虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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後日談

115.返してよ!

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 一向にディロヤルを追い回すことをやめないランギュヌだけど、そんなことをしている隙に、ニュアシュにアイスクリームを全部取り上げられてしまう。ランギュヌの周りを浮いていたアイスを、魔法で取り出したカゴに全て入れたニュアシュは、みんなに振り向いた。

「皆さん、ランギュヌがアイスくれるそうですよー」
「お前さっきから何なの!? 意地悪やめてくれる!? お前らの分なんか一つもない! 返してよ!」

 ランギュヌがニュアシュからアイスを取り返そうとしても、ニュアシュは全く取り合わない。
 自慢のアイスクリームだったらしく、ランギュヌは必死だけど、最初にクロウデライが受け取って、チミテフィッドも食べて、クロウデライにすすめられたギンケールもアイスを咥えて、次々アイスは減っていく。

 返してよ! と怒鳴るランギュヌの前に、ディロヤルが立ち塞がった。

「ランギュヌ……落ち着いてくれ」

 彼はランギュヌの前に、さっきの鎖に絡め取られて潰れた剣の残骸を差し出す。
 ランギュヌが助けてくれなければ、気付くのが遅れて大怪我をしていただろう。

「お前は、私を守ろうとしてくれたのだろう? あ、ありがとう……」
「ディロヤル……」
「だ、だが、こんなことを繰り返していると、また捕縛されてしまう……それはお前にも分かるだろう? 私は……それは嫌だ」
「……」
「やっと、家も立場も考えずに一緒にいられるようになったんだ。私は、今を失いたくない……頼む……」
「…………」

 ランギュヌは少し黙ってから、どこか赤い顔をして頷いた。

「でぃ、ディロヤルがそう言うなら……大人しく、してるよ……」
「そ、そうか……」

 ディロヤルはホッとしたように言って、ニュアシュが差し出したアイスクリームを一つだけ受けとる。そして、一口食べると恥ずかしそうにランギュヌに微笑んだ。

「……あ、甘いな」
「…………」
「……ランギュヌ?」

 ディロヤルに声をかけられても、ランギュヌは真っ赤な顔をして俯いている。振り向かれると弱いのかな……
 かと思えば、とんでもないことを言い出した。

「あ、甘すぎた!?? ごめんね!! じゃあ今度はただの氷にする!!」
「はあ!???」
「それなら甘くないよ!! 今から湖を凍らせるから、たくさん食べてね!!」
「……湖は食べない」
「湖は嫌だった!? だったら……そうだ!! 僕の部屋にいっぱい媚薬があるから、全部凍らせて食べさせてあげるね!!!!」
「いらん!! なぜそうなるんだ!!!!」

 強くディロヤルに断られて、ランギュヌは本気でショックを受けているらしい。

「え? い、いや??」
「嫌だ! 私が嫌がることはしないと約束しろ! そうでないと部屋にはいかない!!」

 赤くなったディロヤルは、食べかけのアイスクリームをランギュヌに返してしまう。

「も、もうあとはお前にやる!! そういうことばかり言うんじゃない!!」

 そう言って彼は砦の方に走っていってしまった。
 すぐに追うかと思いきや、ランギュヌは真っ赤。
 そして、受け取った食べかけのアイスクリームを、じーーっと見下ろしていた。ディロヤルは全く何も考えずにしているんだろうけど、あれ、魔法かけてずっと保管しておきそうな勢いだぞ。
 ランギュヌは、真顔で僕に振り向いた。

「レクレットー……」
「……なんですか……?」
「強化の魔法、使える?」
「なんで今、強化の必要があるんですか?」
「アイスクリームが溶けてなくならないように強化するんだ……ディロヤルが食べたところの形がなくならないように……見て……ディロヤルが舐めたところ……」
「……見ないし、そんな魔法ないです」

 そんなことを話している間に、彼が持っていたアイスクリームは、チミテフィッドに取り上げられてしまう。

「強化なら、俺が得意だ! 何しろ、魔物を一度に倒せるくらい強化できるからな!」
「はあ!? 君のことは信用できない!! 返して!! 返せーーーー!!!!」
「任せておけ!!!!」

 チミテフィッドは自信満々だし、本当にうまくいくと思ってやってるんだろうけど……あれ、絶対に失敗するんだろうな……

 逃げるチミテフィッドから、ニュアシュがアイスクリームを取り上げて、二人の追いかけっこはすぐに終わる。

「二人とも……少し落ち着いてください……わっ……!!」

 ニュアシュが二人に気を取られてアイスクリームから目を離した隙を狙って、ライイーレ殿下がアイスクリームを取り上げてしまう。彼はいつもの小さな犬の姿じゃない。たおやかな美男子の姿で、ふわふわ宙に浮いていた。そして、ニュアシュから掠め取ったアイスクリームも、ニュアシュのカゴに残っていたアイスクリームも、全部一気に食べてしまった。

 ニュアシュが驚いて言う。

「ら、ライイーレ殿下っ……な、何をなさっているのですかっ……!」
「だって、美味しそうだったから」

 ライイーレ殿下は、今度はランギュヌに振り向く。
 恐怖せずにはいられないほどの魔力で城を破壊した王子に振り向かれて、ランギュヌも、緊張したような顔をしていた。

 だけど、ライイーレ殿下は無邪気な笑顔で両手を差し出す。

「もっとないの? アイスクリーム!」
「……食い意地の張った犬の分なんかないよ…………あのアイスクリーム……大事なものだったのに……僕の大事なアイスを食べたばかりか、僕の目の前でディロヤルと間接キスまで…………」
「かんせつきす?? なに? それ」
「黙れクソ犬!!!! 城とアイスとキスの恨み! ここで晴らしてやる!!!!」

 叫んで、ランギュヌが構える。

 何を言われているのか、ライイーレ殿下には分からないらしく、彼はキョトンとしていたけど、すぐにまた、いつもの小さな犬の姿に戻ってしまう。
 ロヴァウク殿下が、魔法でライイーレ殿下をいつもの犬の姿に戻したんだ。

 突然自分の姿が変わっても、ライイーレ殿下の呑気な様子は変わらない。

「あれ? また戻ってるー……まあ、いいや。レクレットーー!!」

 彼は、僕の紙袋に飛びついてきた。

「それ、俺の夜食?」
「はい……たくさん買って来たので、食べすぎないように気をつけてください」
「ありがとうーー! レクレットも一緒に食べようーー!!」

 楽しそうなライイーレ殿下だけど、恨みを晴らすと言っているのにまるで相手にされていないランギュヌがこっちを睨んでいる。

「そいつ! 今すぐ元の姿に戻してよ!! 僕と戦えるようにして!!」
「そう言われても……」

 答えながら、小さな犬のライイーレ殿下を手の中に隠す僕。
 そんなこと言われても、こんなところでランギュヌとライイーレ殿下が争ったら大変なことになる。
 もうライイーレ殿下の魔法から街を守る結界なんて、当分張りたくない。この前子爵の城で張った時に、死ぬかと思ったばかりなんだから。

「ライイーレ殿下……何で元の姿に戻っていたんですか……?」

 僕がたずねると、ライイーレ殿下は、ロヴァウクが元に戻してくれたのー! って、嬉しそうに言った。
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