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第四章
37.ダメですか?
しおりを挟む玄関先まで、使者を見送ると、首にあとをつけた男は、怒りと恐れが混じった顔で振り向いた。
「や、約束だぞっ……い、いえ……や、約束っ……してください……ひ、人魂が出たら、そ、それをっ……いえ……チイルを返してくださいっ……!」
まだ怖いらしく怯えながら、一方的な言葉だけを残して、使者は逃げるように屋敷を出て行った。
使者が去った後、デスフーイはすぐにフィーレアにつかみかかる。
「てめえ!! あんな連中助ける気か!?」
「ええ。もちろん」
「……お前、どうしたんだよ……? 本気か?」
「例えば私たちが村を焼き払ったとして、チイルがそれを望むとは思えません。チイル……」
フィーレアが振り向くと、少し離れたところの角から、チイルが出てくる。
「チイル……聞いていたのでしょう?」
「……申し訳ございません……」
「あなたは気にしないでください」
「そ、そんなわけには参りません!!」
「村の魔力は私たちが消しておきます」
「で、でもっ……城下町でも人魂が出てきているって……」
「そっちは大したことありません。いずれ私たちが出て、人魂を破壊してきます。城下町の人魂というのは、おそらく特殊な魔力の玉のことでしょう。そんなものの破壊くらい、すぐに終わります」
「……」
チイルは俯いてしまう。
そして、しばらくそうしたあと、急に顔を上げた。
「そ、それっ……! 僕に行かせてください!!」
「……あなたに? 城下町の人魂の破壊を、ですか?」
「はい……僕、ここに来る前、城下町で魔力の玉を集めていたんですっ……! ぼ、僕にもできます!!」
「チイル……」
「ぼ、僕、ずっと、自分の魔力を扱えるように練習してました!! だから……」
「それは知っています。あなたが魔力を扱えるようになったことも。だからこそ、ダメです。せっかく少しずつ体が回復しているのに、そんなことはさせられません」
「フィーレアさま!」
「ダメです。心配しなくても、あの男はまるであなたの魔力が城下町の人魂の原因であるかのように言っていましたが、あなたはすでに、魔力を扱えるようになっています。あなたが原因のはずがありません」
「そ、それでもっ……僕に行かせてもらえませんか!? お願いします!!」
「ダメです。危険です」
「でもっ……い、今、そんなのすぐ破壊できるって……」
「私たちがやればすぐだというだけです。危険です。ここにいてください」
「フィーレアさま!! お、お願いします!」
「ダメです」
「ぼ、僕だって、フィーレアさまの従者です!! お二人のお役に立ちたいんです!!」
「ダメです」
「フィーレアさま!」
「ダメです」
「な、なんで……なんでそんなにダメなんですか……?」
「ここから出ないでください。城下町は危険です。だいたい……」
ふと、チイルに振り向くと、彼は目にいっぱい涙を溜めている。頭の耳と尻尾も垂れていて、それでも泣き出すのを必死に抑えているかのようだった。
「お、お願いします! どうか……僕……行きたいんです! フィーレアさま!! お願いします!!」
「……」
フィーレアはしばらく黙っていた。
チイルを行かせたくない。魔力の玉のことだけじゃない。城下町には危険なことがいくつもある。チイルを狙う者がいるかもしれないのだ。
けれど、ついにデスフーイまでもが、チイルの肩を叩いて言った。
「……チイルに、お前は自由って、約束してるだろ。俺がチイルを見てる。それなら、問題ないんじゃないか?」
「あなたまで、何を言っているんですか。分かっているでしょう。チイルを手中に収めようとしている輩がいるかもしれないんですよ?」
「分かってる。だけど、チイルだって、これまで、魔力の制御のために頑張ってきたんだ。実戦で腕試ししたくなるのは当然だろ」
「……」
悩んだ。
行かせていいのかと。
行かせたくはない。けれど、これ以上続けても、行きたい、ダメだの言い合いになるだけだ。
ついに、フィーレアはうなずいた。
「分かりました……準備ができたら、行きましょう。ただし、約束してください。チイル……無茶はしないでください」
「フィーレアさま…………あ、ありがとうございます……っ!」
彼は、ペコっと頭を下げる。
普段なら、こんなわがまま、許したりしない。
チイルが少し申し訳なさそうな顔をしている姿を見ると、やはり敵わないような気がした。
(全く、面倒なものを拾ってしまった……)
ため息をついて、チイルには、今日はゆっくり休むようにと言って、フィーレアは客間に戻った。
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