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第五章
51.後始末がありますから
しおりを挟むデスフーイがチイルとガルテイデを連れて行き、残った警備隊長のレアデウは、ため息をついて言った。
「……フィーレア……あの、ガルテイデという奴は、後で返してもらうぞ。あれも人買いの仲間だろう?」
「いいえ。チイルの友人です。私の犬が悲しむようなら、返しません」
「……無茶なことばかり言わないでくれ……お前はいつも無茶ばかりする……どうするんだ? 中の連中、みんな気絶しているじゃないか。連れ出すだけで一苦労だぞ……」
「大丈夫です。皆さんには、これから起きていただきますから」
フィーレアが、ぱん、と手を叩く。
すると、それまで気絶していた男たちが、ガバッと起き上がった。
けれど、自然に意識を取り戻したのではなく、全員が魔法で無理矢理目覚めさせられただけ。
フィーレアとデスフーイの魔法による、内臓を切り刻まれるような痛みも同時に蘇り、誰もが絶叫してのたうちまわる。
呻くような、喚くような、悶え苦しむ声が、狭い路地裏に響き渡り、レアデウはつい、両手で耳を塞いで顔を背けてしまった。
しかし、魔法をかけた当のフィーレアは、阿鼻叫喚の中を悠々と進んで、チイルを痛めつけた村長の前に腰を下ろす。
「やはり……最初から、チイルの魔力が狙いだったのですね」
「がっ……あぁぁっ……な、なぜ…………なぜここにっ……!」
「適当な名目でチイルを捕らえ、彼の魔力を、自らの欲望を満たすために利用する気だったのでしょう? 村の連中も、半数くらいはぐるですね? 恐らく、あなたの言う、チイルの魔力が全て悪いという言葉を盲信した者が少し、気付きながらも黙認した者が大半、一部はあなたとぐるになり、分け前をもらうつもりだった、といったところですか?」
「……ぐっ……」
「チイルを村の中に監禁し、魔力を生み出す道具にする、その上で、何かトラブルが起これば、彼の邪悪な魔力のせいだと適当な嘘でごまかす。チイルを好きに弄び、甘い蜜は吸えましたか?」
「…………ぅっ……」
「ご安心ください。あなただけを苦しめはしません。加担したものも、気付きながらもチイルに石を投げ続けたものも、全てに同じ報いが襲いかかるでしょう」
「ぐっ……ああああああっ!」
絶叫に背を向け、フィーレアは、レアデウの元へ戻ってくる。
倒れた男たちの体が大きくひしゃげ、それを背にしても無表情でいる彼は、悲鳴が響く中でも、まるでそれが聞こえていないかのようだった。
「レアデウ殿、ここは、これから来る部下の方々に任せて、少し……場所を変えませんか?」
「……なに?」
「ここは騒がしくて、ゆっくり話すには、少々不向きですから」
「……分かった……」
レアデウの屋敷にやってきたフィーレアは、場所を変えようと言った割に、ずっと、窓の外を眺めていた。
使用人が並べていった紅茶に手を伸ばし、テーブルについたレアデウは、ため息をつく。
「あの魔法は解けるんだろうな? これからあいつらには、人買いのグループの実態を聞き出さなくてはならないんだ。ぎゃーぎゃー喚いている状態では、なにも聞けないぞ!」
「いずれ解けます。それより、村の中で行われたこと、しっかり調査してください」
「……そっちにも人をやる…………どうせお前たちが先回りしているんじゃないのか?」
「……どうでしょう?」
フィーレアは、首を傾げてティーカップを手に取った。
レアデウは知っていた。彼のこの仕草は、肯定の証であることを。
ため息をついて、レアデウは紅茶を一口飲んだ。
「あの村には、魔法使いがいたらしいな……それが中心になって動いていたのか……」
「……チイルの魔力を利用して、魔物を呼ばせてそれを捕獲するつもりだったのでしょう。しかし、予想に反して、作業はうまくいかなかった。村長たちは焦ったことでしょう。全くうまくいかないどころか、チイルを捕らえても人魂が消えないと、村人たちが騒ぎ出してしまったのだから。そこで、チイルの魔力は悪魔の魔力だと騒ぎ立て、拷問を続けた……彼らにしてみれば、うまくいかないことへの八つ当たり、もしくは気晴らしの意味も混じっていたのかもしれません」
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