えていく。どうやら、諦めてくれたみたい。
「行くぞ……立つんだ」
「う……」
なんとか立ち上がり、走ろうとするけど、体が痛くて動くのも辛い。だけど、逃げなきゃ捕まる。
セリューは、僕にきつい口調で言った。
「立て。殺されたいのか?」
「い、嫌です……」
「………………くそ……オーフィザン様のご命令がなければ貴様など……なぜこんなものをおそばに……」
「そ、それは僕を疑っていたからで、僕を気に入ったわけじゃないんです」
「当たり前だ。まさか貴様、自分が気に入られたと思っていたのか? 図々しい」
「……」
ちょっと前にペロケにほぼ同じことを言われた……みんなして図々しいって、ちょっとひどい……
オーフィザン様が本気で僕を気に入ってくれたなんて思ってたわけじゃないけど、だからって、そんな風に言われるのは嫌だ。
だけど、反論もできない。僕、全然ちゃんとできてないからな……
うううー!! 早く帰って、今度こそオーフィザン様にいっぱい奉仕するんだ!! オーフィザン様に満足してもらう!
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