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第五章
45.ここはどこ?
しおりを挟む一方、暗い建物の中に連れ込まれたチイルは、キョロキョロしてあたりの様子をうかがっていた。
煉瓦造りの建物は、二階建てのようだったが、すでに外壁のほとんどを蔦が覆い、壁はところどころ、剥がれかけている。中は、長く掃除などはされていないらしく、廊下の床には埃がたまり、カビや雑草が生えていた。窓は所々割れているが、外から板が打ちつけられ、外の様子は見えないようになっている。
前を歩くのは、チイルをここへ導いた男、精霊族のガルテイデだ。初めてチイルがこの町に来たとき、彼は、チイルに声をかけてくれて、チイルを心配してくれた。
この中で、炎のような魔力の玉を見たと言われてついて来たが、そんなものは見当たらない。
(今にも壊れそう……)
二の足を踏むチイルだったが、ガルテイデは、扉を開いて中に入っていく。
慌ててチイルはついていった。
「ま、待ってください!! こ、こっちで魔力の玉を見たんですか?」
「うん。こっち」
ガルテイデが奥にあった扉をひらくと、その奥には、薄暗い部屋があった。
そして、そこには、数人の男たちが待っている。
ぞっとするチイルに、男のうち一人が振り向いた。
「ガルテイデ、そいつか?」
「はい……探していたチイルです」
彼はこたえて、チイルを部屋の中に突き飛ばす。
部屋の真ん中に倒れるチイルを、周りの男たちが見下ろしていた。
あの恐ろしい記憶が蘇りそうだ。訳もわからず、暗い部屋に閉じ込められ、毎日、荒んだ視線を向けられた時の記憶が。
震えながら振り向くと、チイルをここまで連れて来たガルテイデまでもが、部屋の中の男たちと似たような目で、チイルを見下ろしていた。
「あ、あの……ガルテイデさん……?」
「……ごめん。最初から、こういうつもりだった」
彼はそう言って、チイルから目をそむける。
今度は、チイルを取り囲む男のうちの一人が、チイルに近づいて来た。
「しばらく……大人しくしてもらうぞ」
男の手が、チイルに伸びてくる。ゾッとした。
逃げなくてはいけないのに、あの時の記憶が蘇って、動けない。
すると、その男からまるで庇うように、ガルテイデが間に入って来た。
「これのことを捕まえたのは僕。僕がこれを見ている」
「……お前が? お前なんかに任せられるか!! これがいくらすると思ってるんだ! 出すところへ出せば、城が買えるぞ!!」
「……分かっている。けれど、フィーレアとデスフーイの二人も来ている。今頃、あの二人が、これを探しているはずだ。これの見張りに人員を割いている場合じゃない」
「……」
すると、その男は大人しく離れた。
「ちっ……それを逃してみろ。お前の首を切って肉を売りさばいてやるっ! いくぞっ!!」
その男の声を合図に、周りの男たちは、手に武器を取って、部屋から出ていった。
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