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10.また怒らせちゃった……
しおりを挟む僕がこの城へ来たばかりの頃、シーニュに城を案内してもらって、執事達の部屋の場所も教えてもらった。オーフィザン様の部屋のすぐそばだ。
僕は、そのドアの前に立って、ドキドキする胸に手を当てて、なんとか落ち着こうとしていた。
ここへ来たのは初めて……セリューの部屋だから、緊張する。オーフィザン様には二人の執事がいるらしいけど、僕はセリューしか知らない。
そっと、ドアに耳を当ててみる。物音も声も聞こえない。誰もいないのかな??
ドアノブに手をかけるけど、開かない。鍵がかかってる。困ったな……
なんとか開かないかと、鍵穴をいじってみるけど、開く気配はない。鍵は、多分セリューが持ってるんだろう。
セリューから鍵をかすめ取るのは無理だなあ……
そうだ。ドアがダメなら窓から入ろう!!
僕は、部屋から少し離れた廊下の窓を開け、セリュー達の部屋の窓を確認した。
ここは三階だけど、この窓からセリューたちの部屋の窓までなら、大した距離じゃない。壁伝いに行けば、なんとかなる! 僕はこう見えて身軽なんだ!!
落ちないように、慎重に窓から外に出る。風はないし、なんとか行けるはず!
ゆっくり壁に張り付きながら進む。
あと少し……
なるべく下は見ないように、目的のセリューの部屋だけを目指して、壁を伝って近づいていく。
そしてついに、僕の指先が窓枠についた!!
やったーー!! たどり着いた!!
早速窓を開こうとしたけど、窓が開かない。
な、なんで?? 何で開かないのーー!?
あ、そうか! 窓にも鍵がかかってるんだ! やっぱりセリューって意地悪……これじゃ忍び込めないじゃないか!!
なんとか開かないかな……
窓を引っ張ったり押したりしてみるけど、やっぱり開かない。
こうなったら、窓を割るか!
だけど、朝いっぱい物を壊して怒られたばかりだ……うう、どうしよう……
悩んでいたら、胸の辺りに、柔らかい感触。
「ひゃ!!」
うそ……なんでこんな時に泡が動き出すの!?
うう……す、すごく感じる……こ、こんなところで……
下を見下ろすと、三階のここが、すごく高いところに感じた。地面なんか、遥か下だ。こんなところから落ちたら、絶対死ぬ!!
とにかく、出てきた窓まで戻ろう。そうしないと落ちちゃう。
「う……う、あ、ああう……」
苦しい……乳首、すごく感じる。そこをおさえたくても、こんなところで変に動いたら落ちる。
我慢しなきゃ……だけど我慢しようって考えれば考えるほど感じる……
「う、うあん……ひっ!」
だ、ダメだ……我慢しなきゃ………………我慢するなんて無理!!
そうだ! 朝、シーニュと話していたら、少しおさまったんだ。何か声に出して話していたら、落ち着けるかもしれない!
えーとえーと……
「ひっ……っ!! ……あ……あんっ……!」
やだ……感じすぎて、その度に体から力が抜ける。こんなことしてたら、絶対落ちる!!
何か言えば楽になれるんだ。
えっと……あの時は何話してたんだ? えっと……あの時話してたこと……
「お、オーフィザン様の馬鹿……オーフィザン様のバーーカーーーーッッ!!!!」
あ、ちょっと楽になった……
朝も、これを言ったら少し楽になったんだ。きっとオーフィザン様に文句言ってスッキリしたら、泡は大人しくなるんだ。これからはこれで抑えよう!
オーフィザン様に聞こえてたら、すごくまずいけど、朝も聞こえてなかったみたいだし、多分大丈夫だ。きっと、いつもどおり部屋にこもっているんだろう。
よし、感じたら叫ぶことにして、ゆっくり出て来た窓まで急いで戻るぞ!!!!
慎重に、出て来た窓を目指して進む。後少しだ。
「ひゃん!!」
また? なんで今動くの!? 危ないし、本当に腹が立つ!! みんないろいろひどい!!
「オーフィザン様のバーーカーーーーッッ!!」
あ、楽になった。スッキリするし、この方法、いい。
もしかして、オーフィザン様の魔法って、これを言ったら効かなくなるのかな? きっとそうだ! これがオーフィザン様の魔法を効かなくする呪文なんだ!
安心したら、急にガクンって、僕の足が壁から滑る。
「え?」
何が起こったんだろうって思った。
気づいた時には、僕は頭から地面めがけて落ちていた。
足を滑らせた僕の体は、壁から離れてどんどん下まで落ちていく。目指していた窓は遠ざかり、下から吹いてきた風が僕の横をすり抜け、代わりに地面が近づいてくる。
うそっ…………!! 死ぬっ……!!
ぎゅっと目を瞑る。
だけど、僕は死にはしなかった。ふわっと体が風船みたいに浮いたからだ。
うわ……すごい、僕、一瞬で体重軽くなっちゃったの?
ゆっくり、僕は庭に下ろされる。何が起こったのか分からなくて、自分を見下ろしてまじまじと眺めていたら、庭の向こうから、誰かが僕に向かって歩いていた。
「何をしているんだ?」
「あ、オーフィザン様……」
オーフィザン様が助けてくださったのか……変態じゃない普通の魔法も使えるんだ……
僕は、近づいてくるオーフィザン様に頭を下げた。
「あ、ありがとうございました! 助けていただいて……」
「二回も大声で呼ばれたからな」
「え? 誰にですか?」
「……お前にだ」
「え? 僕、呼びましたか? ………………あ」
……まさか……さっき叫んでたの、聞こえてた!? なんで!? だってお城は広いから、オーフィザン様には聞こえないって思ったのに! シーニュと歩いているときは、聞こえてなかったみたいなのに。
「えーとえーと……き、聞こえましたか?」
「ああ。近くの部屋にいたからな」
「あ……あ……あ……」
そう言えば、セリュー達の部屋とオーフィザン様の部屋、近いんだ。
「そ、そう言えば……部屋、近かったですね……で、でも、あれは落ちそうになって仕方なく……じゅ、呪文だし……」
「呪文?」
「は、はい……オーフィザン様の魔法、オーフィザン様の馬鹿って叫ぶと、効かなくなるんです」
「……そんなおかしな魔法をかけた覚えはないぞ」
「え? お、おかしいな……でも、そうなんです! そ、それに、その……し、仕方なくて……壁伝いに進んでいるのに、あの変な魔法のせいで何度も落ちそうになって……」
「変な魔法?」
「あ……ち、違うんです! 違います! オーフィザン様の魔法が変って言ってるんじゃなくて、変態だなって……」
「……変態?」
「あ! だ、だって、だって、壁にくっついて歩いてる時に動くから……」
「なぜあんな所を歩いていたんだ?」
「それはその……セリューの部屋に忍び込もうとして……」
「忍び込む?」
「あ、ち、違います! 杖を探そうとして……」
「杖ならここにある」
オーフィザン様が右手を出すと、その掌に光が灯って、僕が探していた杖が現れる。
あれ? あるの?
それに、あの杖は折れたはずなのに、ちゃんとくっついてて、朝、僕が折る前の杖に戻ってる。
「な、なんで……?」
「今朝、セリューが見つけたと言って持って来た」
「え? あ、そ、そうなんですか……?」
「……ちょっと来い」
「え? ど、どこに?」
「いいから来い」
「な、なんで……僕、何かしましたか?」
「……ああ。いろいろした」
「え? な、何を? ま、待って……」
また怒らせちゃったみたいだ……
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