虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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後日談

114.立ち塞がって

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 全員で歩き始めると、今度は耳が痛くなるような声がして、一人の男が駆け寄ってくる。

「ディロヤルーーーー!!」

 その声にみんなが振り向く。

 砦の方から顔を輝かせて走ってきたのはランギュヌだ。まるで待ち合わせをしていた恋人に会いに走ってきたかのような勢いだが、呼ばれたディロヤルは、すぐにニュアシュの後ろに隠れてしまう。

 そんなディロヤルを庇うように、ニュアシュがランギュヌの前に立ち塞がった。

「やめなさい。怯えています」
「また君!!?? なんなの一体! 邪魔なんだよ!! どいて!!」
「それはできません」
「僕は隊員同士、友好を深めたいだけだよ!? それを邪魔するなんてどういうつもり!?」
「……ディロヤルを怯えさせるようなら解雇だと言われていますよね? このままだと、処罰を避けられないことになります。あなたもディロヤルのそばにいたいのなら、やめてください」
「僕はずーーっとディロヤルのそばにいたいだけ!! そのためなら処罰なんか怖くない!! 今すぐそこをどかないと、君も一緒に締め殺すよ!!」

 彼は、僕らの前で何かを強く橋に投げつける。それは、小さな輪の形をした魔法の道具で、橋に叩きつけられると破裂して、その中から禍々しい棘を持った鎖が飛び出してきた。

 真っ黒な鎖は、僕らのすぐそばを飛んでいたものをからめ取って、そのまま握りつぶしてしまう。鎖に締め付けられて折れて消えていくのは、さっき僕らを襲った、魔法の道具が作り出した剣だ。

 全部撃ち落としたつもりだったけど、まだ残党がいたのか……そんなものが自分達に向かって飛んで来ていることにも気づけなかった。

 鎖がすべての剣を絡め取ってくれたおかげで、僕らはみんな無事だ。

 けれどその鎖は、今度は僕らの方にまで向かってくる。街灯を握りつぶし、橋を抉って僕らを狙うあんなものに捕まったら、何をされるか分からない。

 各々が武器を構える。

 だけどそれは、僕らに届く前に、突然バラバラに砕けて消えてしまった。

「嘘……」

 そう呟いて、ランギュヌは呆然としていた。どうやら、自慢の魔法の道具だったらしい。

 立ち尽くす彼の前に、真っ黒なローブをはためかせる男が夜空から降りてくる。

 ロヴァウク殿下だ……

 ランギュヌの前に降りてきたロヴァウク殿下は、彼を睨みつけた。

「何をしている……ランギュヌ……」
「僕は何にもしてませんよー? ディロヤルがいなくなってたから探しにきただけ」
「残念だが、お前の動向は、俺が全て監視している。今、魔法でディロヤルを狙っただろう」
「えー……なんのことですかーー? 僕、分からないなーー」

 ニコニコ笑うランギュヌの前で、ロヴァウク殿下がため息をつく。

 ランギュヌは警備隊の砦に来てからずっとこうで、四六時中、時間さえあれば、ディロヤルを追い回している。
 魔物退治の腕は誰より上で、警備隊のみんなも目を見張るほどなんだけど、ディロヤルを追いかけることは、絶対に止めない。
 けれど、彼がここにいられるのは、問題を起こさずに魔物と戦うならという条件を満たしている間だけ。問題を起こせば、王城の地下に連れ戻されてしまう。

 ロヴァウク殿下は腕を組んで言った。

「そういう真似を続けていると、いずれ貴様にも処罰が降ることになると忠告しただろう」

 ロヴァウク殿下が何か処分を言い渡すと思ったのか、ディロヤルは彼に駆け寄っていく。

「お、お待ちください! ロヴァウク殿下!」
「殿下と呼ぶな! 今はロヴァウ隊長だ!」
「そ、それは今重要ですか?」
「重要だ。俺は今、隊長なのだからな」
「そ、そうですか……ロヴァウ隊長」
「それでいい。なんだ? 俺の隊長としての功績を称賛したいのか?」
「えっ……と……そ、それは後でいたします! い、今は……」
「なんだ?」
「ら、ランギュヌに対する処分は見送っていただけませんか!? 橋なら、私が明日までに治しておきます」

 ディロヤルは、さっきの鎖でところどころが抉れてしまった橋に振り向いた。かなりの傷だし、明日までに直すのは難しそうなのに。

 すると、ランギュヌが大きな声で「僕がやるー!!」と言って、手を挙げた。

「ディロヤルがやるまでもないよ! ここを壊したのは僕だし!! だからディロヤルは見てて! これが終わったら、僕と遊ぼうね!」

 ランギュヌは、小さな釘のような形の魔法の道具を懐から取り出し、橋に刺す。すると、橋の抉れたところがゆっくり修復していく。あれも彼が作った魔法の道具だろう。彼自身は魔法を使っていないのに橋が直るなんて、さすがだ。

 ランギュヌはロヴァウク殿下に「これで橋はすぐに直りまーす!」と言って、ディロヤルに駆け寄っていく。

「ディロヤルー。橋、直ったよー!」
「まだ直っていないだろう……」
「あと一時間も経てばすっかり元通りになるよ! そーんなことより! 僕はただ、こんなに暑い日だからディロヤルにアイスクリームを食べて欲しかっただけだよ! 見てーー!! 魔法で作ったアイスだよ!」

 ランギュヌは魔法で、コーンに乗ったさまざまな味のアイスクリームを取り出す。
 色とりどりのアイスクリームが彼の周りをふわふわ浮いて、周りが少し涼しくなったような気がした。

「ディロヤルのために用意したんだ! 食べて! いっぱいあるから!!」
「……そんなに食べたら腹を壊す」
「じゃああったかい食べ物にする!? おでんとか!?」
「い、いらない! 来ないでくれ!」
「じゃあ僕の部屋で食べる!? そうだ! ディロヤルのために新しい鎖と首輪を用意したんだよ!!」
「そういうことはやめろと言っただろう!」
「待ってよー」

 そう言ってランギュヌはずっとディロヤルを追い回していた。
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