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32.僕だけすごく馬鹿みたい……
しおりを挟むしばらく僕は拗ねていたけど、そのせいか余計にオーフィザン様にツンツン耳や尻尾を引っ張られてしまう。
「お、オーフィザン様! 尻尾、触っちゃダメです!!」
「あれはダメだこれはダメだと、性奴隷のくせに、文句が多いぞ」
「せ、せ、性奴隷でも、み、みんながいるところは嫌……や、やだ……オーフィザン様! やめて……」
耳とか尻尾とかをつまもうとするオーフィザン様から逃げていると、王様がグラスを傾けながら言った。
「ずいぶん仲がいいじゃないか。気に入っているのか?」
「ああ。ふわふわしているだろう?」
ダメって言ってるのに、オーフィザン様が僕の尻尾をくいっと引っ張る。
ふわふわだから気に入ったの!? じゃあ綿でも触っててよ!
僕が怒っても全然聞かず、楽しそうなオーフィザン様に、王様はちょっと困ったような様子だった。
「おい、オーフィザン。クラジュにかまけて魔法の実の管理を怠るなよ。クラジュは地下に隠していた、魔法の木を作る薬も見つけたのだろう?」
「ああ、そうだな。明日、別のところへ移す予定だ」
「そうか……いそげよ」
「ああ。分かっている」
「……話を聞いているか?」
王様がそう聞くのも当然で、オーフィザン様は話している間も、僕の耳を弄ってる。
僕の耳も尻尾も、おもちゃじゃないのに!!
「お、オーフィザン様。王様が話してるのに……だ、ダメです! ちゃんと話を聞いて……やだ!」
「それならおとなしく触られていろ」
「いや……や、やめてください!! やだ……耳……耳は遊ぶものじゃないんです! いや……尻尾上げないで……ひゃ! くすぐったい……もう……やだ……」
逃げようと暴れていたら、テーブルで果物の皮をむいているシーニュが、呆れた顔で言った。
「クラジュ、遊んでいただいてるんだから、ちゃんと奉仕しろ。それに、あんまりバタバタするな。また何か壊すぞ」
「ひ、ひどい……シーニュまで……」
僕はショックで目を潤ませているのに、シーニュはまとも聞いてくれない。
「俺、狐妖狼って、もっと怖い奴らだと思ってたけど、みんなお前みたいなのか?」
「違います!」
声を張り上げて否定したのは、ずっと王様の隣でお酒を飲んでいたパトさんだ。
「僕たち狐妖狼みんなが、クラジュさんみたいに頭が弱いわけではありません。クラジュさんのそれは、クラジュさん特有のもので……僕たちは、森で果物や山菜を採りながら平和に暮らしている、大人しくて聡明な種族なんです!! あ、ご、ごめんなさい! クラジュさん!」
ひどい……僕だけすごく馬鹿みたいな言い方……
違うとは言えないことがますます悲しい。
「いえ……いいです……」
「そうですか? 気にしてないなら良かった。とにかく、僕たちは馬鹿でも怖いこともありません。シーニュさん、僕とも仲良くしてください」
「え? あ、ああ……でも、俺、狐妖狼って、人とか仲間とか食うことあるって聞いたんだが……」
「ははは。たしかにずっと東の方に、人や仲間を襲う群れもいたと聞いたことがあります。ですけど、今はもう、そんなことをする狐妖狼はいないはずです。それに、このあたりに住む狐妖狼は、昔からそんなことをしたことはありません。僕の尻尾を見てください。ほら、一部が白くなっているでしょう? これは、余計な狩猟本能を封じたあとなんです。生まれた時に、親がしてくれるもので、最近では、どこの狐妖狼でも、みんなしています。狐妖狼みんなが、もう争うことはやめ、平和に生きようと決めたんです。僕は狐妖狼が人を襲うなんて、想像できません。ましてや、人間や仲間をとって食うような狐妖狼なんて……そういうやつらは尻尾がいくつもあったりするらしいですよ。なんて恐ろしい……鳥肌が立っちゃいます! ね? クラジュさん」
「え!? えっと……は、はい……」
僕も、仲間や人を襲う狐妖狼がいたことは知っている。そんなのがいたのは怖いけど、今は誰もそんなことをしない。だから、シーニュに怖がられるのは悲しい……
「ねえ、シーニュ。僕のこと、こ、怖くなった?」
恐る恐る聞くと、シーニュは僕にいつもと変わらない様子で言った。
「んな訳ねーだろ。お前の悪気なく壊しまくるところは怖いけどな」
「シーニュ……」
「な、泣くなよ! 分かってないだろ。お前、今の、馬鹿にしたんだぞ!」
「そうなの? でも嬉しいからいい!」
「……バーカ。ああ、お前でも、尻尾の一部、白くなってるな」
「うん! シーニュ、大好き!!」
「馬鹿、やめろ!」
シーニュにくっつこうとしたら、シーニュには逃げられ、オーフィザン様には首根っこをつかまれてしまう。
今度はパトさんが手を叩いて言った。
「……そうだ! クラジュさん、耳と尻尾が戻ってよかったですね。それで群れの位置も探知できるんじゃないですか?」
「あっ……そうか……」
そう言えば、耳と尻尾が帰ってきたんだから、それもできるんだ。
群れのみんなに会えるかも……でも、いいのかな?
オーフィザン様をちらっと見上げる。
この意地悪な人が、僕に行っていいなんて言ってくれるのかな? やっぱり、許してもらえないかな……だって、僕、一応性奴隷だし、帰省なんて、許してもらえないよね……
僕と目があったオーフィザン様は、素っ気なく僕にきいた。
「なんだ?」
「あ、あの……僕……」
「帰りたいのか?」
「……だ、ダメですか?」
「…………帰省くらいなら許してやる」
「え!?」
「だが、城を去ることは許さないぞ」
「ほ、本当に群れのみんなに会いに行っていいんですか!?」
「ああ」
「……あ、ありがとうございます!!」
みんなに会える!! よかった……会いに行けるんだ!!
だけど……みんな、無事でいるのかな……? パトさんの群れの人たちは、ほとんど連れていかれちゃったみたいだし、やっぱり心配だ。
不安なことばかり考えてしまう僕に、オーフィザン様がきいた。
「不満そうだな」
「え!? そ、そんなことありません!!」
「他に何か不安なことでもあるのか?」
「……その……み、みんなのことが心配で……みんな、盗賊に捕まってないかなって思って……」
「……夜が明けたら、探しに行く」
「え!?」
そんなに早く行っていいの!?
喜ぶ僕だけど、静かにワインを並べていたセリューが、急に振り向いて言った。
「ですが、オーフィザン様! いくらオーフィザン様の魔法でも、この広大な森や外の森まで探すのは不可能です!! 無理をなさるべきでは……」
「魔法は使わない。クラジュがいれば、耳と尻尾で探知できる。それにクラジュの仲間の狐妖狼たちが、今回のことについて、何か知っているかもしれない」
「……」
セリューはすごく不満そうだけど、それ以上意見しなかった。
やった……明日になったら、みんなのことを探しに行けるんだ!!
シーニュも、僕の背中をポンと叩いて喜んでくれた。
「よかったな。クラジュ」
「うん!!」
僕が答えた時、後ろでガタンと音がした。そっちに振り向くと、ダンドが窓に寄りかかっている。彼は顔色がひどく悪くて、肩で息をしていた。
「だ、大丈夫!? ダンド!」
僕はすぐに駆け寄ろうとしたけど、それより先に、セリューが彼に寄り添い、オーフィザン様に振り向いた。
「オーフィザン様……もう……」
「……セリュー、ダンドを連れて行け。二人とも、今日はもう下がっていい」
「……承知しました……」
セリューはダンドに肩を貸して、二人で部屋を出て行く。ダンド、どうしたんだろう……大丈夫かな……?
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