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29.犯人に会いに行くぞ
しおりを挟む覚えていることは全部話して、王様からの質問も終わると、ホッとしたけど、だいぶ疲れた。思い出すことすら怖いことを話さなきゃならなかったし、王様の前ですごく緊張した。おかげでなんだか体が痛い。ソファの上で、肩や首を動かしていると、隣にいるオーフィザン様に手が当たりそうになってしまった。
部屋にいるみんなは紅茶で一息ついている。シーニュは僕を気遣って、僕の好きなミルクを持ってきてくれた。
「クラジュ……大丈夫か?」
「うん……」
僕は一口だけそれを飲んだ。温かくて美味しい……シーニュはいつも、僕を気遣ってくれるんだ。
「ありがとう、シーニュ」
「うん……」
「僕、大丈夫だよ? だから心配しないで」
「……無理するなよ」
「うん!」
僕が笑顔で返事をすると、彼は少しだけ笑って、新しい紅茶をいれ出す。
安心してくれたのかな……? 僕は本当に平気だから、それが伝わったのなら良かった。
捕まった時のことを話すのはすごく怖かったけど、オーフィザン様が僕の肩を抱いていてくれたから、落ち着いて話すことができた。今も、僕のすぐ隣にいてくれる。
オーフィザン様を見上げると、彼はポンポンと軽く僕の頭をたたいた。その手が戻ってきた狼の耳に当たって、ちょっとくすぐったい。
僕らの前のソファに座っていた王様は、読んでいた書類を置いて、僕に向き直った。
「では、今の話を元に、森の中を探させる。相手は十人ほどの男たち、特徴はそれぞれバラバラ、一人は顔を隠していた。連れていかれた場所は分からない、そうだな?」
「ご、ごめんなさい……僕、細かいことまで覚えていなくて……」
ううう……僕の話、全然役に立ってないんじゃないかな? なにも力になれないなんて、歯がゆい。もっとはっきり覚えていればよかったんだけど、なにしろもう一年も前の話だ。
項垂れていると、オーフィザン様が僕の肩に手を置いて言った。
「お前が謝ることはない。それなら、こちらもお前に謝らなければならない。お前にかけられた魔法を調べるために、お前を性奴隷にしたのだから」
「ええ!?」
「お前が話したことが、嘘でないことは魔法で分かっていた。だから、迷い込んできた狐妖狼だと思い、城に住まわせていたんだ。だが、最近になって、盗賊と化した狐妖狼が城下町の方で盗みを働き、その上、俺のものを狙っていると聞いてな」
「だ、だからって、なんで僕を疑うんですか!? 僕、嘘ついてないのに!!」
「お前自身がなにも知らなくても、遠くから魔法で操り、スパイにすることはできる。お前にかけられた魔法の正体が分からなかったから、そういった魔法ではないかと警戒していた」
「だからって……だって、あの実は盗まれていないんですよね?」
「ああ。実は盗まれていないが、どうやら、俺のところにある道具の情報が、外に漏れているようだ」
「え……ぼ、僕、そんなことしませんっ!!」
「ああ。お前にかけられた魔法は、本当に単純にお前を苦しめるためだけのものだ。猫の耳にしたのも、恐らくいざとなった時に化け猫にでも罪を着せるためだろう。ダンドにも、馬鹿らしいと言われた」
「ダンドに?」
「だが、もうだいたい検討はついた。スパイは別にいた」
「え? 誰ですか?」
「……今から会いにいくか……」
オーフィザン様が二つのベルを同時に鳴らす。
すぐにセリューと、もう一人、燕尾服を着た人が入ってきた。え……あれ、ダンドだ。なんでダンドが燕尾服なんて着てるの?
聞きたかったけど、先にオーフィザン様が立ち上がって言った。
「ダンド、セリュー、庭へ行く準備をしろ。情報を流した奴に会いに行くぞ」
全員で庭へ出た僕らは、どんどん奥へ行ってしまうオーフィザン様について歩いた。
なんで庭なんだろう……
バラ園を抜けてしばらく行くと、今度は大きな門が見えてきた。このあたりは、僕も入るのは初めてだ。
オーフィザン様が門の鍵を開けてくれる。ギギイっと音がして、鉄の格子の門が開く。その奥は薄暗くて、なんの実がなるのか分からない、変な形の木がいっぱい立っている。鬱蒼とした森って感じだ。
先頭に立つオーフィザン様が、みんなに向かって言った。
「このあたりにあるものには、すべて魔法がかけてある。むやみに触れるな。俺から離れて歩くな。クラジュ」
「え……」
い、今の、僕にだけ言ったの? うう……僕が悪さすること前提で話してる。僕だって、地下で見つけた変な木の仲間なんか、触りたくない!!
みんなで歩き出すと、ますますそう思う。木の枝や葉が、空を覆ってしまっていて薄暗いし、幹は太くて変な形に曲がっていたり、蔦でぐるぐる巻きになっていたり、葉が幽霊の髪の毛みたいに不気味だったりして、とてもじゃないけど、触りたいなんて思わない。むしろ早く出たい。まだなのかなあ……
怖くて、キョロキョロしながら歩いていると、遠くの木の陰に、人影が見えた。
あ、あれ? 誰かいる。
そっちに夢中になった僕は、つい、立ち止まってしまう。急に止まった僕の背中に、後ろを歩いていたシーニュがぶつかった。
「おい、クラジュ!」
「し、シーニュ、向こうに誰かいる!」
「なに? オーフィザン様!!」
シーニュに呼ばれ、オーフィザン様もそっちに気づいた。だけど人影の方もこっちに気づいたらしく、奥へ逃げて行く。
みんなでそれを追って走り出すけど、相手の方が足が速い。
このままじゃ引き離されちゃう!!
そうだ! 耳と尻尾が戻ったんだ。これがあれば、狐妖狼族本来の力が使えるんだ。みんなより、早く走ることもできるはず。
僕は勢いをつけて、前に飛び出した。
やっぱり、耳と尻尾があると違う!! みるみるみんなを引き離し、僕は逃げる人影を追って行く。これなら追いつく!
だけど、人影はいきなり羽を広げ、飛び上がる。
え? え? 飛べるの!?
だけど、逃すもんか! 僕は木に飛び移り、逃げる人影を追った。
後ろから、オーフィザン様の叫び声がする。
「クラジュ! 戻れ! クラジュっ!!」
え? なんで? あ! オーフィザン様から離れて歩くなって言われたんだ!!
そっちに気を取られて振り向いたら、木から足を踏み外して落ちてしまった。とっさに木の枝をつかむけど、細いそれはあっさり折れて、僕は折れた枝をつかんだまま、地面まで真っ逆さまに落ちて行く。
わーー! こんな変な森で死にたくない!
だけど、途中でフワッと僕の体が浮く。
あ、あれ……? 落ちるの、止まった。なんでだろう……僕、水に浮くみたいに空中に立ってる。
あ! オーフィザン様が魔法で受け止めてくれたんだ!
みんなが僕に駆け寄って来てくれる。シーニュが一番最初に怒鳴った。
「クラジューッ!! このバカ!! 陛下の前だぞ!! 大人しくしろよ!!」
「ご、ごめん……」
慌てて謝るけど、もう遅かったみたい。
周りの木々から、ザザザっと、大きく葉が揺れる不気味な音がした。
え……な、なに? わーーっ!! 木からなんか飛んでくる!! 葉っぱ!? じゃなくて灰!?
木の葉が生えていたはずのところから灰が湧き出て、まるで弾丸みたいなスピードで一斉に僕らに向かって飛んでくる。
オーフィザン様が前に出て、魔法で僕らを守ってくれる。光の壁のようなものに阻まれて、飛んできた灰は僕らに届くことなく、地面に落ちていく。
彼の魔法で撃ち落とされなかったものは、ドン、と大きな音を立てて地面に深くめりこんだ。
あ、あんなの当たってたら、即死だよ……
だけど、木はすぐに大人しくなった。オーフィザン様が魔法でしてくれたのかと思ったけど、違うみたい。
僕が枝を折ってしまった木に、ペロケが羽をはばかせて寄り添っている。彼が木を止めてくれたんだ。
ペロケは木を撫でながら、木に向かって優しく謝っていた。
「ごめん……ごめんね。ひどいことをして。悪いのはクラジュ一人で、他の人はみんないい人なんだ。だから許してあげて」
……ううう……確かにその通りだけど、僕のこともおまけで許してほしい。だめかなあ……
どうやらダメらしく、ペロケは僕を睨みながらこちらに振り向き、僕の前に降りてきた。
「クラジュ……またやったな……」
「ご、ごめんなさい……」
うううー……怖い! 今日は一段とキレてる!! 黙っていたら殺されそう!!
「あ、あの……ぺ、ペロケ、わ、わざとじゃないんです。僕たち、逃げた人を追っていて、それで……その…………ペロケ?」
急に彼は俯いてしまう。オーフィザン様が、彼に静かに聞いた。
「ペロケ、情報を流したのはお前だな?」
「……………………申し訳ございません!!」
ペロケは泣きながら、その場にひれ伏した。
え……スパイって、ペロケなの!?
シーニュが驚いて、ペロケを怒鳴りつける。
「なんで……お前がそんなことするんだよ! お前、この城が好きだったじゃないか! いつも庭をあれだけ大事にしてたのに……果樹園だって、お前、あそこが大好きじゃないか!!」
「だって……だって……」
ボロボロ泣くペロケに、今度は王様がたずねる。
「金目当てか?」
「違います!! お金なんて、そんなものいりません!! ……ただ……そのバカ猫がスパイってことになれば、そいつ、城からいなくなると思って……」
ペロケは、恨みのこもった目で僕を睨みつける。
「え……ぼ、僕!?」
びっくりした。え? え? な、なんで?
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