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後日談

109.話すことがない。

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 ロヴァウク殿下が、ロヴァウ隊長になって一週間ほど経った頃。

 忙しい一日が終わり、その日の仕事を終えた僕は、砦の近くの大きな橋の近くにある露店で夜食を買って、砦への帰り道をぼんやり歩いていた。

 買ったのはビールとフランクフルトと唐揚げと焼き鳥とローストビーフにビーフジャーキー。ビール以外は全部、ライイーレ殿下にねだられて買ったものだ。ちょっと買いすぎて重い……

 だいぶ遅くなっちゃったし、急いで帰らないと、ライイーレ殿下がお腹を空かせてしまう。
 ライイーレ殿下は夕飯の後で寝ていたから、ニュアシュに預けてきている。早く帰った方がいい。
 お腹空くと厨房の方にふらふら歩いていったりするからなー……ライイーレ殿下。

 夕飯は警備隊の食堂で食べたし、ロティスルートがしばらく食堂で働いてくれるらしく、彼が焼いてくれたマフィンまで、フィンスフォロースにすすめられてお腹いっぱいをすぎるまで食べた。
 ライイーレ殿下も、好物のローストビーフを腹一杯食べたあとで、僕のお皿からポテトサラダのハムとカルボナーラのベーコンを取っていった。だけど、それだけ食べてもライイーレ殿下はすぐお腹を空かせる。

 もうすっかり日は沈んで、街灯が静かな橋を照らしている。砦に向かう橋を渡っているのは僕だけで、湖の水が風で揺れる音の中に、僕の足音だけが重なっていた。

 ビールは二人分買った。夜食も少し多め。
 ロヴァウク殿下と少しお酒が飲めたらいいなあ、なんて下心があったからだ。

 相手は王子殿下だし、気に入ってくれるかなって少し不安でもあるんだけど……
 せっかくロヴァウク殿下が戻ってきたんだ。少しでも、一緒にいたい。

 殿下が帰ってきてくれた日、会えて嬉しいって、素直に言えなかった。
 一緒に飲みたいとか、そういうことも、全部素直に言えればいいのに、何か口実くらいないと、恥ずかしくて会いにきましたって言えない。

 買ったものを入れた紙袋を見下ろすと、自分の下心が見えるようで、なんだかちょっとだけ胸が痛い。

 僕って、自分でも嫌になるくらいめんどくさい。
 求婚までしてもらったのに、ビールがないと部屋に行くこともできないのか。
 こんなんで、殿下の妻になることになっちゃったけど、これでよかったのかな……?

 だけど、求婚された時のことを思い出すと、いきなり恥ずかしいっ……!!

 周りが暗い夜でよかった。真っ赤になってても、誰にも見られない。

 しばらく歩いていると、背後から足音がした。それは僕の方に駆け寄ってくるものだ。

 敵……!??

 すぐに、魔力の剣を作り出して振り向く。
 そして、慌てて剣を消す。

 敵じゃない。駆け寄ってきたのはギンケールだ。

「ぎ、ギンケールさん! こ、こんばんは……」
「こんばんは……すみません。驚かせちゃって……」
「え!!??」
「魔物だと思いましたよね? 今、俺のこと。魔力の剣出して斬りかかる気だったんですよね?」
「魔物だとは思いませんでした! 物取りか暴漢か殺人鬼かと……」
「……」
「す、すみませんすみません!! 暗かったので警戒心がいつもの倍になってて……あ、あの……当たりませんでしたか? 剣……」
「当たってません。すぐ消してたし……俺の方こそ、背後から近づいてすみません」
「い、いえ! 本当に……すみません」

 やってしまった……

 ここに来てから、敵意なく僕に近づく人もいると自分に言い聞かせて、魔力が自分に向けられない限りいきなり魔力の剣を出して斬りかからないと決めていたのに。
 よりにもよって、同じ警備隊の人に剣を向けてしまうなんて。

「ほ、本当に、すみません……」
「いや……本当に気にしないでください……」

 どこか気まずそうに言って、ギンケールは顔をそむける。そして、僕のすぐ隣を歩き始めた。

「…………」
「…………」

 どうしよう。話すことがない。まるでない。何も見つからない。
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