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19.どうなってるの?
しおりを挟むしばらく歩いて、僕とオーフィザン様は、廊下の突き当たりにあるドアの前まで来た。
オーフィザン様が、持っていた鍵でドアを開ける。その先は明かりがなくて、真っ暗だったけど、オーフィザン様が、魔法で光る鳥を作ってくれた。
それが辺りを照らしてくれる。それでも、扉の奥はかなり暗い。怯える僕を置いて、オーフィザン様は、先にどんどん進んで行ってしまう。
「ま、待ってください!!」
慌ててオーフィザン様を追いかける。暗いところは苦手じゃないけど、ここは狭いし、さっきひどい目にあったばかりだから、こんなところを歩くのは怖い。
ビクビクしながら歩く。オーフィザン様の方が、僕より歩くのがずっと速い。このままじゃ置いていかれる!
慌てた僕は、オーフィザン様の服の裾をつかんだ。
すぐにオーフィザン様が僕に振り向く。
「どうした?」
「あ、え、えっと……暗くて……」
「怖いのか?」
「はい……」
「猫なのにか?」
「ね、猫じゃありません! 狐妖狼族です! それに……ま、真っ暗だし、狭いし、地下だし……さ、さっきの変な魔法みたいなのがまたありそうで……」
「変な魔法じゃない。行くぞ」
オーフィザン様は僕の手を振り払い、また先に進んで行ってしまう。
怒らせた……変な魔法って言うと、絶対怒るんだから、言わなきゃよかった。
オーフィザン様、さっきより早足だ。急がないと置いていかれそう。こんなところに一人で置いていかれたら、暗闇の中で骸骨になっちゃう! そんなの嫌だ!
怖くて泣きながら小走りでついていく。そしたら、いきなりオーフィザン様は立ち止まり、僕の手を握った。
「また迷われたら困る」
うう……怒ってる……
だけど、手をつないでいれば迷わなくて済む!
ホッとして歩き出そうとした矢先、後ろで小さな物音がした。
「わああ!!」
つい大声を上げてしまう。
オーフィザン様が、僕に振り向いた。
「どうした?」
「あ、あの……今、後ろで物音が!」
「何も聞こえないぞ? その猫耳のおかげで、遠くの音まで聞こえるのか?」
「い、いいえ。そんなことはないです……ただ、何か聞こえた気がして……」
「何かいるのか?」
オーフィザン様は光る鳥を飛ばして、物音の正体を探る。鳥が僕らのいる後ろの廊下を照らした時、何か動くものが見えた。
「あ、ネズミです」
「……行くぞ」
え? え? 行っちゃう! さっきは手を繋いでくれたのに、なんで僕を置いて、先に行っちゃうの!? 何かまた怒らせた!?
ううー……待って! 一人じゃ歩けないよ!
慌てた僕は、勢いでオーフィザン様の手を取った。
「どうした?」
「ひ、ひ、ひひひ一人じゃ歩けません!!」
「……暗いところへ行くと歩けなくなるのか?」
「ち、違います! そんなんじゃなくて、単に怖いんです!! お、お仕置きなら後でいっぱい受けます!! だから手をつないでください!!」
「……その程度で罰はない。行くぞ」
「はい!!」
お仕置き、ないんだ。よかったー。だけど、暗い。また変な魔法、でてこないよね……
ビクビクしながら歩いていると、鳥に照らされた廊下を、大きな黒いものが横切るのが見えた。
「わあ!」
「今度はなんだ?」
「む、虫が……す、すごく大きな虫が……」
「虫がどうした?」
「虫がいたんです!」
「まさか、魔法の虫か?」
「ち、違います!! 魔法とかそういうのじゃなくて、虫がいたから怖いんです!」
「……虫がか? 狐妖狼は森に住んでいるんじゃないのか?」
「そ、そうですけど、ぼ、僕、大きな虫は苦手で……」
「……さっきから暗いだの狭いだの物音だの虫だのと、お前、怖がりすぎじゃないか?」
「だ、だって……怖いものは怖いんです!! 僕だって、好きで怖いんじゃありません! ま、魔法で虫をいなくしたりできないんですか?」
「無理だ」
……やっぱり変な魔法しか使えないんだ……不満だけど、それを言ったらまた怒られそうだ。
歩くしかない。
わ! また、なんかいた! また虫!? たまに後ろから物音もするし、僕はその度に声を上げてしまう。
「ひ! や、やだ! わっ! わあ! わ!」
ビクビクしながら歩いていると、急にオーフィザン様が僕の肩を抱いた。え?
「黙って歩け」
「は、はい……」
ま、また怒ったの? 怒ったのに、なんで肩を抱くの? よく分からないけど、オーフィザン様とくっついていたら、さっきより怖くない!
僕はオーフィザン様にしがみついて歩いた。うん、これなら平気だ!
オーフィザン様の体、温かいなあ……それに、なんだか気持ちいい匂いがする。これ、もしかして、昨日の石鹸の匂いかな……
なんとなく、オーフィザン様を見上げると、彼は無表情で前を向いて歩いている。す、すごく距離が近いなあ……自覚したら照れてきた……
だけど、オーフィザン様は照れたりしないんだ。僕とこんな風に歩いているからって、照れる理由にならないもん。でも、じゃあ、なんでいきなり僕を性奴隷にしたんだろう。
「あ、あの……お、オーフィザン様……」
「なんだ?」
「な、な、なんで僕を性奴隷にしたんですか?」
オーフィザン様は、しばらくじっと僕の顔を見下ろして、呟く。
「……………………猫耳が気に入った……」
そう言ったかと思うと、突然オーフィザン様は、僕を壁に押し付けた。暗い中、真顔で見つめられ、どうしてもドキドキしちゃう。
な、な、なに!? 急になに!?
「え? ん!!」
びっくりした。だって急に唇を僕の唇に押し付けてきたから。
え……え、え…………? なに??
何をされたのか分からなかったけど、オーフィザン様は、僕の唇を甘噛みするようにして、舌を押し込んできた。
これって……もしかして、キス??
口を塞がれたまま、舌を絡められて、苦しい。
キスって、こういうものなの? 舌を入れるなんて知らなかった。息できない!!
苦しくて足掻くと、オーフィザン様はやっと唇を離してくれた。
ああ……苦しかった……なんで急にこんなことするの?
「お、オーフィザン様? ひゃっ!」
今度は僕の首にキスが来る。僕、汗とかさっきの灰とかで、すごく汚れてるのに!
「オーフィザン様! だ、ダメです! 汚れちゃいます……あ、あとにした方が……あ!」
僕が言っても、オーフィザン様はやめてくれない。服に手をかけられ、僕は焦った。
「ひ、ひう! オーフィザンさま……ま、待って……いた!!」
いったあ……暴れたから、頭、壁に打ち付けちゃった。頭がジンジンする……
打ったところをさすっていると、また奥の方から、何か音がするのが聞こえた。さっきまでの小さな物音とは違う。
「お、オーフィザン様……奥に何かいます!」
「静かにしていろ」
どうやら、オーフィザン様も気づいていたらしく、彼は暗い廊下の奥に杖を向ける。
「お、オーフィザン様? なにがいるか、分かるんですか? ね……ネズミですか?」
「いいや」
「虫!?」
「違う」
「あ! 変な柿ですか!?」
「変な柿じゃない」
「はい……」
「……追うぞ!」
「え?」
オーフィザン様がいきなり僕の手を握って、走りだす。暗くて、廊下の先に何がいるのかは分からないけど、遠ざかっていく足音が聞こえた。
まさか、誰かいるの? さっきオーフィザン様が言ってた、魔法の道具の材料を盗んで行く人?
オーフィザン様は、僕らの周りを跳ぶ光る鳥を、足音に向かって飛ばす。鳥は鎖に姿を変え、逃げていた人影を縛り上げた。鎖に捕まった男は、鎖に縛られて床に転がる。
僕は、オーフィザン様と一緒に、その人に駆け寄った。
だけど、光る鎖に縛られて照らし出された顔は、絶対に泥棒なんかじゃない。僕の知っている人だ。
驚いた僕は、思わず声を上げてしまった。
「ダンド!?」
なんでダンドがこんなところにいるの?
鎖で縛られたダンドは、怒っているのか、オーフィザン様を睨みつけていた。
「何をするんですか……」
「ダンド、貴様こそ、何をしていた……?」
「覗いていました」
「……なんだと?」
「クラジュにまた乱暴するような気がしましたから」
「……行くぞ」
オーフィザン様は、それ以上ダンドを問い詰めることはせずに、彼を縛る魔法の鎖を消して歩き出す。鎖から解放されたダンドも起き上がり、オーフィザン様の後ろをついて行った。
二人とも無言で奥へ進んで行っちゃう。
え、え……?? なんでダンドがこんなところにいるんだろう……オーフィザン様も、なんであんまり驚かないの? 怒らないの?
だけど、そんなこと考えていたら、僕だけここに置いて行かれちゃう。
僕は急いで、黙って二人について行った。
なんでここにいたの、とか、聞きたい。だけど、二人とも黙っているから、なんとなく怖くて聞けない。
しばらく三人で歩いて、僕たちは、古びた扉の前まで来た。
オーフィザン様が、魔法でその扉を開く。外へ出ると、そこは庭の一角だった。オーフィザン様は、僕に振り向いて言った。
「クラジュ。体を洗って部屋に戻っていろ」
「は、はい!!」
「今度は壊すなよ」
「はい……」
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