虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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108.俺が

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 今度は隊長室に、フィンスフォロースが入ってきた。

 彼も帰ってきてたんだ……

 彼は何があったのかすぐに悟ったようで、少し呆れたように言った。

「でーんかー……何してるのー? レクレットをいじめないでよー」
「俺はレクレットを妻にしていただけだ」
「いきなり妻にされたら怖いって言っただろ……ロティスルートも言ってたよー。勝手に妃にされたらレクレットが気の毒すぎるって」
「いらん心配だ。すでにレクレットは、俺の妻になった」
「え!!?? 本当に、いいの!?」

 彼はひどく驚いて、僕に振り返る。

「れ……レクレット……ほ、本当にいいの? こ、断るなら手を貸すよ!?」
「え!?? えっと……こ、断るなんて……」
「こんな無茶苦茶な王子のそばにいたら、大変な目に遭うよ……? ほ、本当に……それでもいいの!?」

 フィンスフォロースは真剣な顔で僕に迫ってくる。
 だけど、僕だって、殿下とそうなりたいんだ。

「い、いいって言うか……ぼ、僕だって、その……で、殿下と……あの、その……い、一緒にいたかったんです……」

 なんだか口に出して言うと、めちゃくちゃ恥ずかしい……

 たどたどしく言う僕の肩に、フィンスフォロースは、ぽんっと手をおく。

「そんな顔しないで。殿下が横暴なこと言ったり横暴なことしたら、僕に言ってね。王城に言い付けてやるから」
「……誰がいつ、横暴なことを言ったんだ?」

 そう言って、ロヴァウク殿下は首を傾げている。
 すると、フィンスフォロースは、殿下に近づいて行って「バーニジッズ殿下が紹介しろって言ってたよ」と伝えていた。

「誰が紹介などするか。これは、俺の妻だ。近寄るなよ」

 ロヴァウク殿下はそう言うけど、フィンスフォロースは聞いてない。

 そんなフィンスフォロースの肩から、小さな犬の姿のライイーレ殿下が飛びついてくる。

「レクレット!」
「わっ……うわ!! ら、ライイーレ殿下!?」

 驚く僕が、慌てて両手で受け止めると、ライイーレ殿下は、いつも僕といた時みたいに尻尾を振って言った。

「レクレットーー。俺、またレクレットといていいって!」
「え!!?? ほ、本当に!?」
「ロヴァウクがレクレットを妃にするって言ってるから、無茶しないようにみてろって!」
「そ、それって……」
「俺がしっかり守るからね!! 安心してね!」
「そ、そうじゃなくて……あの、そ、それって……ぼ、僕とロヴァウク殿下のこと……お、王家は、認めてるってことですか?」

 そんなわけないって思いながら、恐る恐るたずねた。
 だって、相手は反逆者だと言われた僕だ。そんなの、王家は許すはずないし、貴族たちだって、認めるはずないのに。

 だけど、フィンスフォロースは「もちろんだよ」と答えてくれた。

「第二王子も……影薄い第三王子も、ずーーーーっと君たちのこと待ってる第四王子のクレノジ殿下も、いつもやりすぎるロヴァウク殿下を抑えてくれる君に期待してた……」
「ぼ、僕に……?」
「ライイーレ殿下も、君の言うことなら聞くみたいだし……これは奇跡だよ。王城をいつも混乱させていた二人の殿下を止められる人が現れたなんて。もう、ロヴァウク殿下の隣にいるのは、君しかいないなーって、王家のみんなが話してたよ?」
「……」

 それは、またライイーレ殿下に魔力が戻ったり、ロヴァウク殿下が無茶をしそうになったら、なんとかしてねってことなのかな?
 僕はロヴァウク殿下の隣にいたいし、ライイーレ殿下のことも大切だ。
 だから、彼らの力になれるなら嬉しいけど、僕にできるかな……

「あの……あんまり期待されても……」

 焦りながら言う僕に、フィンスフォロースは、たまに僕がやるように、どこかぎこちないふうに微笑んだ。

「ごめんねー……王家の奴ら、みんな勝手で」
「えっ……!?」
「……? そう思わない?」
「えっと……反逆者にされたことは恨みますけど……」
「それはよかったー」
「い、いいんですか!?」
「だって、無理に王城の言うこと聞かせるようなことは、したくないから」
「……」
「だけど、俺もロティスルートも、殿下の兄弟たちも、みんな君と一緒にいるロヴァウク殿下が一番凄いって思ってる。君が一緒に来てくれたら、すごく嬉しいな」
「…………」

 立ち尽くす僕に、ロティスルートは近づいてきて、耳元で囁いた。

「大丈夫……君のこと反対した奴らは、みんなロヴァウク殿下が黙らせてきたから」
「え……」
「僕もロティスルートも、王子殿下たちも、君のこと歓迎する。殿下と王城に戻る時には、必ずお供するねー」
「…………」

 なんだか怖くなってきた。王家の人たちに会うのが。

 話している間に、僕が抱っこしていたライイーレ殿下は、いつもリュックに戻ろうとする時みたいに、僕の肩に乗ってくる。

「ねー。レクレット。リュックは?」
「あ……今は部屋に置いてあります……抱っこしていくので、こっちにどうぞ」

 そう言って僕が、肩のライイーレ殿下を下ろそうとすると、ロヴァウク殿下がライイーレ殿下をつまんで下ろしてしまう。

「貴様は俺が連れて行ってやる」
「なんだよロヴァウク!! 離せよ!! 俺はレクレットがいい!」
「俺の妻だ。貴様は近づくな」
「ロヴァウクの妻でも、俺にジャーキーくれるレクレットでもあるもん!」
「なんだと!!??」

 ついに二人で言い合いになってしまう。
 このままだと、またロヴァウク殿下がライイーレ殿下と喧嘩を始めてしまいそう。

「ら、ライイーレ殿下……食堂に行きましょう。殿下が帰ってきた時のために、クロウデライがビーフジャーキー用意してくれてますよ」
「本当!? ジャーキー!」

 ライイーレ殿下はロヴァウク殿下の手をすり抜けて、僕の方に飛びついてくる。
 指を引っ掻かれたロヴァウク殿下が、今にもライイーレ殿下を締め殺してしまいそうな顔で振り向くけど、これもいつものことだ。

 僕は、両手の中のライイーレ殿下をロヴァウク殿下から隠して、やっぱり慣れないけれど笑ってみた。

「ら、ライイーレ殿下とはずっと一緒にいたし、これからも僕が連れて行きます。なんだか心配だし……い、行きましょう! もうすぐ夕飯の時間だし……クロウデライたちも帰ってきます」
「ふん……相変わらず、貴様は他の男とばかり仲がいい」

 少し拗ねたような顔をするロヴァウク殿下を連れて、皆と一緒に、僕は、にわかに騒がしくなった隊長室を後にした。


*虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。*完
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