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後日談
113.その程度では
しおりを挟む僕は体を魔法で強化して、落ちてくる剣に斬りかかる。けれど、それは恐ろしく硬い。僕の剣は、あっさりと弾かれてしまう。
弾き飛ばされた僕は、橋の上に着地して、空を見上げた。飛んでいる剣は全く減る様子がない。一つずつ叩き落としていくしかない。
近くではチミテフィッドを庇ってクロウデライが結界を張り、ギンケールが魔法で剣を焼いている。
けれど、こんな攻撃を受け続けたら結界の維持は困難になるし、こちらの魔力だって尽きてしまう。
時間が経てば経つほど消耗させられる。
早く片付けないと。
僕は、自分の魔力の剣を最大まで強化して、飛んでくる剣に斬りかかった。今度は刃が通った。僕の作り出した巨大な剣は、僕らを狙う凶刃を一刀両断にする。
強度はあるけど、壊せないほどじゃない。僕も魔力で剣を作るけど、魔法使いを狙うなら、強度だけではなく魔力も必要だ。
これなら、ロヴァウク殿下やランギュヌ子爵が作ったものの方が、よほど厄介だった。
人を騙してふざけたもの送り込んでくるだけあって、やり方が下手。
買った夜食が冷める前に全部片付けて、ロヴァウク殿下を誘いにいくんだ。
魔力の剣を握る。
その時、強い風が吹いた。魔法の風だ。それは空を飛ぶ剣を巻き込んで、風に吹かれた剣は、砂のように崩れていく。風は、チミテフィッドが握っていた奇襲用の道具まで砂に変えてしまった。
そして、風が吹いてきた方から二人の男が歩いてくる。一人はニュアシュ、もう一人は、微風に髪を靡かせているディロヤルだ。どうやらさっきの風は、ディロヤルの魔法だったようだ。
ディロヤルが肩を落として言う。
「……あまり危険な魔法の道具を使わない方がいい……破壊にも、時間がかかる」
時間がかかる? 一瞬だったじゃないか。あれだけの数の魔法の剣を、一度に打ち消すなんて……
鳥肌が立つほどの魔法だ。
これが、広大な領地を治めた魔法使いの領主の力か。
圧倒的な威力の魔法を披露しておきながら、ディロヤルは疲れたような顔をして、僕から顔をそむけた。
奇襲用の剣が全て消え去ると、少し離れたところで涙が混じったような声がする。
「う、嘘だろっ……!!! お、王家の部隊も相手にできるはずなのに!」
振り向けば、怯えて震える男が、橋の街灯のそばに立っている。
チミテフィッドが、その男を指差して叫んだ。
「あ、あいつ!! 俺にあれを渡した人だ!!」
それを聞いた男は逃げ出そうとしたが、ニュアシュにあっさり捕まった。
「あなたは……豪商のところの魔法使いですか?」
ニュアシュに橋に押し倒され、制圧された男は、怯えながら叫んだ。
「し、知らない! な、なんのことだ!」
「仕返しですね? 悪いですが、その程度では、うちの新人にすらかないませんよ」
そう言って、ニュアシュは魔法で男を後ろ手に拘束する。
助けてくれたニュアシュとディロヤルに向かって、チミテフィッドは頭を下げて謝った。
「あ、ありがとうございます……! す、すみません……! こ、こんなことになるとは思わなくて……」
謝る彼に、クロウデライが「お前はしばらくずっと俺と一緒にいろ。変なの近づいてきたら追い払ってやるから」と言って、彼の頭を撫でている。
そんなクロウデライに向かって、ニュアシュが微笑んで言った。
「クロウデライ、他のみんなも、無事ですか?」
「あ? るせーよ……俺がいるんだ。あの程度、何でもねーよ」
「……そうですね。報告書なら、私が手伝います」
「は? な、なんでお前がそんなことするんだよ!! クソ貴族!」
「ロヴァウ隊長は明日まで待ってくれるそうです」
「今日中じゃなくていいのか!?」
「あなたは今日は、チミテフィッドと一緒に犯罪者の捕縛に回っていましたし、そっちまでは手が回らないでしょう。ロヴァウに話したら、明日まで待つとのことです」
「はあ!? 余計なことロヴァウに言ってんじゃねえっ!! 何でお前がロヴァウにそんなこと言うんだよ!!」
「嫌なら、早く書きましょう」
「……い、今書こうと思ってたんだよ……今……」
どこか照れたように言ってクロウデライが歩き出すと、ギンケールが手伝いますと言って走っていって、チミテフィッドも俺も書くと言ってついていく。
「うるせーーー!! 着いてくんな!! みんなで仲良く書くもんじゃねえんだよ!」
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