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第三章
31.パンツ脱げって格好良く紳士的に言う方法を教えてくれ
しおりを挟むデスフーイは、心の中でほくそ笑んだ。
デスフーイの言った拘束具は、拘束の魔法を使うときに、よく利用される。乳首と局部を隠せる下着のようなもので、それをつけさせられた者は、それと首輪だけを身につけた状態でいるように命じられることが多い。ほとんど裸に近いその姿で引き回されるだけで、かなりの恥辱を与えられることになる。その上、それは魔法でできているから、それが当てられた場所を、いつでも好きに痛めつけることも、甘くみだらに刺激することも可能だ。敏感な場所に淫靡なものを当て、裸同然の姿で衆目に晒すためのものだった。
しかし、デスフーイがそんな話を持ち出したのは、無論、チイルを辱めるためではない。
この拘束具をつけたからと言って、それをつけて引き回したり、乳首や局部をいじり回すために使わなければ、見た目はただの下着と変わらない。ただし、拘束具というだけあって、それを作った者が許可しなければ、脱ぐことはできず、誰かに脱がされることもない。
早い話、チイルに、これ以上勝手に露出した格好をされたくなかったのだ。
彼はこれからずっと、ここにいることになる。今回のように、少し目を離した隙に、ストーフィあたりに下着同然の格好で庭に出されたり、着物を脱がされやすいように着せられたのではたまらない。彼に、自分以外の前でそんな格好をされたくないし、そういうことは、自分が彼にしたい。
ついでに、ちょっとびっくりして恥ずかしがるチイルを見ることもできる。その上で、二度と勝手に露出させないようにする。
(これこそ、一石二鳥……俺、すげえ!!)
自分では、そう思った。素晴らしい案だと。
しかし、それを聞いたフィーレアは、胸を張るデスフーイに、ちょっと来なさいと言って、彼を奥へ連れて行った。
また取り残されてしまったチイルが、キョトンとしている。
フィーレアは、チイルから絶対に話し声が聞こえない部屋の隅までデスフーイを連れて行き、身をかがめて小声でデスフーイを非難し始めた。
「デスフーイ……どういうつもりです? あれをチイルにつけさせる気ですか?」
「どうもこうも、手っ取り早く下着つけさせる良い方法だろ? もちろん、それ使ってチイルいじめようなんて、考えてねえよ」
「そうかもしれませんが……そういう問題ではありません!! この馬鹿っっ!!」
興奮したのか、だんだんフィーレアの声は大きくなっていき、馬鹿、のところだけ、チイルに聞こえそうなくらい大きい。
それが聞こえて、向こうでポツンと待つチイルが、びくっと震えるのが見えて、フィーレアは慌てて声を縮めた。
「一体どうする気ですか? あれは裸にならないとかけることができないんです! いきなりチイルに服を脱げと言う気ですか?」
「はあ!? そんなの聞いてねえぞ!! なんだそれ!!」
「なんだじゃありません! 拘束具の魔法を使うなら、チイルを裸にしなくてはなりません。あなたが言い出したことでしょう!」
「そうだけど!! こんなことになるなんて思わないだろ!! え!? ぜ、全部脱がないとダメなのか!? い、いきなり裸になんかしたら、チイルがかわいそうだろ!!」
「私とあなたの二人でやれば……下着だけ取った状態でも、なんとかなるかもしれませんが……」
「……本当か!? すげえなお前!! さすがだ!! 俺はお前に感謝しているぞ!」
「……馬鹿の感謝はいりません。ちょうどよく、チイルは今、着物を着ています。下着だけ取って、着物を羽織って体を隠してもらう。その上で、魔法をかけましょう」
「すっげーいいアイデア……お前、すげえな! ま、拘束具を脱げない下着がわりにした俺はもっとすげえけどな!! これでもうチイルに俺らの知らないところでエロい格好させたりできないぞ!」
「……では、あなたが、チイルに今、下着を脱ぐように言ってください」
「は!? 俺がか!? し、下着脱げっ!?」
「どちらかが、彼に下着を脱ぐように言わなくてはなりません。裸になるよりマシでしょう」
「そうか……そうだな…………下着だけなら……おい、待て。お前は俺に、チイルにパンツ脱げって言わせる気か!?」
「それくらい仕方ないでしょう。パンツ脱がなきゃ、魔法にかけられないのですから」
「だ、だけど、そんなの言ったら俺が変態みたいじゃないか」
「あなたが言い出したことです。ちょうどよく、チイルは拘束の魔法の練習をする気でいますし、あなたの言ったとおり、私たちの知らないところで、チイルが脱がされることがないようにする手段としては、素晴らしいアイデアです。練習に関しては、最初に何度も確認していますし、チイルだって、多少は承知の上でしょう」
「で、でも、いきなりパンツ脱げなんて言えないだろ!!」
「自分でまいた種です。チイルを見てみなさい。練習だと言われて、ちゃんと待っています。それに、事あるごとに、チイルにあんな格好でうろつかれては困ります。あの拘束具でしたら、外れることもありません。もう一度言いますが、あなたのアイデアです」
「そ、そうだけど……」
確かに、彼にはちゃんとした下着をつけていてほしい。
しかし、なかなかパンツを脱げとは言えない。
特に、チイルが少し離れたところで、キョトンとして、少し不安そうな目で、少し恥ずかしくて赤い顔をして、けれど褒美と言われて期待しているのか、少ししっぽを振りながら、お預けを喰らった子犬のように待っていれば尚更である。
(あんな顔して待ってるチイルに……俺は今からパンツ脱げって言うのか? …………変態じゃん!! 嫌われるっ……!! チイルに絶対嫌われるっ……!)
期待して待つチイルの前に、自分が仁王立ちで立ち、パンツ脱げよと言い放つ。そしてチイルに、「デスフーイさま……最低……怖い……もう嫌いです……」と言われている自分の未来が想像できてしまい、デスフーイは何度も首を横に振った。
そして、他人事だと思って無理難題を言い出したフィーレアに、すがるように言った。
「お前、何かいいアイデアないのか!?」
「どんなアイデアですか……」
「だから、かっこよく幻滅されずにパンツ脱げって言う方法だよ!! なんかいい方法考えろ! 下手に言ったらまたチイルに怯えられる……嫌われるだろ! チイルを怯えさせず、びっくりさせずに、嫌われないように、格好良く紳士的にパンツ脱げって言う方法考えるんだよ!! 今すぐ!!」
「紳士はそんなことを言わないと思います。そもそも、今ここでチイルにパンツを脱げと言えば、絶対的優位な立場にある私たちが、逆らえない立場のチイルに、その上下関係を利用して、パンツを脱げと命じることになります。場所が違えば秒で捕まり人生終わりです」
「人生終わること俺にさせんな!! お前も一緒に考えろ! 絶対的優位な立場で逆らえないチイルにその上下関係を利用してパンツ脱げって言っても、捕まんなくて終わらなくてこいつクズだなーって思われない方法!」
「ないです」
「ないなら無理だろ!! 俺チイルに嫌われんの嫌だからな!!」
「…………仕方がありません……あなたがクズ扱いされるのは構いませんが、その横にいる私まで同類だと思われてはたまりません。それに、チイルがパンツ脱ぐところはみたいですし」
「そ、そうか! そうだよな! お前が素直なクズで俺は嬉しいぞ!!」
「助けを求める割に、突き放したくなるような賛辞をありがとうございます。見捨てます」
「見捨てんな!! なんか考えるのはお前の方が得意だろ!」
「私の方が得意なのではなく、あなたは考えることができないだけです。では、最後の手段を取りましょう」
「おおおーー!! ちゃんと案あるんじゃないか! さすがだぞ! フィーレア!!」
「いいですか? チイルに、圧倒的に高圧的な態度で、パンツを脱げと言うんです」
「……は?」
堂々と、いかにも素晴らしいアイデアを自信たっぷりに披露するかのように言われて、最初は、何のことか分からなかった。そして、頭の中で何度もそのアイデアを反芻し、やっとデスフーイは理解した。解決になっていない。
「なんだよそれ! それがダメって話してたんだろ!!!!」
「いいえ。そんなことありません。いいですか? この際、圧倒的に上の立場から、拘束の魔法の練習のためだけに言っている、ということにするんです。一切、いやらしいことは考えていない。そうすれば、練習のためだけに、主人として言っているだけだという体を装うことができます。下心なんて、一切ない。そんな風な顔をして言う。そうすれば、チイルの願いだけを叶えるためにしているというように見えるかもしれません」
「なるほど……あくまでチイルのためっぽい顔をするのか……それなら、俺たち、クズじゃないな!」
「はい。そうです。頼みましたよ」
「分かった! 任せとけ!!」
同意して、チイルの方に振り向いて、自分がこれから彼に言うことを考えて、そしてまた気づいた。やっぱり解決になっていない。
デスフーイは、もう一度フィーレアに振り向いて、小声で言った。
「待てよ! どんな態度で言おうが、なにが目的だろうが、パンツ脱げって言うクズさは変わらなくないか!?」
「少しくらいは仕方がありません。他に妙案があるというなら、言ってみてください」
「……あるわけないだろ……」
「腹をくくりましょう。デスフーイ」
「ぐ……」
呻いて、デスフーイはチイルに振り向いた。
チイルはやはりキョトンとしている。それでも、デスフーイと目が合うと、彼は嬉しそうに笑う。
(くそ……チイルに二度と下着でうろつかせないためだ!! 俺らがいない間に、チイルにいたずらされてたまるか!!)
決意する。
下心は当然ある。チイルがパンツを脱ぐ、しかもそれを自分が命令する、考えただけでドキドキする。
しかし、もちろんチイルを思う気持ちもある。
何度も自分に言い聞かせ、デスフーイは、チイルの前まで戻り始めた。
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