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第二章
13.結局お前もそういう気かよ!
しおりを挟むチイルをお風呂に送り届けたフィーレアとデスフーイは、脱衣所の外にある縁側で、冷酒と氷菓子を摘んでいた。
本当は風呂で洗ってやると言ったのだが、チイルが真っ赤な顔をして俯いてしまうから、この場は、人の姿に化けた狐たちに任せた。
しかし、風呂に入る前に、一度だけ振り返った時のチイルのすがるような目を見ると、離れることができなくなってしまい、二人は、脱衣所を出たところにある縁側で、酒を飲みながらチイルが風呂から上がるのを待つことにした。
デスフーイは、冷たい酒で気持ちを落ち着かせ、呟いた。
「チイル…………可愛いなー……あんな小さいなりして、俺らの心配してるぞ。俺は、いつお前がキレてあいつら焼き殺すか、ハラハラしてたってのに」
ちらっと、からかいの視線を送るが、隣のフィーレアはびくともしない。平然と冷酒の入った杯を傾けている。
「私とて、無闇に力を振るったりはしません」
「……どうだか。初めてこの話が来た時、相当機嫌悪くて、警備隊の奴らが引いてたの、気づいてなかったのか?」
「あなたこそ、最初から隊長に掴みかかっていたではありませんか。乗り気でなかったのは、あなたも同じでしょう?」
「……まあな」
フィーレアが言っているのは、初めて港町の警備隊長から、チイルを助け出してくれと言われた時のことだ。
正直、はじめのうちは、デスフーイも乗り気ではなかった。
村が、魔力を持ったものから、その魔力を奪おうとしている。なんの知識もなく乱暴にそんなことをすれば危険だ、助け出してくれないかと、城下町の警備隊長から言われ、最初は断った。
しかし、今となっては、引き受けて良かったと思う。
牢でボロボロになって吊るされたチイルを見た時は、かわいそうだと思ったし、助けてやりたいと思った。
そして、そこから自力で逃げ出し、再び暴行を受けた後でも、デスフーイたちのことを案じた彼に興味が湧いた。
「チイル、当分ここにおいとくんだろ?」
「はい。あれの魔力を調べなくてはなりません。見たところ、彼の魔力はかなり厄介なもののようですし、彼は魔力を扱うのが極端に苦手です。放っておけば、漏れ出た魔力は人を襲い、魔物を呼ぶでしょう。村に現れた人魂の正体もまだわかりませんし、しばらくはここにおいて、様子を見て、必要があれば、処置をします」
「……じゃあ、俺たちの従者にしちゃっていいわけだ」
ニヤリと笑って言ったデスフーイに、フィーレアは苦い顔で振り向いた。
「なぜそうなるのです? チイルはここで保護しているだけですよ?」
「分かってるよー。だけど、あれだけ厄介な魔力だ。長い時間をかけて調べるしかない。だったら! さっさと従者にして、言うこと聞いてもらったほうが、こっちだってやりやすい。いちいち逆らわれてたら、処置なんてできないだろ!!」
熱弁するデスフーイだが、フィーレアの冷めた目は変わらない。
「チイル本人も、自分の魔力を制御したいと思っているようですし、逆らうことはないはずです。チイルは私の従者にします」
「結局お前もそういう気かよ!!」
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