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後日談
111.たまには
しおりを挟むニュアシュをまいてきたと言われてホッとしたのか、クロウデライは僕の手を取って走り出した。
「今のうちに逃げるぞ!」
「……え? ぼ、僕も?」
「当然だろ! お前の部屋に逃げるんだから!!」
「僕の!?? な、何で僕の部屋なんですか!?」
「俺の部屋だと、すぐにニュアシュにバレるだろ! チミテフィッドの部屋でもバレそうだし、ギンケールの部屋はルームメイトいるんだから、お前んとこしかないだろ!!」
「そ、そんな……」
「どうした? あ! 何か予定でもあんのか?」
彼は、立ち止まって僕に振り向く。
予定というほどのものじゃない。殿下と約束しているわけじゃないんだから。
「よっ……よ、よ、予定はない、けど……あの……」
つい、持っていた紙袋を背後に隠してしまう。
だけどもう遅くて、とっくにそれは見つかっていたようだ。ギンケールが首を傾げて言った。
「……もしかして、第五王子殿下とお酒を飲むつもりだったんじゃ…………」
「へっっ!!?? ち、ちがっ……そ、そんなんじゃっ……」
あれ……? 否定しなくてもいいのか。求婚されてるんだし。
だけど、まだ実感ない。急だったし、まだ、ロヴァウク殿下に言われたことだって、まるで夢みたいで。
だけどつい否定してしまった僕の言葉を聞いたクロウデライが、屈託のない笑顔で言った。
「違うんだったら、ロヴァウも誘ってみんなで飲むか! 俺もさっき酒、買ってきたから!」
すると、チミテフィッドまで乗り気になって「俺も飲みたい!」って言い出す。
どうしよう……
……みんなで飲むことにするか。
殿下と二人きりになっても、何を話していいのか分からないかもしれないし、みんながいた方が緊張もしない……
「そ、そうですね……みんなで飲みましょうか……」
「なんでいきなり日和ってるんですか?」
背後からギンケールに言われて、僕はびくっと震えてしまう。
「ひ、日和るとか……そんなんじゃ……」
「だって、その紙袋……殿下のために用意したんじゃないんですか?」
「こ、ここ、これはライイーレ殿下のためにっ……」
「せっかく用意したんだったら……二人きりでって、ちゃんと誘った方がいいですよ」
ギンケールにそう言われて、僕は言い返せない。なんでそんなに鋭いんだ……
すると、クロウデライが首を傾げて言った。
「なんだ? そんなにロヴァウと飲みたかったのか?」
「え、えっと……」
「だったら、俺が誘ってやるよ!!」
「え!?」
「お前とロヴァウの仲でも、誘いにくい時があるのか? もしかして、喧嘩でもしたか!?」
「あ、いや……そうじゃなくて……」
そうじゃないけど、はっきりと何があったのか言うのも恥ずかしい。
それに……王子殿下と僕なんて、やっぱり全部夢だったんじゃないのかな!!?? 何もかも全部夢だったらどうしようっ……!
迷ってなかなか口を開けない僕。
すると、ギンケールが少し呆れたように口を挟んできた。
「あの……クロウデライさん。そういうことじゃないと思います。多分」
「へ!? な、なんだよ!? 何が違うんだ!?」
慌てるばかりの彼に、僕も、恥ずかしいのを押し殺して口を開く。
「え……えっと……あ、あの…………ご、ごめんなさい! ぼ、僕、あの……き、今日は……あの、えっと……ふ、二人で、殿下と二人でって思ってて…………ご、ごめんなさい! あ、あの! く、クロウデライさんたちのことは……ま、また今度、誘わせてください……」
これまで言ったどんな言葉より恥ずかしいかも……
だけど真っ赤になりながら言うと、クロウデライは、なぜか厳しい表情を浮かべて頷いた。
「そうか……二人で……分かったよ。今日飲むのは諦める」
「は、はい……」
「で、なんかあったのか?」
「へ!? い、いや、何も……」
「だって二人で、だろ? やっぱり喧嘩か?」
「え!? ち、ちがっ……違います!」
ちょっと困って言う僕。
ギンケールに「クロウデライさん、そういうのではないです」って言われて、クロウデライはますます首を傾げてしまう。
「なんだよ? 違うのか? 二人でやることって言ったら喧嘩だろ」
「……クロウデライさんって、恋人いますか?」
ギンケールに聞かれて、クロウデライは急に真っ赤になった。
「はあ!!?? な、なんだよそれ!! い、いるわけないだろ! そんなの!!」
「……やっぱり……」
「なんだよ! やっぱりって!! いらねーんだよ! そんなもん!! お、俺はっ……ま、町が安全であることが一番だ!!」
「だったら報告書は書いた方が……」
「うるせーーーー!! 報告書とそれは関係ねーだろ! ニュアシュはしつこいんだよ!! 俺はもう、絶対に一枚も書かないからな! 報告書だって、一枚も書いてやらねーー!!」
「なんでそんなにむきになってるんですか……」
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