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第六章
63.嫌じゃない
しおりを挟む日が暮れる頃の、夕飯の時間。
いつもどおり騒がしい食卓についたチイルは、食事に手をつけることもできず、じっと俯いていた。
食卓には、すでに美味しそうな食事が所狭しと並んでいて、誰もが大騒ぎしながら食事を続けているのに、何も食べることができない。
風呂は入った。
着ていたものも、今は浴衣に着替えている。
けれど、さっきのことばかり考えてしまう。
(びっくりした……びっくりしたよおぉぉぉ……)
思い出すと、顔が熱くなっていく。
自分で言ったことの意味が分かっていなかったわけではない。
きっと何か、恥ずかしいことをされるんだと、そう思っていた。
それは覚悟していたつもりだが、あんなにドキドキするなんて、思わなかった。
(だけど……触れてもらって嬉しかったのに……)
二人の腕の中にいた時のことを思い出すと、一気に体が熱くなる。
恥ずかしくて、ずっと顔を隠していたくて、両手で顔を覆ってしまう。
食卓には、今は二人の姿はない。
それが、ホッとするようで、寂しい。
今二人に会ったって、どんな顔をしていいかわからないのに。
(どうしよう……二人の前で……僕…………イっちゃったんだ……)
あの時、漏らした白濁で畳を汚した時のことばかり考えてしまう。
(……あんなとこ見られて……二人とも、どう思ったんだろう…………)
ますます顔を隠したくなる。ついでに頭まで抱えて呻いてしまう。
イノゼスが心配して、大丈夫ですかと聞いてくれるが、チイルはそれどころではなかった。
(二人に会っちゃったら……何で言おう……どんな顔してればいいの!? そ、それに、さっき逃げちゃった……嫌ならしない、どうするって言われて…………逃げちゃったんだ!!)
ハッとして、今度は青くなっていく。
(ご、誤解されたらどうしよう……嫌で逃げたって思われてたら……!)
二人に囲まれて、触れられて、酷くドキドキした。射精させられて、真っ赤になるくらい、恥ずかしかった。
けれど、嫌ではなかった。
そっと、さっき触れられた首元に手をやる。軽く押すと、ずきんと痛んだ。
二人にキスされた跡が二つ。
いたくて、苦しいくらいドキドキしたが、二人にそうされたことは、嫌ではなかった。
(でも……僕、逃げちゃったんだ……ど、どうしようっ……! このままじゃ誤解されちゃうかも!!)
そんなことになったら、もう二人とも、触れてくれないかもしれない。
それは嫌だ。
(やっぱり、ちゃんと言わなきゃっ……!!)
さっきの続きをちゃんと話そうと決意する。
すると、突然チイルの前に、チイルの大好物の肉巻きおにぎりを並べた皿が出てきた。
耳元から、これから話そうと思っていた相手の声が聞こえる。
「チイル……全然食べてないな……大丈夫か?」
「で、デスフーイさま!?」
びっくりして、飛び退く。
彼は、おにぎりの乗った皿を持って、微笑んだ。
「そんなにびっくりしたか? ごめんな……何も食べてなかったから……ほら、これ、好きだろ?」
彼は、チイルに持っていたものを差し出す。
わざわざ、チイルのために持ってきてくれたらしい。
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