従者になりたい犬と犬に悪戯したい魔法使い様

迷路を跳ぶ狐

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第三章

30.ご褒美やるよ

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 ストーフィが出ていった後も、フィーレアとデスフーイが自分をじーっと見たまま動かないので、チイルは困ってしまったようだ。

「あ、あの……フィーレアさま? デスフーイさま?」


 声をかけられて、やっと二人はハッとなった。気づけば、ストーフィは部屋におらず、キョトンとした顔のチイルが、自分たちを見上げている。

 チイルの前で、見惚れてボーッとなってしまうなんて、失態にも程がある。

 情けないところを見られたくなくて、デスフーイは大仰な仕草で両手を振った。

「わ、わりっ……な、なんでもない!! あ、あいつは? ストーフィは!? どこ行った!?」
「え? えっと……さ、さっき出て行きました……」
「は!? い、いつの間に…………」
「ついさっき……その障子から……」
「そ、そうか!! それならいいんだ!! そ、その格好、どうしたんだ!?」
「え……と……ストーフィが着せてくれたんです……」
「そ、そうか……に、似合ってるぞ! 可愛いな!」
「本当ですか!?」

 チイルがキラキラした目で見てくるから、デスフーイは、ひどく心臓が跳ね上がるようだった。

(笑うんだ……そんなに笑うほど……嬉しいんだ……)


 まさか、そんなふうに喜ばれるなんて、思っていなかった。

 大きな目で、彼が笑っただけで、胸が熱くなる。
 彼の目を見ているだけで、何も言えなくなりそうだったが、見惚れているなんて悟られたくない。

 デスフーイは、自分では気づかないままの真っ赤な顔で、口を開いた。

「あ……ああ……すげえ……よく似合ってる……」
「嬉しいです! デスフーイさま!!」
「……」

 無邪気に笑う彼に、いつのまにか、手が伸びた。


 指先が、触れそうになる。


 けれど、チイルはどこか困ったような顔をして、俯いてしまう。

 視線が合わなくなって、デスフーイの手も止まった。

「チイル……? どうしたんだ?」
「あ、あ、あの……え、えっと……ぼ、僕……ご、ごめんなさい!! お、お二人のうちどちらかを選ぶことは……できません!」
「あ、ああ……そんなことか!! 気にすんな!! 今朝は悪かったな! 選べ、なんて無茶言ったりして!」

 デスフーイが弁解を始めると、フィーレアもチイルに微笑んだ。

「今朝は無茶を言ってしまいました。反省してます。もう無理に、選ぶ必要はありません」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。申し訳ございませんでした」
「そ、そんな……いいんです! ありがとうございます! フィーレアさま! デスフーイさま!!」

 元気に返事をする彼だったが、すぐにまた俯いてしまう。

 まだ何か、心配なことがあるのかと思い、デスフーイは、できるだけ彼に優しく聞いた。

「チイル……? どうした?」
「あ、あの……えっと……その…………その……」

 彼は震えながら話し出す。

「その…………お……お仕置きのこと……」
「あ! ああ! それか!! なんだ……そんなこと気にしなくていいんだ!! あ、あんなの、冗談に決まってるだろ?」
「で、でもっ……わ!!」

 言いかけて顔を上げた彼の着物が、少しずれて、襟から彼の肌が見えそうになる。

「おいっ……!!」

 デスフーイは、慌てて着物を抑えた。その拍子に、彼のか細い両腕を握ってしまい、ますます動揺してしまう。

(うわっ……折れそうっ…………! 壊れそうだ…………小型犬かよ…………なんで見つめるんだよっ!!)

 また目があって、耐えられなくなったデスフーイは、すぐに目を逸らした。

 手を離して逃げてしまいたかったが、今離すと、彼の肩から着物がずり落ちてしまう。少し大きいとは言え、普通に着せれば、こんなふうに脱げるはずがない。


(くそっ……ストーフィのやつ、わざとゆるく着付けしやがった!!)


 いたずら心からなのかもしれないが、チイルに至近距離で見上げられて、しかもその目は少し潤んでいる。恥ずかしいのだろう、顔は少し赤い。

 彼の肌がチラチラ見える状況で、さらにそんな顔で見上げられて、すぐにデスフーイの限界が近づいてくる。

 顔は赤くなるし、心臓はひどく早く打つし、息苦しくなりそうだ。


(ダメだ……このままだと、俺の方が先にぶっ壊れる……)


「ち、チイル……ちょっと、着物抑えてろ」
「は、はい!」

 彼が自分の着物を、ちゃんと抑えたのを見て、デスフーイは彼から手を離し、彼から一歩後ずさる。


「チイル…………今日は、お、お仕置きじゃなくて、お前に……ご、ご褒美、やるよ……」
「え!? ご、ご褒美!? でも……僕……約束を破ったのに……」
「今日がんばったからそのご褒美だよ!! 受け取れ!! 命令だ!!」
「は、はい!!」

 デスフーイの勢いに、チイルは驚きながらも、大きくうなずいて、返事をする。


 ほっとしたデスフーイは、さらに続けた。


「じ、じゃあ……その……ご、ご褒美に……し、下着やるよ……」
「え……し、下着?」
「うん……下着。ちゃんと胸とケツ、しっかり隠せるやつ。そ、それ、あげるから……ちゃんと服を着ろ!! そ、それと、あんまり……その……え、えっちな格好するんじゃねぇ!!」
「は、はい!!」
「い、今からやるのは……拘束具だ……」
「こ……拘束具?」
「うん……拘束具。拘束の魔法の練習だよ……あの魔法使う時に、よく使われる拘束具があるんだ。それを身につけてもらう。心配しなくても、下着みたいなやつだから……」
「……え…………でも……」
「でも、じゃない……拘束の魔法の練習するって言っただろ? 嫌だなんて言わせねぇぞ……」
「う……」

 震えながら、チイルはうなずいて、小さな声で、はいと答えた。
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