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後日談
112.着いてくんな!
しおりを挟む喧嘩でもしたのかな……クロウデライは、ずいぶんイライラしているみたい。
だけど、ギンケールは諦めずに尚も続けた。
「あの……それは書いた方が……俺も手伝うので……」
「お前はどっちの味方だよ!!」
「どっちのでもありません……俺もまだ書いたことないので、よければ手伝わせてください……」
「……お前が書いてどうすんだよ……」
「お、お願いします! 俺……クロウデライさんを手伝いたいんです!」
「はあ? な、なんだよ、何意地になってるんだ?」
「あ、あの!! クロウデライさん!!!!」
「だ、だからなんだよ! 怖えよ!!」
「あのっ……い、以前の俺たちっ……あの! ま、町では……! すみませんでした!! 俺たち……あなたたちの邪魔ばっかりして……」
たどたどしくギンケールに言われて、クロウデライは首を傾げてしまう。
「……邪魔? ………………何のことだ?」
「え!? だ、だから、俺たちがあなたたちの邪魔したことで……」
「ああ……あれか…………」
「あ、あの……俺たち……あ、あなたには……あの……」
「うるせ」
「えっ!!??」
「うるせぇって言ってんだよ!!! バーカ……もう忘れた」
「わ、忘れたなんて! そんなはずありません!!」
「忘れたもんは忘れた。忘れたことなんかどうでもいい。お前も忘れろ。めんどくせー……」
「クロウデライさん……」
「……そんな顔すんな。後で始末書の書き方教えてやるよ」
「え!? いや、あの、始末書じゃなくて報告書の書き方だけでいいんです」
「両方教えてやる。絶対お前もすぐに書くから!」
「……書きません……」
「書け! そしたらニュアシュも俺のこと、うるさく言わなくなるから!」
「……そんなことないと思います……」
呆れたように言うギンケールの手を、クロウデライはいきなり握ると、逃げるぞって叫んで走り出した。
突然どうしたのかと思ったけど、僕もチミテフィッドも、彼について行く。
手を引かれるギンケールが、クロウデライにたずねた。
「く、クロウデライさん! に、逃げるって、あの……ど、どうかしたんですか?」
「ニュアシュが来る」
「ニュアシュさんが? でも、始末書かくんですよね? だったら逃げなくても……」
「見つかったら絶対あいつ怒る。隠れてやり過ごす!」
焦った様子のクロウデライに、チミテフィッドが叫んだ。
「く、クロウデライ! 俺に任せてくれ! 今から魔法の霧でみんなを隠す! その間に逃げればいいんだ!!」
「魔法の霧!? そんなことできるのか!?」
「任せてくれ!」
任せろって……なんだか嫌な予感がする。
だけど、止める間もなくチミテフィッドは、ポケットから小さな白い丸いものを取り出した。それから真っ白な煙が噴き出してくる。
もう、絶対にろくなことにならない気がする。
クロウデライも、まずいと思ったのか声を荒らげた。
「おい!! それなんだよ!! どうなってるんだ!!」
「隠れるのにちょうどいい魔法だろう!? 驚いたか!? この魔法の道具で、どんな魔物からも逃げられるんだ!」
「この馬鹿!! ふざけんなよ! お前にそれ渡した奴、どこのどいつだ!!」
「え!? こ、これは、昨日もらったもので……うわああああ!!」
突然沸いた煙は、あっという間に膨らんで、巨大な入道雲みたいになっていく。そこから飛び出してきたのは、真っ白な馬くらいの大きさの剣。それが無数に飛び出して、全部、僕らに向かってくる。
自分が出したものから無数の巨大な剣が飛び出して来て、チミテフィッドは真っ青だ。
「う、嘘っ……! 何あれーーーー!!」
「全部俺らに向かってきてんだろーが!! 奇襲用の魔法の道具だよ!! バーーーカ!!」
怒鳴りつけたクロウデライが、飛んでくる剣を魔法で撃ち落とす。
けれど、飛び出す剣は数えきれないほどで、まるで目と頭でもついているかのように、正確に僕らを狙って飛んでくる。
ただ騙されて質の悪いものを売りつけられたってわけじゃなさそうだな……
空から飛んでくる剣を叩き切ったクロウデライが、チミテフィッドに掴みかかった。
「てめえ! あれ、どうやって手に入れた!?」
「あ、あれは街を歩いている時に会った商人に、警備隊に以前助けてもらったお礼に、いいものを仕入れてきたって言われて……」
「それで買ったのか!?」
「い、いや……俺、その時無一文だったけど、だったら代わりに警備隊長が普段使ってる部屋の場所を教えてくれたらそれでいいって言うから……」
「隊長狙われてんじゃねーか!! 警備隊の情報、知らねー奴に話すな! もうお前、俺から少しも離れんな!」
「は、はいい……!!」
震え上がるチミテフィッドを、クロウデライが庇って、襲ってくる剣を殴りつける。
飛んでいる剣は全部僕らに向かってきているし、その威力はどんどん上がっている。
最初に飛んできたものは、橋に落ちると崩れて消えたのに、後から飛んできたものは、最初のものより大きくなっているし、橋に深々と突き刺さっている。
せっかく最近魔物が減ったのに、こんなところでこんなものを暴れさせてたまるか。
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