【本編完結】ネコの慰み者が恋に悩んで昼寝する話

迷路を跳ぶ狐

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30.釈然としない……

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 驚いて自分を指す僕に、みんなが注目する。

 え? え? ペロケ、僕を追い出したくて、僕をスパイにしたくて、こんなことしたの? ペロケに嫌われていることは知っていたけど、そこまで恨まれていたなんて、ちょっとショックだ。

 オーフィザン様は、俯くペロケにそっときいた。

「クラジュを追い出すことが目的か?」
「はい…………だって……だって……だって、その猫、僕の大切なもの、すぐ壊しちゃうんです!! 花壇は荒らすし、蕾が出来たばかりのバラは折るし、枝は折るし、果物は盗むし!! 僕が何より大事にしてるもの、踏みにじって、ひどすぎるんです!!」

 えええっ!? いくらなんでも言いがかりだよ! 一部はそのとおりだけど、そこまで僕、ひどくない!!

「ペ、ペロケ! そんな……ひ、ひ、ひどいよっ! 僕、た、確かにたまに庭のもの壊すけど、わ、わざとじゃない!!」
「わざとじゃなくても、やったことすぐ隠すじゃん! せめて、やってすぐ謝ってくれれば、応急処置もできたのに!!」
「う………………だ、だって、怒られるの、怖いんだもん……」

 だんだん声が小さくなっていく僕を、オーフィザン様が冷たい目で見下ろして言った。

「言い訳にならないぞ。クラジュ。お前、数日前にも、俺の杖と下着を窓から捨てただろう」
「……あ……」

 そういえば、ちょっと前にした。うううー……やったばっかりだから、誤魔化せない!!

 なんとか反論したいけど、それより先にペロケが続ける。

「それに、何度言っても同じことするじゃん! 一回くらいはいいよ! だけど、二回三回四回……その程度じゃないじゃん!! 何回もやる! 数え切れないくらい!! 庭に出てくるたびに何か壊す!! もうわざととしか思えない!!」
「ち、違うよ! わざとじゃないもん!! その……わ、わざとじゃないけど、なぜかそうなっちゃって……」
「だいたい、花を千切るとか枝を折るとか果物盗んでいくとか、全部クラジュが悪いんじゃん!」
「ま、待って! 僕、果物なんか、盗んでないよ!」
「収穫前のを落としちゃうじゃん!! わざと! あんなの僕からしたら、泥棒と一緒だよ! それに、厨房で出来立てのジャム、ひっくり返したでしょ! 僕が楽しみにしてたジャム台無しにしたくせに!!」
「う……そ、それはしたけど……果樹園は庭じゃないからペロケ関係ないじゃん!!」
「そういう問題じゃないよ!! お前が何でもかんでもぐちゃぐちゃにするのが嫌なの!!」

 ううううー……そんなに一気にまくしたてるなんてひどい!!

 だけど、僕の肩をダンドがポンと叩いて言った。

「クラジュ。厨房のみんなも、ジャムと果物の件は怒ってたよ」
「う、う……だ、だって、あれは……」

 うううー……果物もジャムもわざとじゃないのに。

 果物を落としちゃった件は、掃除をしていた時に、窓から雑巾を落としちゃって、それを探してたら、木の上にそれっぽいもの見つけて、登ったら果物をいっぱい落としちゃったんだ。せっかくだし、美味しそうだったから食べたけど、あれは泥棒になるのかな?

 ジャムの件は、スルメを盗もうとしてジャムを作っていた鍋をひっくり返したんだ。まずいと思って逃げたら、料理人たちがたくさん追って来て、すごく怒られた。見かねたダンドは庇ってくれたんだけど、やっぱり怒ってたんだ。

 今度は、王様が僕をじーっと見つめる。

「そういえば、一昨日もあの木に手を出したらしいな……本当にスパイじゃないのか?」
「ち、違います!! 本当に違います! ぼ、僕、確かに悪さばっかりするけど……」

 なんとか弁解したいけど、ダンドに遮られてしまう。

「悪気なくても、盗むのと勝手に食べるのと壊すのはだめだよ」
「……はい」

 今度はシーニュがペロケに聞く。

「じゃあ……まさか、クラジュに糊のこと教えたのもわざとか?」
「……うん……た、立ち入り禁止の部屋に入れば、ここを追われると思って……」
「そうか……お前、マジでクラジュの被害に悩んでいたもんな……」

 シーニュまで、なんかペロケに優しい!! そんな言い方ひどい!!

「シーニュ! クラジュの被害って何!? 害獣みたいに言わないで!!」
「だけど、ペロケの言うことももっともだぞ。確かにお前、庭に出るたびにペロケが大事にしている庭のものとか、果樹園のものとかしょっちゅう傷つけるじゃないか」
「そ、そうだけど……だって、バラは棘が痛いし、落とした探し物を探すのに邪魔だった植物をどけただけで……」
「……それ、言い訳にならないぞ……お前には言いつけを守ろうとか、注意しようって気がなさすぎる。俺が何回言っても壊すだろ。一度や二度なら不注意、失敗ですますけど、お前のはもうそれですまないぞ。俺が行くなって言っても行くし、俺がみていても壊すし。お前、禁止されたことをやっちゃう魔法にでもかかってるのか?」
「……そ、そうかも……」

 もうこの際、魔法のせいにしちゃいたい……だけど、オーフィザン様にあっさり否定された。

「そんな魔法にはかかっていない。お前が自分で壊しているだけだ」
「……」

 うううー……だめかあ……

 オーフィザン様はペロケに歩み寄り、優しく言った。

「ペロケ……クラジュを恨んでいたのか?」
「はい。すごく。本当は殺したいくらい」
「それで、盗賊に情報を売ったのか?」
「……と、盗賊だとは思わなかったんです!! 種の買い付けのために、城下町に出た時に話を持ちかけられて……クラジュがスパイってことになれば、あいつは城からいなくなるって……城の中のことをちょっと教えてくれるだけでいいって言うから…………それで……」
「そうか……」
「とにかくなんとかして、そいつに出て行って欲しかったんだ!! 悪いのはぜーんぶクラジュだ!!」

 怒鳴るペロケの頭に、オーフィザン様が優しく手を置く。

 ペロケは、震えながら顔を上げた。彼の目が、ゆっくり涙で覆われていく。

「お、オーフィザン……様……」
「ペロケ……」
「……も、申し訳ございませんっっ!! ここに置いていただいた恩も忘れ、馬鹿な真似を……僕、僕……僕……ほ、本当に申し訳ございませんっ!!」

 ボロボロ泣きながらその場にひれ伏すペロケに、オーフィザン様は静かにきいた。

「お前に話を持ちかけた奴らのことを覚えているか?」
「はい……」
「では、そいつらのことを全て話せ。盗賊どもが捕らえられ、お前の話していることが事実だと分かれば、お前を陛下に引き渡すことはしない」
「え……え? でも……そ、そんなの、い、いいんですか?」

 ペロケが陛下を見上げる。

「売られたオーフィザン自身がそう言うのなら、私は構わない。これから話を聞かせてもらう。協力してくれるな?」
「…………はいっ!!」

 ペロケは、その場に泣き崩れた。

 なんだか釈然としないなあ……僕だけものすごく悪いみたい。だけど、ペロケが泣いているのはほとんど僕のせいだと思ったら、何も言えない……

 不満だけど、オーフィザン様もみんなも、城の方に戻っていってしまい、僕もしぶしぶついていった。
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