虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
111 / 117
後日談

111.たまには

しおりを挟む

 ニュアシュをまいてきたと言われてホッとしたのか、クロウデライは僕の手を取って走り出した。

「今のうちに逃げるぞ!」
「……え? ぼ、僕も?」
「当然だろ! お前の部屋に逃げるんだから!!」
「僕の!?? な、何で僕の部屋なんですか!?」
「俺の部屋だと、すぐにニュアシュにバレるだろ! チミテフィッドの部屋でもバレそうだし、ギンケールの部屋はルームメイトいるんだから、お前んとこしかないだろ!!」
「そ、そんな……」
「どうした? あ! 何か予定でもあんのか?」

 彼は、立ち止まって僕に振り向く。

 予定というほどのものじゃない。殿下と約束しているわけじゃないんだから。

「よっ……よ、よ、予定はない、けど……あの……」

 つい、持っていた紙袋を背後に隠してしまう。

 だけどもう遅くて、とっくにそれは見つかっていたようだ。ギンケールが首を傾げて言った。

「……もしかして、第五王子殿下とお酒を飲むつもりだったんじゃ…………」
「へっっ!!?? ち、ちがっ……そ、そんなんじゃっ……」

 あれ……? 否定しなくてもいいのか。求婚されてるんだし。
 だけど、まだ実感ない。急だったし、まだ、ロヴァウク殿下に言われたことだって、まるで夢みたいで。

 だけどつい否定してしまった僕の言葉を聞いたクロウデライが、屈託のない笑顔で言った。

「違うんだったら、ロヴァウも誘ってみんなで飲むか! 俺もさっき酒、買ってきたから!」

 すると、チミテフィッドまで乗り気になって「俺も飲みたい!」って言い出す。

 どうしよう……

 ……みんなで飲むことにするか。
 殿下と二人きりになっても、何を話していいのか分からないかもしれないし、みんながいた方が緊張もしない……

「そ、そうですね……みんなで飲みましょうか……」
「なんでいきなり日和ってるんですか?」

 背後からギンケールに言われて、僕はびくっと震えてしまう。

「ひ、日和るとか……そんなんじゃ……」
「だって、その紙袋……殿下のために用意したんじゃないんですか?」
「こ、ここ、これはライイーレ殿下のためにっ……」
「せっかく用意したんだったら……二人きりでって、ちゃんと誘った方がいいですよ」

 ギンケールにそう言われて、僕は言い返せない。なんでそんなに鋭いんだ……

 すると、クロウデライが首を傾げて言った。

「なんだ? そんなにロヴァウと飲みたかったのか?」
「え、えっと……」
「だったら、俺が誘ってやるよ!!」
「え!?」
「お前とロヴァウの仲でも、誘いにくい時があるのか? もしかして、喧嘩でもしたか!?」
「あ、いや……そうじゃなくて……」

 そうじゃないけど、はっきりと何があったのか言うのも恥ずかしい。

 それに……王子殿下と僕なんて、やっぱり全部夢だったんじゃないのかな!!?? 何もかも全部夢だったらどうしようっ……!

 迷ってなかなか口を開けない僕。

 すると、ギンケールが少し呆れたように口を挟んできた。

「あの……クロウデライさん。そういうことじゃないと思います。多分」
「へ!? な、なんだよ!? 何が違うんだ!?」

 慌てるばかりの彼に、僕も、恥ずかしいのを押し殺して口を開く。

「え……えっと……あ、あの…………ご、ごめんなさい! ぼ、僕、あの……き、今日は……あの、えっと……ふ、二人で、殿下と二人でって思ってて…………ご、ごめんなさい! あ、あの! く、クロウデライさんたちのことは……ま、また今度、誘わせてください……」

 これまで言ったどんな言葉より恥ずかしいかも……
 だけど真っ赤になりながら言うと、クロウデライは、なぜか厳しい表情を浮かべて頷いた。

「そうか……二人で……分かったよ。今日飲むのは諦める」
「は、はい……」
「で、なんかあったのか?」
「へ!? い、いや、何も……」
「だって二人で、だろ? やっぱり喧嘩か?」
「え!? ち、ちがっ……違います!」

 ちょっと困って言う僕。

 ギンケールに「クロウデライさん、そういうのではないです」って言われて、クロウデライはますます首を傾げてしまう。

「なんだよ? 違うのか? 二人でやることって言ったら喧嘩だろ」
「……クロウデライさんって、恋人いますか?」

 ギンケールに聞かれて、クロウデライは急に真っ赤になった。

「はあ!!?? な、なんだよそれ!! い、いるわけないだろ! そんなの!!」
「……やっぱり……」
「なんだよ! やっぱりって!! いらねーんだよ! そんなもん!! お、俺はっ……ま、町が安全であることが一番だ!!」
「だったら報告書は書いた方が……」
「うるせーーーー!! 報告書とそれは関係ねーだろ! ニュアシュはしつこいんだよ!! 俺はもう、絶対に一枚も書かないからな! 報告書だって、一枚も書いてやらねーー!!」
「なんでそんなにむきになってるんですか……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ツンデレ神官は一途な勇者に溺愛される

抹茶
BL
【追記】センシティブな表現を含む話にはタイトル横に※マークを付けました。【一途な勇者×ツンデレ神官】勇者として世界を救う旅をするルカは、神官のマイロを助けたせいで悪魔から死の呪いを受ける。神官と性行為をすれば死のリミットを先送りにできると知り、呪いを解く旅にマイロも同行することに。うぶなルカは一目惚れしたマイロに(重い)好意を寄せるが、何度か肌を合わせてもマイロはデレる気配がなく…… 第9回BL小説大賞にエントリーしました! よろしくお願いします!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...