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第五章
50.一緒にいけないんですか?
しおりを挟む今度は階下から生まれた魔力の玉が、ガルテイデ目掛けて飛んでいく。しかし、すぐにそれに気づいたチイルは、辺り一面に魔力の弾丸を飛ばした。
「伏せてっ!!」
叫んだチイルの言葉に従い、ガルテイデは頭を低くする。
その頭上を飛んだチイルの弾丸は、向かってきた魔力の玉を全て撃ち落としていく。
猛攻が終わり、それを一人で防いだチイルは、倒れたままのガルテイデに駆け寄った。
「だ、大丈夫?? 痛くない? ぼ、僕、回復の魔法が使えないんだ……」
「別にいい……お前にそんなことをしてもらういわれはないし……僕が使えるから」
「よかった……あ!! あれ、集めなきゃ!」
ガルテイデが回復している間に、チイルは階段に散らばった、小さな魔力の塊を集めて、袋に入れていく。
「いっぱい集まった……これで、フィーレアさまとデスフーイさまに喜んでいただける!」
すると、背後から、ガルテイデの呆れたような声が聞こえた。
「お前……こんな時でも、あの二人のことしか考えてないんだ……」
「だ、だって……僕、魔力の玉の回収、頑張るってお二人と約束してるんだ……ガルテイデ、足、どう?」
「……もう大丈夫」
「よかったぁ……じゃあ!」
チイルは、ガルテイデに背を向けしゃがみ込む。
しかし、なにをされているのか分からないガルテイデは、首を傾げた。
「……なんの真似?」
「おんぶしていく!! 足、怪我してるから!」
「……いらない。僕の話、聞いてた? 回復の魔法をかけた。足はもう治ってる」
「わ、分かってるけど、痛そうだから!」
「……それは、魔法をかけたばかりだから。じきに痛みは引く」
「あ! 待ってっ……!」
チイルを置いて、ガルテイデは、階段の終わりにあった扉を開いた。
その先は廊下で、外へ続く扉が見える。それを目掛けて走ったのだろうか、数人の男たちが、さっきと似たような状況で倒れていた。
チイルは、異様な光景に、また震えだしそうだった。
(しっかりしなきゃ……ガルテイデは怪我をしてるんだから……僕が守らなきゃっ……!)
「こ、この人たちも、人買いの仲間……?」
チイルがたずねると、ガルテイデは真っ青な顔で頷く。
「気絶してるみたい。早くっ……出よう! ここ、危ない!!」
微かに震えているガルテイデが、チイルの手を取って走り出す。
走る先にあるドアは、外につながっているはずだ。
しかし、扉を開いて飛び出した瞬間、ガルテイデは、息を飲んで足を止めた。
飛び出した先は、確かに目指した建物の外だった。しかし、周りには何人も、人が倒れている。ガルテイデの見知った者もいれば、知らない者もいた。その体は、ところどころ何か強い力で押されたかのように歪んでいる。
一方、ここまで走ってきたチイルには、その扉を出た先に立っていた、フィーレアとデスフーイのことしか見えていなかった。
「フィーレアさま! デスフーイさま!!」
叫んで、二人に飛びつく。二人と一緒に立っていたレアデウが、無事だったかと呟いて、ホッとした顔を見せてくれる。
フィーレアもデスフーイも、チイルを抱きしめてくれた。
「よかった……チイル。無事でしたか」
「怪我してねえか? 魔力の玉、飛んでただろ?」
二人に聞かれて、チイルは笑顔で顔を上げた。
「大丈夫です!! ぼ、僕、いっぱい集めました!!」
チイルが集めた魔力の塊を見せると、二人とも嬉しそうに笑って頭を撫でてくれる。
「よく頑張りましたね」
「偉い偉い。よくできたな」
褒められると、嬉しくて尻尾を振ってしまう。
するとフィーレアは、ゆっくりと、チイルの後ろの、扉の前で突っ立ったままのガルテイデを指した。
「それで……チイル…………彼は?」
デスフーイの方も、似たような様子で首を傾げる。
「お前以外の奴は、全員ぶっ潰したはずなんだけどなあ……」
「え?」
何のことか分からなくて、チイルは、自分が走ってきた方に振り向いた。
チイルが出てきた扉の周りには、数人が倒れている。誰もが、出てきた建物の中にいた人たちと、同じような状態だった。
「あ、あの……フィーレアさま、デスフーイさま……か、彼らは……? 中にも人が倒れていたんです……」
すると、フィーレアはにっこり笑う。
「中の方々が、結界を張るなどというこざかしい真似をしたので、結界内にいる、あなた以外の者の体を、全て締め上げさせてもらいました。千切れる寸前まで締め付けたので、倒れているだけです」
「え…………?」
いつも優しい彼が何を言ったのか、すぐには理解できない。戸惑っていると、フィーレアはチイルに、にっこり笑った。
「大丈夫です。私が命じれば、皆さんすぐに起きますから」
「そうなんですか?」
「はい」
微笑むフィーレアは、チイルの背後にいたガルテイデを再び指差す。
「それで、彼はどうしたのです?」
視線を向けられ、ガルテイデは震え上がる。
主が、彼に敵意のこもった視線を送っていることに気づいて、チイルも慌てた。
「ち、違うんです!! 彼は友達です!」
「ともだち?」
「はい!」
「しかし、あなたをここに連れ込んだのは彼でしょう?」
「そ、そうだけど……彼は、僕に親切にしてくれて、僕が殴られそうになったら、庇ってくれたんです!! お、お願いです……! 僕を捕まえなかったら、彼が売られちゃうところだったんです!!」
チイルに言われて、フィーレアもデスフーイも、ため息をついた。
「なるほど……あなたのそばにいたから、彼だけはああして立っているわけですか……仕方がありません。あなたがそう言うのなら」
「そうだな……ま、そいつはチイルに手を出してないみたいだし……不本意だけどな」
チイルが、ほっとしてありがとうございますと言って頭を下げると、二人とも、微笑んでくれる。
そして、フィーレアはデスフーイに振り向いた。
「では、チイルをお願いします」
「……ああ。任せとけ。いくぞ。チイル」
デスフーイは、軽々とチイルを抱き上げるが、チイルは焦った。まるでフィーレアだけ残るかのような口ぶりだったから。
やっと二人の主に会えたのに、どちらと離れるのも嫌だ。
「フィーレアさまはっ……!? い、一緒にいけないんですか!?」
「私は、後片付けをしなくてはなりません。あなたはデスフーイと、先に帰っていてください」
「…………いつ、お帰りになるんですか?」
「すぐです。帰ったら、今日がんばったご褒美をあげます」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
チイルがお礼を言うと、フィーレアが微笑んでくれる。頭の耳を撫でられて、ホッとしたチイルは、自分を抱っこしているデスフーイに、自分で歩くと言ったが、デスフーイは聞いてくれない。
そして、フィーレアに、あまり見せない顔で振り向いた。
「……本当に、一人でいいのか?」
「何の心配をしているのです? 気色悪い……早く行きなさい。今は誰か、信頼できるものがチイルのそばにいなくては、私もこれからのことが手につきません」
「フィーレア…………そうかー、そんなに俺が信頼できるか!」
「そんなことは言っていません」
「今言っただろ今!!! 数秒前に!!」
「早く行きなさい。チイルに誰も近づけないでくださいね」
「分かってるよ……」
うなずいて、デスフーイはガルテイデに、お前もついてこいと言って、チイルを連れて、その場を後にした。
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