25 / 68
第三章
25.嫌になったのか?
しおりを挟むデスフーイは、一歩チイルに近づいて、その手を取った。
「チイル……どうしても言えないってんなら、無理に聞くことになるぞ……」
「……っ!」
彼の体が大きく震える。
無理に聞き出す、それが、長く地下で拷問されていた彼にとって、どれだけ恐ろしい言葉か、分からないわけではない。
それなのに、なぜ自分はこんなに残酷なことを口走ってしまうのだろう。
彼にだって、言えないことの一つや二つあるだろう。それを許せないはずないのに。
そもそも、他人との深い関わりを嫌ってきたデスフーイには、なぜ今これだけ苛立つのか、自分でもよくわかなかった。
そんな自分への不可解までもが焦燥感を呼ぶ。
「チイル……俺たちは、お前が何してても、怒鳴ったりしない。ただ、危険かもしれないから、聞いているだけだ! 話せ!」
「……!」
それでも、チイルは何も言わずに、じっと震えているだけ。
(なんで……何も言ってくれないんだ!!)
ますます苛立つデスフーイの前で、チイルの背後に立ったフィーレアが笑う。
「チイル……では、これからお仕置きをします」
「え!?」
「あなたがそんなふうでは、仕方がないでしょう?」
チイルは驚いているようだったが、デスフーイも驚いた。
チイルが何をしていたのか、どうしても言えないようなことがあることが分かった今、そんなことをしている場合ではないと思うのだが。
チイル越しに、デスフーイはフィーレアにいいのか、と聞くが、フィーレアはもちろん、としか答えない。一体、どういうつもりなのか。
「チイル、では、選んでもらいましょうか? どちらに、お仕置きをして欲しいか……」
「え!?」
「私とデスフーイ、どちらにお仕置きされたいか、選んでください。自分で。どちらに、どんなふうに痛めつけられたいか、あなたの希望を聞かせてください」
「そ、そんな……」
「さあ、どちらに、どうされたいですか?」
おずおずとチイルは二人を見上げ、不安げな彼にフィーレアは微笑む。
「チイル……さあ、聞かせてください」
「そ、そんな……僕…………」
「チイル?」
チイルは震えながら俯いてしまう。
これには、フィーレアも訝るように首を傾げた。
「……チイル?」
「え……選べません!!」
「は?! ち、チイル!?」
彼は、ふわっとまるで空を飛ぶように飛び上がり、二人に背を向け、屋敷に向かって走っていってしまう。
突然、思いがけずチイルに拒否されてしまい、フィーレアとデスフーイはますます焦った。
「な、なぜいきなり逃げるのです!?」
「……まさか……もう嫌になったのか?」
「嫌?」
「あんだけ話せねえことがあるんだぞ!! 俺らのところにいるのが嫌になったのかもしれねえだろうが!!」
「そういうことではないと思いますが……とにかく、追いましょう!! 彼を一人にしてはいけません!」
「分かってるよ! バーカ!」
すぐに二人も、彼が逃げた屋敷に向かって走る。
まさか、こんなふうに彼に逃げられてしまうとは思っておらず、デスフーイの焦りは大きく膨らんで、不満に姿を変える。
いきなり信頼されるとは思っていない。けれど、理由も言わずに背を向けられるなんて。
(なんで……逃げるんだ!?)
チイルを追って走るデスフーイは、途中でフィーレアとは手分けしようと言って別れ、屋敷中を走り回った後、庭に出ていた。
魔法で屋敷の中を探ろうとしたが、火山の魔力が強くなったのか、屋敷にも、魔力の玉が飛んでいるようで、魔法を使おうとしても、干渉されてうまくいかない。
魔力があふれるこの火山では、よくあることだが、チイルが逃げ出してしまい、冷静さを欠いたデスフーイには、それすら焦燥の種になった。
「チイル!! いるのか!?」
叫んで、辺りを見渡す。
すると、答えたわけではないだろうが、遠くから、声がした。
「デスフーイさま!! 危ないっ!!」
危機を知らせる叫び声と共に、紫陽花の向こうから爪を構えたチイルが飛びかかってくる。そして、デスフーイのすぐ横に飛んでいた魔力の玉を切り裂いた。
彼はすでに汗だくで、焦った様子で顔を上げる。
「デスフーイさま! 大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!?」
身を案じる問いには答えず、デスフーイは、彼の両肩を掴んだ。
「捕まえた!!」
「え? で、デスフーイさま!?」
チイルは驚いているようだったが、デスフーイは、自分のそばにいる魔力の塊には気付いていた。
だが、その程度のもの、たとえ飛んできたところで、デスフーイやフィーレアの体にぶつかれば、破裂して消えてしまう。避ける必要すらないものだから、無視していただけだ。
「捕まえたぞ! さあ話せ!! なんで逃げた!?」
「そ、それは……お、お叱りは後で必ず受けます……い、今は、ここは僕に任せていただけませんか!?」
彼が、庭にふりむいた。
そこには、そこかしこに魔力の玉が飛んでいる。しかし、どれもこれも、小さな魔力が集まったもので、とるに足りない力しかない。
けれど、チイルは爪を構えた。その手を、デスフーイは強く握る。
「落ち着け。大したことない」
「で、でもっ……僕にさせてください!」
「だめだ。お前は怪我が治ったばかりなんだぞ! 休めって言っておいたはずだ!」
11
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる