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106.捕縛するぞ!
しおりを挟む焦った僕は、慌てて否定してしまう。
「何もっ……そんなっ……な、なんでそんなこと話さなきゃならないんですか!!」
「俺は貴様だけと決めていたのに、貴様は終始他の男の話ばかりしている上に、他の男とばかり楽しそうではないか」
「な、何を言って……なんのことですか!?」
「挙句の果てに、いもしない側室と婚約者だと? 寝言ばかりほざく貴様は、少し辱めてやる必要がある」
「な、なんのことですか!!」
「だったら話せ。何を考えていた?」
「それは……」
言えるか!! そんなこと!! どんな羞恥プレイだよ!
もう真っ赤になって俯く僕に殿下が近づいてくる。
「素直に吐けないのなら、犯して白状させるぞ」
「ひっ…………」
こんなの、いつもの脅しに決まってる。だけど慌ててしまう僕を、ロヴァウク殿下が逃してくれるはずがない。
するとその時、隊長室のドアがものすごい音を立てて開いて、一人の男が飛び込んできた。
「きょーはくだめーー!! 捕縛するぞーーー!!」
殿下と二人きりで、そんなことをしている時に人が来て、僕は慌ててロヴァウク殿下から離れた。
飛び込んできた男は、全く遠慮なく大声を上げながら、ロヴァウク殿下に近づいていく。
「でーーーんーーーかーーーーーーっっっっ!! お待たせしましたーー!!」
「……殿下と呼ぶな。今はロヴァウ隊長だ」
「えー。どっちでもいいじゃーん。めんどくさーい」
「遅いぞ。何をしていた?」
ロヴァウク殿下に言われて、部屋に飛び込んでいた男は、ムッとして顔を歪める。
「おーそーいーー? こんな面倒なことを僕に押しつけて、遅いーー? それ、ひどくない??」
腰に手を当てて、大量の書類の束をデスクに叩きつけたのは、ランギュヌ子爵じゃないか。肩からかけている大きなサイズの上着は、警備隊の制服だ。
こんなところで何してるんだ!? 殿下と一緒に王城に行ったんじゃなかったのか!!??
「な、なんでこんなところに……」
僕が驚いていると、ランギュヌ子爵は僕に振り向いて、ソファの背もたれに腰かけた。
「だって、ここにディロヤル伯爵がいるって聞いたから!! だから僕も、領地は弟に譲って、こっちに来たの!! 王族に頼まれちゃったら断れないし。いやいやだけど、手伝ってあげてるの。僕、優しいなー」
嫌々の割に、楽しそうだな……
ディロヤル伯爵の城で会った時は、もっと鋭い目で僕を睨んでいたのに。
はしゃいだ様子のランギュヌ子爵に、ロヴァウク殿下はひどく苛立った様子で言った。
「勝手に入ってくるな」
「えー? なんでですかー? ここ、隊長室ですよねーー? 僕は、警備隊員として! 警備隊長に用事があったから来ただけでーーす!! それに! この部屋から街の風紀を乱しかねない聞くに耐えない猥談が聞こえてきたので! 今すぐに捕縛の必要があるかと思いまして!」
「盗み聞きか?」
「えー? なんの話ですかー? ちなみにこれはー、どんな話でも勝手に聞こえてきてしまう魔法の道具で、こっちは横暴王子の魔法の鍵でもすぐに開けられてしまう魔法の鍵でーす!!」
そう言って、ランギュヌ子爵が取り出したものを、ロヴァウク殿下は魔法で焼き尽くしてしまう。
胸を張って見せていたそれを灰にされても、ランギュヌ子爵は「まだまだありまーす」なんて言って、次々に同じものを取り出した。
そして、ニコニコしながら僕に振り向く。
「で、レクレット! ディロヤル伯爵はどこ?」
「……答えられません」
「なんでー?」
「だって……脅していたんですよね? 伯爵のこと」
「えーー? 何言ってるの? 僕、そんなことしてないよ? ディロヤル伯爵が困ってるみたいだったから、僕が助けただけ」
「……そうは思えませんが……」
「大人しく教えてくれないと、さっきレクレットがソファで獣姦されるところ妄想してたって、殿下に教えちゃうぞ!」
「してません! 変な嘘つくのやめてください!」
「えー、そんなことないと思うんだけどなー」
僕に近づいてくるランギュヌ子爵を、殿下が襟首掴んで止めてくれる。
けれど、そんな話をしていたところに、運悪く、ディロヤル伯爵を連れたニュアシュがドアを開けて入ってきてしまった。
「ロヴァウ……隊長。ここの書類に不備があります。それと、先ほどの慰安旅行の件ですが、もうすぐ近くで花火大会があるので、その日にあわせてみてはどうでしょう? ディロヤルはく……ディロヤルが、花火が一番良く見える場所を知っているらしいのです」
いそいそと入ってくるニュアシュは、いつもよりなんだか楽しそう。
実は旅行、行きたかったんだ……
ニュアシュの後ろから入ってきたディロヤル伯爵は、浮き輪を持っている。
なぜもう浮き輪を……
さっき遺恨がどうとか言ってなかったか?
ディロヤル伯爵は、ランギュヌの姿を見つけると、慌ててニュアシュの陰に隠れてしまう。
そんな彼を見つけたランギュヌ子爵は、輝くような笑顔を浮かべて、彼の方に走っていった。
「ディロヤル伯爵ーーーー! そんなところにいたんだね!! 何してるの? かくれんぼ? 僕、得意だよ? 特に伯爵を見つけるのは! 伯爵の気配を魔法で探って、どこに隠れても十秒以内に見つけてあげられるよ!!」
「近づかないでくれ……わ、私はもう……伯爵ではない……」
「そんなの、どうでもいいよ!! 伯爵じゃなくても好きだから!! そうだ!! 伯爵じゃないから、今度からディロヤルって呼ぶね!!」
「来るなと言っているだろう!!」
「僕のことも、ランギュヌって呼んでくれていいからね!」
「呼ばない! 近づくなと言っているだろう!」
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