従者になりたい犬と犬に悪戯したい魔法使い様

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
63 / 68
第六章

63.嫌じゃない

しおりを挟む





 日が暮れる頃の、夕飯の時間。

 いつもどおり騒がしい食卓についたチイルは、食事に手をつけることもできず、じっと俯いていた。


 食卓には、すでに美味しそうな食事が所狭しと並んでいて、誰もが大騒ぎしながら食事を続けているのに、何も食べることができない。


 風呂は入った。

 着ていたものも、今は浴衣に着替えている。


 けれど、さっきのことばかり考えてしまう。


(びっくりした……びっくりしたよおぉぉぉ……)


 思い出すと、顔が熱くなっていく。


 自分で言ったことの意味が分かっていなかったわけではない。
 きっと何か、恥ずかしいことをされるんだと、そう思っていた。
 それは覚悟していたつもりだが、あんなにドキドキするなんて、思わなかった。



(だけど……触れてもらって嬉しかったのに……)



 二人の腕の中にいた時のことを思い出すと、一気に体が熱くなる。
 恥ずかしくて、ずっと顔を隠していたくて、両手で顔を覆ってしまう。


 食卓には、今は二人の姿はない。
 それが、ホッとするようで、寂しい。
 今二人に会ったって、どんな顔をしていいかわからないのに。


(どうしよう……二人の前で……僕…………イっちゃったんだ……)


 あの時、漏らした白濁で畳を汚した時のことばかり考えてしまう。


(……あんなとこ見られて……二人とも、どう思ったんだろう…………)


 ますます顔を隠したくなる。ついでに頭まで抱えて呻いてしまう。
 イノゼスが心配して、大丈夫ですかと聞いてくれるが、チイルはそれどころではなかった。


(二人に会っちゃったら……何で言おう……どんな顔してればいいの!? そ、それに、さっき逃げちゃった……嫌ならしない、どうするって言われて…………逃げちゃったんだ!!)


 ハッとして、今度は青くなっていく。


(ご、誤解されたらどうしよう……嫌で逃げたって思われてたら……!)


 二人に囲まれて、触れられて、酷くドキドキした。射精させられて、真っ赤になるくらい、恥ずかしかった。

 けれど、嫌ではなかった。

 そっと、さっき触れられた首元に手をやる。軽く押すと、ずきんと痛んだ。

 二人にキスされた跡が二つ。


 いたくて、苦しいくらいドキドキしたが、二人にそうされたことは、嫌ではなかった。


(でも……僕、逃げちゃったんだ……ど、どうしようっ……! このままじゃ誤解されちゃうかも!!)


 そんなことになったら、もう二人とも、触れてくれないかもしれない。


 それは嫌だ。


(やっぱり、ちゃんと言わなきゃっ……!!)


 さっきの続きをちゃんと話そうと決意する。


 すると、突然チイルの前に、チイルの大好物の肉巻きおにぎりを並べた皿が出てきた。

 耳元から、これから話そうと思っていた相手の声が聞こえる。


「チイル……全然食べてないな……大丈夫か?」
「で、デスフーイさま!?」


 びっくりして、飛び退く。


 彼は、おにぎりの乗った皿を持って、微笑んだ。


「そんなにびっくりしたか? ごめんな……何も食べてなかったから……ほら、これ、好きだろ?」


 彼は、チイルに持っていたものを差し出す。


 わざわざ、チイルのために持ってきてくれたらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...