16 / 174
16.これ、なに?
しおりを挟むねぐらにしている倉庫に入った僕は、最初に大事な狼のぬいぐるみを隠したところへ走った。
良かった。ちゃんとある! 他のものはランキュ様に持っていかれちゃったみたいだけど、これが無事ならいい。
これ、持って行こうかな……ずっと僕が持っていれば、ランキュ様に捨てられる心配はなくなる。そうしよう!
僕は、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
あとは地下へ行って、ペロケが言ってた糊を探すだけだ!
確か、倉庫の一番奥に、地下へ降りる階段があったはず……あ、あった!
僕は、奥の壁に、大きなドアがあるのを見つけた。ドアを開くと、長い階段が地下へ伸びている。ここから降りれば、地下へ行けるはず……
だけどその階段は、壁に小さな明かりがあるとはいえ、だいぶ暗い。足を踏み外さないように、ゆっくり階段を降りよう。
ドキドキしながら階段を降りて、やっと地下に着いた。
廊下の壁に、一応明かりはかけてあるものの、やっぱりここも暗い。それに狭い……早く糊を見つけて帰ろう!
少し行くと、丁字の分かれ道に行き着いた。
えーと……ペロケが言ってたのは……右、だな! あれ……そのあとはなんだっけ? いいや! 一部屋ずつ探そう!!
丁字路を右に曲がると、すぐに一つ目の扉についた。それを開けてみるけど、そこは何もない、がらんとした部屋だった。
この部屋、使ってないみたい……糊もないし、次の部屋へ行こう。
しばらく廊下を進むと、二番目の扉が見えた。この扉は、さっきと違って真っ黒だ。その扉をゆっくり開ける。
わ! なんだこれ! 大して広くもない部屋に、ずらっと棚が並んでいる。それに並べてあるのは、全部香炉だ。なんでこんなに香炉があるんだ? オーフィザン様、香炉マニアなのかな?
香炉はどれもこれも、僕が壊したものに似てる。あ、同じものまである! それもいくつも!
なんだ……オーフィザン様、同じ香炉をいっぱい持ってるんじゃないか。それなのに、なんで割れた香炉を取って置いたんだろう。あれだけはすごく大事なものなのかな?
オーフィザン様って、不思議な人だ。
ここへ来て、一年経つけど、僕はオーフィザン様のことをほとんど知らない。猫耳好きで、エッチな魔法を使う変な魔法使いってことくらいだ。
オーフィザン様って、普段、何してるのかなあ……香炉を直すことができたら、聞いてみたい。多分無理だけど……
この棚に糊の瓶、ないかな……
あ、あれ? 糊の瓶って、どんな瓶って言ってたっけ? えーっと……瓶ってことしか覚えてない。まあ、いいや! 瓶を探せばいいんだ!
棚を見て歩くけど、香炉がいっぱい並んでるだけで、瓶なんてない。
ないのかなー? あ、一番奥に机がある。だけど、そこにも瓶はない。大きくて分厚い本がいっぱい置いてあるだけだ。
なんの本だろう? 開いてみるか!
早速、その古い机に駆け寄った。使い込まれた燭台と、幾つも並んだ本が散らかる机から、僕のてのひらの長さより分厚い本を選んで開く。
む、難しいことがいっぱい書いてあって分からない。
あれ……これ……狐妖狼族についての記述がある。狐妖狼は、群れを作って森に住んでいる種族だ。なんでそれについて書いてある本を、オーフィザン様が読んでるんだろう……??
しばらくその本を読んでいると、なんだか懐かしくて、辛くなってきた。
僕も本当は狐妖狼族で、昔は狼の耳と狐の尻尾があったんだ。だけど、群れからはぐれてしまってから、ずっと狐妖狼の仲間には会ってない。みんな、何をしてるかな……
もう本読むのはやめよう……糊を探さなきゃ!! 隣の部屋へ行こう!!
僕は部屋から飛び出して、隣の部屋まで走った。これで、角を曲がってから見つけた部屋は三つ目だ。
部屋の扉を開けようとしたけど、鍵がかかってる。仕方ない。次の部屋へ行こう。
四番目の部屋のドアは、二番目の部屋と同じように真っ黒だった。その黒い扉を開けると、中まで二番目の部屋と似ていた。棚が並んでいて、今度は香炉の代わりに瓶が並んでいる。この中に糊の瓶、ないかなあ……
一番近くにある瓶の蓋を開けてみる。中に入っていたのは黒い液体だ。
これが糊かな? 一応指で触れてみると、指に液体がまとわりついてきた。
なんだこれ! 振り払おうと、手を振ってみても、全然とれない!
手についた液体を取ることに夢中になってたら、振り回した手が当たって、瓶を落としてしまった。割れた瓶の破片が床に飛び散って、中に入っていた液体が床に広がる。
ど、どどど、どうしよう! また壊した!! 壊すなよって言われたのにーー!!
えーっとえーっと……とりあえず、割れた破片を集めて、床を拭こう!!
えーっと……雑巾……雑巾は……
部屋をキョロキョロ見渡すけど、雑巾は見つからない。代わりに、背後で音がした。
え!? なに? なに?
振り向くと、液体が落ちて黒くなったところから、灰みたいなものが飛び出している。なにこれ!!
灰は床からどんどん湧いてきて、それは噴水みたいに天井まで噴き上がる。このままじゃ部屋が灰だらけになっちゃう!
ま、まずい……棚もそこに置いてある瓶も、すでに灰だらけだ!!
わわわわわわっっ!! どどどどうしよう!! 雑巾……雑巾どこー!?
探している間にも、頭の上から灰が降ってくる。そして、急にそれが止まった。
何が起こったの?
見上げたら、灰がだんだん固まって、噴き上がっていた灰は太い幹に、四方に飛び散っていた灰は枝になり、最終的に、大きな木になった。その木には、柿がいっぱいなってる。
か、柿の木を作る液体だったの?? あの瓶の中身、魔法の道具なのかな? なんで柿の木を作る液体なんて作ってるんだろう?
やっぱりオーフィザン様って、変な魔法使いだ。
ん? あ、あれ!? 僕の大事なぬいぐるみがない!!
キョロキョロして、あのぬいぐるみを探す。あれ、大事なものなのに!!
すぐそばの柿の木を見上げたら、その枝に、何かが引っ掛かってるのを見つけた。
あ! 木の上だ!! 枝に引っかかってる!!
僕はすぐに木に登ろうとした。だけど、幹に足をかけた瞬間、急に頭がクラっとした。
え……え? な、なにこれ……か、体が熱い……だ、だけど、あのぬいぐるみだけは取り返さないと……
フラフラしながらも、必死に幹にしがみつく。それなのに、体に生まれた熱はますます増していく。な、なにこれ……敏感なところが、ピクピクしてる。
「う……あ、ああ! や、やだあ!!」
なんだこれ……オーフィザン様の泡でいじめられた時みたいだ。頭の猫耳がピクピクしてる。うう……体の中が熱いよお……な、なんで急に……
「ひううぅ……あ、あ!!」
もう無理ーーーーっ!!
我慢することをやめて、木から離れて力を抜くと、体の中でめちゃくちゃに膨らんだ欲望が噴き出していく。呆然と射精を繰り返す僕。
うわああ……気持ちいい。それに、なんだか頭がぼーっとしてきた。もう全身が快感で溶けていくみたい。射精もまだ終わらない。
ドロドロ精液を溢れさせながら、僕はフラフラ木に近づいた。
ぬいぐるみ……取り返さないと……
木に登ろうと幹に触れると、僕が触ったところだけ、灰に戻ってしまう。
しかも、灰に戻ったところから、またさっきみたいに、いっぱい灰が噴き出してきた。と、止まらない!!
噴き出した灰は僕の体に降りかかってくる。このままじゃ灰に埋もれちゃう!
射精も止まらないし、もう立っていられない。僕は、その場に倒れこんでしまう。それでも体の昂揚はおさまらない。射精しながら灰に埋もれていく僕の体。
もう、頭には灰が積っちゃってるし、体は動かないし力が入らない。なんとかしなきゃって思うのに、ふわふわした夢心地の中にいる。もうこのままでいいかな……
だけどその時、バン、と乱暴に扉が開いた。
オーフィザン様だ!!
一気に頭が夢心地から現実に戻る。
え、ちょ、ま、まずい……
わけがわからない状態になった部屋を見て、オーフィザン様は一瞬固まり、灰に埋もれた僕を睨みつけ、怒鳴った。
「このバカ猫!! なにをしているっ!!」
「ご、ごめんなさいぃ……これ、止めてください……」
11
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説


淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる