32 / 174
32.僕だけすごく馬鹿みたい……
しおりを挟むしばらく僕は拗ねていたけど、そのせいか余計にオーフィザン様にツンツン耳や尻尾を引っ張られてしまう。
「お、オーフィザン様! 尻尾、触っちゃダメです!!」
「あれはダメだこれはダメだと、性奴隷のくせに、文句が多いぞ」
「せ、せ、性奴隷でも、み、みんながいるところは嫌……や、やだ……オーフィザン様! やめて……」
耳とか尻尾とかをつまもうとするオーフィザン様から逃げていると、王様がグラスを傾けながら言った。
「ずいぶん仲がいいじゃないか。気に入っているのか?」
「ああ。ふわふわしているだろう?」
ダメって言ってるのに、オーフィザン様が僕の尻尾をくいっと引っ張る。
ふわふわだから気に入ったの!? じゃあ綿でも触っててよ!
僕が怒っても全然聞かず、楽しそうなオーフィザン様に、王様はちょっと困ったような様子だった。
「おい、オーフィザン。クラジュにかまけて魔法の実の管理を怠るなよ。クラジュは地下に隠していた、魔法の木を作る薬も見つけたのだろう?」
「ああ、そうだな。明日、別のところへ移す予定だ」
「そうか……いそげよ」
「ああ。分かっている」
「……話を聞いているか?」
王様がそう聞くのも当然で、オーフィザン様は話している間も、僕の耳を弄ってる。
僕の耳も尻尾も、おもちゃじゃないのに!!
「お、オーフィザン様。王様が話してるのに……だ、ダメです! ちゃんと話を聞いて……やだ!」
「それならおとなしく触られていろ」
「いや……や、やめてください!! やだ……耳……耳は遊ぶものじゃないんです! いや……尻尾上げないで……ひゃ! くすぐったい……もう……やだ……」
逃げようと暴れていたら、テーブルで果物の皮をむいているシーニュが、呆れた顔で言った。
「クラジュ、遊んでいただいてるんだから、ちゃんと奉仕しろ。それに、あんまりバタバタするな。また何か壊すぞ」
「ひ、ひどい……シーニュまで……」
僕はショックで目を潤ませているのに、シーニュはまとも聞いてくれない。
「俺、狐妖狼って、もっと怖い奴らだと思ってたけど、みんなお前みたいなのか?」
「違います!」
声を張り上げて否定したのは、ずっと王様の隣でお酒を飲んでいたパトさんだ。
「僕たち狐妖狼みんなが、クラジュさんみたいに頭が弱いわけではありません。クラジュさんのそれは、クラジュさん特有のもので……僕たちは、森で果物や山菜を採りながら平和に暮らしている、大人しくて聡明な種族なんです!! あ、ご、ごめんなさい! クラジュさん!」
ひどい……僕だけすごく馬鹿みたいな言い方……
違うとは言えないことがますます悲しい。
「いえ……いいです……」
「そうですか? 気にしてないなら良かった。とにかく、僕たちは馬鹿でも怖いこともありません。シーニュさん、僕とも仲良くしてください」
「え? あ、ああ……でも、俺、狐妖狼って、人とか仲間とか食うことあるって聞いたんだが……」
「ははは。たしかにずっと東の方に、人や仲間を襲う群れもいたと聞いたことがあります。ですけど、今はもう、そんなことをする狐妖狼はいないはずです。それに、このあたりに住む狐妖狼は、昔からそんなことをしたことはありません。僕の尻尾を見てください。ほら、一部が白くなっているでしょう? これは、余計な狩猟本能を封じたあとなんです。生まれた時に、親がしてくれるもので、最近では、どこの狐妖狼でも、みんなしています。狐妖狼みんなが、もう争うことはやめ、平和に生きようと決めたんです。僕は狐妖狼が人を襲うなんて、想像できません。ましてや、人間や仲間をとって食うような狐妖狼なんて……そういうやつらは尻尾がいくつもあったりするらしいですよ。なんて恐ろしい……鳥肌が立っちゃいます! ね? クラジュさん」
「え!? えっと……は、はい……」
僕も、仲間や人を襲う狐妖狼がいたことは知っている。そんなのがいたのは怖いけど、今は誰もそんなことをしない。だから、シーニュに怖がられるのは悲しい……
「ねえ、シーニュ。僕のこと、こ、怖くなった?」
恐る恐る聞くと、シーニュは僕にいつもと変わらない様子で言った。
「んな訳ねーだろ。お前の悪気なく壊しまくるところは怖いけどな」
「シーニュ……」
「な、泣くなよ! 分かってないだろ。お前、今の、馬鹿にしたんだぞ!」
「そうなの? でも嬉しいからいい!」
「……バーカ。ああ、お前でも、尻尾の一部、白くなってるな」
「うん! シーニュ、大好き!!」
「馬鹿、やめろ!」
シーニュにくっつこうとしたら、シーニュには逃げられ、オーフィザン様には首根っこをつかまれてしまう。
今度はパトさんが手を叩いて言った。
「……そうだ! クラジュさん、耳と尻尾が戻ってよかったですね。それで群れの位置も探知できるんじゃないですか?」
「あっ……そうか……」
そう言えば、耳と尻尾が帰ってきたんだから、それもできるんだ。
群れのみんなに会えるかも……でも、いいのかな?
オーフィザン様をちらっと見上げる。
この意地悪な人が、僕に行っていいなんて言ってくれるのかな? やっぱり、許してもらえないかな……だって、僕、一応性奴隷だし、帰省なんて、許してもらえないよね……
僕と目があったオーフィザン様は、素っ気なく僕にきいた。
「なんだ?」
「あ、あの……僕……」
「帰りたいのか?」
「……だ、ダメですか?」
「…………帰省くらいなら許してやる」
「え!?」
「だが、城を去ることは許さないぞ」
「ほ、本当に群れのみんなに会いに行っていいんですか!?」
「ああ」
「……あ、ありがとうございます!!」
みんなに会える!! よかった……会いに行けるんだ!!
だけど……みんな、無事でいるのかな……? パトさんの群れの人たちは、ほとんど連れていかれちゃったみたいだし、やっぱり心配だ。
不安なことばかり考えてしまう僕に、オーフィザン様がきいた。
「不満そうだな」
「え!? そ、そんなことありません!!」
「他に何か不安なことでもあるのか?」
「……その……み、みんなのことが心配で……みんな、盗賊に捕まってないかなって思って……」
「……夜が明けたら、探しに行く」
「え!?」
そんなに早く行っていいの!?
喜ぶ僕だけど、静かにワインを並べていたセリューが、急に振り向いて言った。
「ですが、オーフィザン様! いくらオーフィザン様の魔法でも、この広大な森や外の森まで探すのは不可能です!! 無理をなさるべきでは……」
「魔法は使わない。クラジュがいれば、耳と尻尾で探知できる。それにクラジュの仲間の狐妖狼たちが、今回のことについて、何か知っているかもしれない」
「……」
セリューはすごく不満そうだけど、それ以上意見しなかった。
やった……明日になったら、みんなのことを探しに行けるんだ!!
シーニュも、僕の背中をポンと叩いて喜んでくれた。
「よかったな。クラジュ」
「うん!!」
僕が答えた時、後ろでガタンと音がした。そっちに振り向くと、ダンドが窓に寄りかかっている。彼は顔色がひどく悪くて、肩で息をしていた。
「だ、大丈夫!? ダンド!」
僕はすぐに駆け寄ろうとしたけど、それより先に、セリューが彼に寄り添い、オーフィザン様に振り向いた。
「オーフィザン様……もう……」
「……セリュー、ダンドを連れて行け。二人とも、今日はもう下がっていい」
「……承知しました……」
セリューはダンドに肩を貸して、二人で部屋を出て行く。ダンド、どうしたんだろう……大丈夫かな……?
20
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
双子のスパダリ旦那が今日も甘い
ユーリ
BL
「いつになったらお前は学校を辞めるんだ?」「いつになったら俺らの仕事の邪魔をする仕事をするんだ?」ーー高校二年生の柚月は幼馴染の双子と一緒に暮らしているが、毎日のように甘やかされるも意味のわからないことを言ってきて…「仕事の邪魔をする仕事って何!?」ーー双子のスパダリ旦那は今日も甘いのです。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる