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第五章
42.街の警備隊だって大変なんだ邪魔しに来ないでください少し黙れよもう帰れ!
しおりを挟むそれから何日かして、チイルは城下町にやってきた。
魔力の玉集めは、街の警備隊が人を雇って行っている。早朝の城下町で、集合場所である街の中央の広場にやって来て、集まったアルバイトたちの前に立ったのは、チイルが初めてこの街に来た時と違い、警備隊長のレアデウだ。
普段は、部下に任せていることだが、人魂と呼ばれて騒がれている、いつもとは違う魔力の玉のこともあって、隊長が自ら回収にあたることになったのだ。
そして、快晴の朝の広場で、集まったアルバイトたちを前に、レアデウは頭を抱えたくなった。
チイルが来るとは聞いていない。
チイルの魔力を狙う者がいる。その件については調査中、フィーレアたちには、チイルを守るよう、頼んでおいたはず。
それが、ある日突然、魔力の玉が飛び交い、それどころか、正体不明の人魂と呼ばれるものが現れ、その捕獲のために、不特定多数の者が集まる広場に現れたのだ。
しかも、少し緊張した面持ちのチイルの背後には、彼の頭の耳を撫でたり尻尾をいじったりして、デートにでも来たのかと言いたくなるような様子のフィーレアとデスフーイが立っている。
二人はチイルの後ろにピッタリくっついて、チイルの世話を焼いていた。まるで自慢の子供の初出勤に、くす玉と打ち上げ花火を持ってついてきた困った親のようだ。
こっそり彼らに駆け寄り、何しにきたんだと聞きに行ったが、二人とも後で話すの一点張りで、取り合おうとしない。
仕方なく、レアデウは広場の中心で、アルバイトたちに向かってこれからの仕事の説明を始めた。
「え、えー……初めまして。この街の警備隊長のレアデウです……あー……こ、これからみなさんには、街に溢れる魔力の玉を捕獲してもらいます……最近では、人魂と呼ばれる、正体不明の炎のような魔力の玉も現れ始めています……」
どうしても、チイルの後ろの二人が気になって仕方ない。
しかも、説明が終わり、何か質問はありますか、と聞くと、一番に、チイルの後ろのフィーレアが手を上げた。
ああ面倒だと思うが、無視はできない。
「……なんですか? そこの、さっきから犬の耳弄ってる人……」
「犬ではなくて、チイルです。彼を犬と呼んでいいのは、私だけです」
「……質問って、それですか?」
「いいえ。今日は快晴です。昼には、魔力の玉を追って走るには暑すぎる気温になると思うので、魔法で空を曇らせていいですか? チイルは暑いのが苦手なんです」
「ダメです。昨日まで雨で、やっと晴れて洗濯物が干せるんです。我慢してください」
「では、涼しい風を吹かせるのは?」
「……それは勝手にやっていただいて結構です」
レアデウが答えた途端、周囲に涼しい風が吹く。
魔力が勿体なくないかと聞きたくなるが、チイルの頭を撫でてやることに夢中になっているフィーレアに言ったところで無駄だろう。
気を取り直して、説明を続ける。
「えー……人魂を確保すれば、ボーナスが出ます。ただし、あの人魂については、まだわかっていないことが多いので、あまり無茶をしないように」
すると今度は、デスフーイが手をあげた。
「なあ!! チイルが怪我すると困るから、俺が人魂処理していいか?」
「…………それだと、チイルはいなくてもいいんじゃないんですか?」
「チイルがいると、俺はやる気が出る!! だからいるだけでいいんだ!」
「……もう好きにやっていただいて結構でーす」
議論は諦めて、投げやりに答え、集まった面々に振り向く。
「集合時間は正午。そこで一度、集めた魔力の玉を回収します。来ない者は、報酬を辞退したものとしますので、遅れないように」
すると今度は、あまりこの辺りでは見かけない、精霊族と思しき男が手をあげる。薄い水色のふわふわしたショートカットの髪がキラキラ光り、背はチイルと同じくらい。
他のアルバイトたちもみんなが彼に振り向く中、彼は無表情で言った。
「隊長は一緒に魔力の玉を追うんですか?」
「……あー……その予定でしたが……別の用事ができたので……後で玉の回収には合流します。何かあれば、街を巡回する警備隊に声をかけてください。他にありませんか?」
早口で説明し、集まった人たちを見渡すと、またフィーレアとデスフーイが手をあげる。
(面倒臭い……もう黙れ!!)
怒りに任せて無視しようかと思ったが、助け舟が入った。
チイルが二人に、真っ赤な顔でもうやめてくださいと言い出したのだ。
「お、お二人とも……僕、大丈夫です……人魂は、僕に任せるって、おっしゃってくださったのに……僕、が、がんばります! 見ていてください!!」
彼が可愛らしく、尻尾を振りながら言うのを聞いて、二人とも彼の耳だの尻尾だのをいじりながら、やっと黙ってくれる。
(チイルさん……)
少し、チイルに対して、熱い気持ちが生まれそうになる。
他に数人も、チイルに振り返り、美味しそうなものでも見るかのような視線を送っている。
それに気づいたフィーレアとデスフーイが、チイルを見ていた男たちを睨みつけていた。
レアデウは、今日は残業になるなと覚悟した。
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