【本編完結】ネコの慰み者が恋に悩んで昼寝する話

迷路を跳ぶ狐

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3.痛い!

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 浴場へ向かうドアをくぐると、その向こうには、すごく広いお風呂があった。お風呂なのかプールなのか分からない、泳ぐ練習ができそうなくらい広いお風呂だ。深さが湯船の床に座って肩が出るくらいでなかったら、本当にプールと勘違いしそう。

 床は白くてつるつる。なんだか涼しいと思ったら、天井がない。
 見上げると、昼間だから星は出てないけど、青い空がすごく綺麗で、空の中にいるみたい! 湯船からふわふわ上がる湯気は、雲みたいだ。

 こんなお風呂に、一人でゆっくり入れたら、気持ち良かったんだろうなあ……もう逃げたい…………


 さっさと先に行ってしまうオーフィザン様に、僕はだんだん小走りになりながらついて行った。

 だけど床がつるつるで歩きにくい……しょっちゅう転びそうになる。

 もっとゆっくり歩いてくれないかな……


 オーフィザン様は、湯船のそばにしゃがんで、お湯に手をつける。彼が手についた雫を落とすと、その雫は床に落ちる前に膨らんで、宙に浮く大きな水の球になった。

「さあ、来い。まずは体を洗うぞ」
「は、はい……」

 僕が急いで駆け寄ると、オーフィザン様は水の球を指して言う。

「座れ」
「え? こ、これにですか?」
「早くしろ。俺が洗い方を教えてやる」
「は、はい……」

 これ、水の球なのに、座って大丈夫なの?

 恐る恐る、水の球に腰を下ろす。

 ふああ……温かい……元がお風呂のお湯だからかな? お尻が濡れることはなくて、プニプニしてる。

 こんな座り心地初めて……

 ぷよんぷよんって球の弾力を楽しんでいたら、オーフィザン様は、手にいっぱい泡をつけて、僕に振り向いた。


 え? お、オーフィザン様が洗うの? 僕が洗うんじゃなくて?

 できれば僕が洗いたい……

 体に触られるのは嫌だ。だけど、逆らうとまた怒らせちゃうし……

 我慢だ!

 僕は目を瞑った。

 すると、オーフィザン様は、タオルの下から手を入れ、泡がいっぱいついた手で僕に触れてきた。

 く、くすぐったい……!! が、我慢だ……我慢しなきゃ……

「ふ、う……う……ふぁ……」
「どうした?」
「う…………」
「……俺が聞いたことにはすぐに答えろ」
「うぅぅ…………ひゃ! え、えっと……あの……く、くすぐったくてっ……! た、タオルを落としてしまいます!!」
「そうか……」
「う……や、やめて……」

 く、くすぐったいって言ってるのに、なんでやめてくれないの!?

 手を動かされるたびに、体がピクピク動いて、猫耳も震えてる。くすぐったくて、だんだん背中が丸くなっていく。タオルの下は、きっと泡だらけだ。

 無理……やっぱり無理ーーーー!!


「お、おーふぃざん……さま……やめて……ください……」
「……見つけたぞ……」
「え?」

 オーフィザン様が、急に手を止める。そして、ぐっと指に力を入れて、僕の体を握るようにしてから、言った。

「お前の体には魔法がかけられている」
「え? は、はい……」
「知っていたのか?」
「はい……かけた人に、かけたって言われました」
「かけた人とは誰だ?」
「…………ここに来る前……猟師みたいな人たちに捕まったことがあって……その時です……」
「なぜ俺に黙っていた?」
「え? だ、だって、かけられたのはここに来る前だし、い、言わなきゃならないなんて思わなかったので……」
「……どんな魔法か知っているのか?」
「……僕を苦しめる魔法ってことしか知りません……」
「拷問でもされていたのか?」
「……」
「そうか……」
「いたっ!!」

 い、痛い……痛い!!

 オーフィザン様が、僕の胸のあたりに爪を立てたんだ。痛すぎて、体が縮みあがっちゃう。

 一体なにするの!?

「な、何を…………い、いたい……痛いです…………」
「我慢しろ。魔法の正体を探っている……なるほど……」
「い、痛い……う、う……」
「お前、感じ方を調節されているな……苦痛に敏感に、快楽にはひどく鈍感にされている……」
「うぎゃあっっ……!!」

 ひどい……爪が肌に食い込んできて、体を貫かれちゃいそう。

 体を逸らして逃げようとしたけど、オーフィザン様は僕を強く抱き寄せて、逃がしてくれない。ぎゅうって抱きしめられて、逃げられないようにされて、ぐいぐい爪を肌に押し当てられる。

「痛いか?」
「い、いたっ……痛いっ……です……」
「ダメだな……他にも別の魔法がありそうだが、見えない。仕方ない……先に正体が分かったものだけ解くぞ」

 また、ぐっと強く、オーフィザン様が爪を突き立ててくる。

 なんでこんなことするの!?

「ああっっ……! ぃ、いたっ……!!」
「……無理か……」
「い、痛い……ぎゃああぁぁっっ!!」
「おい、聞け。今からお前の魔法を解く。だが一度に解けば、お前の体が壊れてしまう。少しずつ解くぞ……」
「うぐ……」
「よし……」

 オーフィザン様はやっと爪を抜いてくれた。い、痛かった……

 痛みからは解放されたけど、体がフラフラして、僕は水の球から落ちてしまう。

「いた……」

 今度はお尻打った。

 なんであんな酷いことをするんだ。絶対怪我してる……

 だけど、爪を立てられたところを触っても、血は出ていない。

 それでも、痛いものは痛い!! やっぱり、オーフィザン様も、怖い人なんだ……


 怖くて、震えながらオーフィザン様を見上げると、その人は僕を見下ろし、得意げに笑っていた。

「これで一段階解けた。どうだ?」
「……な、何が……ですか?」
「魔法を少しだけ解いた。何か以前と違うところはあるか?」
「……えっと……………………特に何も……違うところはないです……」
「そうか……まあ、いい。これからだ。さあ、座れ」
「……」
「安心しろ。もう痛くはしない。魔法が解けたか確認するだけだ」
「……はい」

 信用できないなあ……だけど、逆らってもっと痛くされたら嫌だ。座るしかないのかな……


 僕は、泡だらけになっちゃったタオルを握り直し、それで体を隠しながら、水の球に座った。

 怖いよ……なんでこんなことされなきゃならないんだ。

 オーフィザン様は、わざわざ僕の背後に回って、タオルの下から、僕の背中に、泡だらけの手で触れた。

「ひゃっ!!」

 な、なんだこれ! すごくくすぐったい……!!

「じっとしていろ」
「は、は、はい……」

 じっとしてるなんて、できるかな……さっき、ちょっと触れられただけで、すごくくすぐったかったのに。

 オーフィザン様は、もう一度僕に触れる。

「ひっ!」

 む……無理ーー!! 触られるたびに体がびくって震える!

 ちょっと触られてるだけなのに、泡が僕の体の上を動くたび、背筋がピクピクする。

 こんなの我慢なんて絶対無理! 体なんか、自分で洗うよ!!

「うっ……ひんっ……ひゃっ……」
「じっとしていろ」
「無理です! あ、あの!! 後は……じ、自分で洗わせて……」
「ダメだ」
「ひゃああっ!!」

 オーフィザン様が、手を前に回してきた。胸に泡がつく。ぬるっとしてて温かいものが塗りつけられて、ゆっくり落ちていく。落ちる泡の感触すらくすぐったいよ……

「う……う、もう……」
「長く苦痛だけ感じて、快楽は感じられなかったのだろう? 楽しんだらどうだ?」
「う……ひぃっ!」

 一瞬、泡が僕の胸の先に触れた。一瞬だけなんだけど、その刺激に耐えきれず、僕はオーフィザン様から飛び退いた。

「あ、あの、本当に……自分で洗いますから……わっ!!」

 オーフィザン様は僕の首に何か巻きつける。

 こ、これ……首輪? 首輪つけられちゃったの!?

 首輪につながっている鎖を持ったオーフィザン様は、ちょっと機嫌が悪そう。

「いちいち逃げるな。少し大人しくしていろ」

 最悪だ……完全に怒らせた……
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