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8.なんでこんなことするの!?

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 城の中へ戻ると、また泡がクルクル動き出した。

 ううー……この泡、なんとかならないのかな……?

 胸を刺激されて、僕の体は、だんだん熱くなっていく。気持ちいいのに恥ずかしい。なんでシーニュの前でこんなことになるの? こんなところで快楽に悶えているなんて……恥ずかしすぎて辛すぎて、涙がでてくる。

「…………うあ……ひん!!」

 我慢できなくて、僕はその場に座り込んじゃう。

 シーニュが、僕の顔を覗き込んできた。

「クラジュ?」
「うー……うー……」
「……オーフィザン様も困ったお仕置きするなー……俺が困る……なあ、お前のねぐら、戻るか?」
「う、う……うん……」

 頷いて、シーニュに寄りかかりながら立ち上がった。まだ辛いけど、なんとか歩けそう……

「よし、ゆっくり行くぞ」

 シーニュが歩き出す。僕もそれに合わせて、ゆっくり歩いた。

 落ち着け……落ち着いた方が、泡も動かない気がする!!

 恐る恐る歩く僕に、シーニュが話しかけてきた。

「なあ、昨日、どうだった?」
「……え?」
「話してる方が気がまぎれるだろ? 昨日、どうだった? その…………オーフィザン様のところ行って………………ご、ごめん、き、聞かない方がいいよな……」
「シーニュ……気にしないで……お、お風呂……入っただけ……」
「ふ、風呂? そうか……」
「シーニュ、ほ、ほんと……に、そんなに……気を使わなくていいよ……」
「え?」
「僕……もともと奴隷だし……ひどいことされないなら、それでいい……」
「クラジュ……」
「だからそんな風に哀れなものを見る目、しないで……」
「……うん。ごめん……」
「あ、ああ!!」

 泡にひときわ強く胸を刺激され、耐えきれず、僕はまた座り込んでしまう。

「う、う……あ、あ……やっぱりこんなのやだーーーーっっ!!!!」
「は!?」
「泡、辛いー! おーふぃざんさまのばかーーーーっっ!!」
「お前今殊勝なこと言ったばっかだろ!! でかい声で何言ってるんだっ!!」
「だって……は、恥ずかしいし……あ、あうう……気持ちいいし……ふ、あ、あう……イキたい……こんなのひどい……うう……あ、あう!!」
「泣いてんだか喜んでんだか、分からないんだが……」
「泣いてるよ! 辛いんだよ! オーフィザン様の馬鹿……変態! ひどい……僕、そんなに悪いことした……?」
「お前も悪いと思うぞ……ほら、行くぞ!」
「う、う……お風呂行く……」
「は?」
「お風呂行って泡落とす!」
「か、勝手にそんなことしちゃダメだろ! お仕置きなんだから! あとで怒られても知らないぞ!」
「だって落とさないと、杖探せない! あれ、セリューが持ってるんだよ! シーニュの前でも困るけど、セリューの前でこんな風に感じてたら、僕、鞭で打たれちゃう!」
「ああ……しそうだな……おい! 待て! クラジュ!!」

 止めるシーニュを振り切って、僕はお風呂に走った。いつも一番最後に入ってた使用人用のお風呂に飛び込んで、体を洗ったけど、泡は全然落ちない……

 後から服を脱がずに浴室に入って来たシーニュが、タオルを差し出してくれる。僕はそれで一生懸命胸をふいた。

 ダメだ……何をしても泡は全然落ちない。絶望した僕は、脱衣所に座り込んじゃう。

「オーフィザン様の馬鹿……」

 なんでこの泡、こんなに丈夫なの? 魔法の泡だから? なんでこんな変な魔法ばっかり使うの? 変態…………オーフィザン様なんて嫌いだ!!

「ふぁ……うぅう……あ、あう……」
「おい、クラジュ、大丈夫か? とにかく、ねぐらまで行くぞ」
「うん……あ、あ……」
「ほら、肩貸してやるから……」
「うん……」
「……辛いのか?」
「うん……ひ、ひどいよ……オーフィザン様なんて嫌い……オーフィザン様のバーーカーーーーっっ!!!!」
「お、大声で言うなよ。ほら、立てって。連れて行ってやるから」
「うん……」

 あ、泡、止まった。立ち上がったから? それとも、オーフィザン様の悪口言ってスッキリしたからかな……?

 なんとか歩けるようになった僕は、シーニュに連れられて、城の敷地の端にある、大きな倉庫まで来た。ここの奥が、僕がいつもねぐらにしているところだ。

 初めてこの城に来た時は、他の使用人達と同じ部屋で寝るように言われたんだけど、あの頃の僕は、他の人といるのが辛くて、部屋の端でメソメソ泣いてばかりだった。そしたら、使用人達のリーダー、ランキュ様に、そんなにここが嫌なら、倉庫ででも寝ろって言われたんだ。

 ここなら一人だし、静かだし、あまり人も来ない。だから、割と気に入っている。シーニュにはひどく心配されたけど、ここにいる時が、僕は一番落ち着くんだ。

 奥まで行くと、隅にいつも僕が寝ている毛布が置いてある。シーニュは僕をそこまで連れて行ってくれた。

「大丈夫か? クラジュ」
「う、うん……」
「わり……俺、そろそろ仕事に戻らないと……セリューのところ、一人で行けるか?」
「うん」

 本当は行きたくないし、できればシーニュについて来て欲しい。だけど、シーニュにだって仕事がある。甘えすぎたら迷惑だ。

 僕は、引き止めたいのをこらえて頷いた。

「僕は大丈夫だよ。シーニュ、ありがとう……」
「……また後でな。杖、見つからなかったら言えよ」
「うん……」

 うう……やっぱり一緒にいて欲しい。だけど我慢しなきゃ……

 僕は、一生懸命自分を抑えて、シーニュを見送った。



 ここからは一人だ。一人でセリューのところへ行って、杖を返してもらわなきゃ。

 セリューの前で感じたりしたら、何をされるか分からない。

 この泡、落とす方法ないのかな……あ、そうだ。別の石鹸で落ちるかも!

 もう一回お風呂に入ろうと立ち上がるけど、倉庫の中に誰か入ってくる足音が聞こえて、びっくりした。

 誰だろう。この時間は普段誰も来ないはずなのに……

 積んであった木箱の影から顔を出すと、倉庫の扉を開けて、僕よりずっと背が高くて意地悪そうな顔をした使用人のリーダー、ランキュ様が入ってくる。

「……誰かいるのか?」
「あ、はい……僕です……」

 答えて、僕はゆっくり前に出て、その場に跪いた。本当は出てきたくなんかないけど、隠れているのがバレたら、酷いことをされる。

 この人は、僕が一番怖いと思っている人。ペロケと違って、僕が迷惑をかけるようなことをしなくても、すぐに怒り出して暴力を振るう。今日もいつもどおり、僕を見ただけで、すごく不機嫌そうな顔をした。

「お前か……ここで何をしている?」
「あ、あの……僕……」
「お前はもうオーフィザン様の性奴隷だろう。それなら、このねぐらにも戻る必要はないはずだ。消えろ。汚らしいクソ猫が!!」

 ランキュ様は僕に唾を吐きかけ押しのけると、置いてあった毛布とか枕とかを取り上げ、持っていた大きな袋に全部突っ込んでしまう。

「な、何をするんですか!?」
「こんなもん、もういらねーだろ。全部捨てるんだよ!」
「やめてください! 片付けるなら、僕がしますから!」
「触んな! 汚ねえ!!」

 飛びついた僕を、ランキュ様は振り払う。床に叩きつけられ、打ち付けた所がズキズキした。痛い……

 顔を上げると、ランキュ様が袋の中に、小さな狼のぬいぐるみを突っ込むのが見えた。

 あれ……僕が一番大事にしてるものなのに!!

 僕は、そいつの腕に飛びかかった。

「やめてっ!! それは返して!」
「うるせえんだよ!!」
「大事なものなんです! 返して!」

 どれだけ頼んでも、ランキュ様は返してくれない。止めようとその腕に飛びついた僕を、乱暴に振り払う。

 あれだけは取り返す。本当に、あれは大事なものなんだ。

 すぐに立ち上がり向かっていく僕を、そいつは蹴り飛ばす。蹴られた鳩尾が痛いし、うまく息ができない。

 そこをおさえてうずくまる僕に、ランキュ様はゆっくり近づいて来た。

「気持ちわりーんだよ……お前……」
「やっ!!」

 怖くて震える僕を、そいつは何度も蹴った。

 大切なものを返して欲しいだけなのに、なんでこの人は、僕に乱暴するんだろう……僕は何か悪いことをしたの?

「柿泥棒が図々しい! とっとと出ていけよっ!!」
「や、やめて………………ゴホッ……」

 蹴られたところが痛いし、それ以上に怖い。僕には頭を抱えて丸くなり、痛みに耐えることしかできない。

 もうこのまま蹴り殺される。そう思った時、倉庫の入り口の方から、間延びした声が聞こえた。誰かが入ってきたんだ。

 それを聞いたランキュ様は、やっと蹴るのをやめてくれた。

「おーい。何してるのー?」

 ちょっとぼんやりした感じの声で言いながら、男の人が近づいてくる。この声は、料理人のダンドだ。

 僕より背が高くてふわふわしたくせのある茶髪のショートカットの料理人さん。お腹を空かせた僕に、おやつをくれる優しい人だ。

 ランキュ様は、ゆっくりダンドに振り返る。

「ダンド……何の用だ?」
「お酒取りに来たんだよー。後、コーヒー豆。ティータイムの準備しないといけないからさー」

 ダンドは、うずくまる僕をちらりと見てから、ランキュ様に向き直る。僕に暴力を振るっていたことがバレて、ランキュ様はダンドから目をそらした。

「なんだよ……言っとくけど、これは躾だぞ。言うことを聞かないこいつが悪いんだ!!」
「だけど、クラジュはオーフィザン様の性奴隷なんだよ? 怪我させたらまずいんじゃない?」
「……ちっ!」

 ランキュ様は、舌打ちをして倉庫から出て行った。

 よかった……

 だけど、ホッとしたら、蹴られたところがすごく痛く感じてきた。

 鳩尾をおさえて、呻きながら丸くなる僕に、ダンドは優しくきいてくれた。

「クラジュ……大丈夫?」
「あ、ありがとう……ダンド」
「ランキュにも困ったものだね。あ、ごめん。あんまり近づかないで」

 ダンドは口元をおさえて、起き上がった僕から離れる。彼は猫アレルギーなんだ。僕は猫じゃないけど、この頭の猫耳だけでも、くしゃみがでたり、目が痒くなったりするらしい。それでも、ダンドはいつも僕に優しい。

 僕が体についた土を払って立ち上がると、ダンドは少し離れたところから聞いてくれる。

「怪我、大丈夫?」
「う、うん……」
「朝ごはん、まだでしょ? おいで。朝食の時間はもう終わっちゃったけど、残り物くらいなら出してあげるから」
「ありがとう……ダンド……」
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