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104.特別じゃない
しおりを挟むいつのまにか唇の周りはドロドロで、まるで物欲しげにしているかのように涎が垂れていく。
それでも何をされたのか分からなくて、ずっと泣いている僕のおでこに、殿下の前髪が触れていた。
「俺と来い」
「い、いやっ……やだ!! なんでっ……!! ひ、ひどっ……」
こんなの、あんまりだ。僕を弄んで。殿下はどうか知らないが、僕はキスしたのだって初めてなのに。
急にこんなことされたのに、怒りより涙ばっかり出てくる。
だって、いつのまにか沸いた気持ちにも気づいていた。殿下のそばにいたい。パーティとしてではなく、特別なものとして。
だけど、そんなの叶うはずない。相手はいずれ王になる王子なんだから。
僕は苦しいのに、殿下はキョトンとして言った。
「何がだ?」
「だって別に僕、特別じゃないですよね!」
そのままの力では敵わなくても、魔法で強化すれば彼の手を振り払うことはできる。
そうやって無理やり彼の手から逃れたのに、あっさり殿下に手を握られて、今度は背後から体を壁に押し付けられてしまう。
胸が壁に押し当てられて、両手は殿下に後ろ手に捕まえられて、これだと捕まった犯罪者みたいなんですが!?
「は、離してください……! どうせ婚約者とかいるくせに! 側室とかっ……いっぱい侍らせてるくせに!! 僕なんかっ……相手にするわけないっ……」
叫んでいたら、次々涙が落ちていく。わがままなことを言っている。叶わないって分かっているくせに、駄々をこねている。だけど、止められそうになかった。
だって、ロヴァウク殿下のことが好きだ。抑えきれないくらいに。彼にとっての特別な人になりたい。
でも、相手は王子殿下だ。いずれ国王になると期待されている人だ。
それに比べて、僕はなんだよ。もう貴族でもない。断罪された奴隷だ。
そんなのが国王の隣になんて、いられるもんか。こんな僕じゃ釣り合わない。
ボロボロ涙を流して、声を上げて醜く泣いていると、殿下は僕の手を離してくれた。
だけど離してくれたのは手だけで、彼の体が僕の背中にあたっている。壁に押し付けられて、もう逃げられそうにない。
俯いていた僕の耳元をくすぐるように、ロヴァウク殿下は背後から僕に囁いた。
「…………さっきから何を言っているんだ? 婚約者? 側室? そんなものはいない」
「そ、そんなの嘘っ……!!」
「本当だ。そんなものはいらない。俺には妃一人でいい」
「きっ……妃!!??」
「ああ。レクレット。貴様が妃だ」
「………………は?」
何を言っているんだ? 妃? 僕が?? なんで僕が????
混乱する僕を無理やり振り向かせて、殿下は僕の顎に触れる。
顔を上げられると、彼と目があってしまう。
さっきまで泣いてて、顔は涙でベチャベチャだし、口元も鼻の下まで汚れてるのに!
だけど、僕を捕まえる殿下の力が強すぎて、逃げられそうにない。
僕を見下ろす殿下の目は綺麗だけど、今は少し獣欲に濡れているように見えた。
「俺の妻はレクレットだ」
「な、何いっ……て……僕、そ、そ、そんなの……初めて聞きましたけど…………」
「貴様がいつ聞こうが、すでに貴様は俺の妻だ。俺がそう決めた」
「決めないでください! そ、そ、そんなこと、勝手に……」
「嫌なのか?」
「嫌じゃない!」
つい叫んでしまうと、早速相手の思う壺。殿下は勝ち誇ったように笑っている。
ちょっと悔しい。
「だ、だって……き、求婚くらい、してください…………」
なんだか恥ずかしくて、殿下の力が弱まった隙に顔をそむける。
だけど、あっさり殿下に捕まって、また泣いている顔を見られてしまう。
「…………俺の妻になれ。レクレット。はいと言わないなら、意識を失って俺の言いなりになるまで犯し続ける」
「……」
求婚なの? それとも脅迫??
返事をしないでいると、見上げた殿下の顔がちょっと赤くて、少し拗ねたようになる。
あんなこと言いながら、結局は僕の返事を待ってくれるんだ。
僕がだいぶ遅れて「はい」って答えたら、殿下は微笑んで、またキスしてくれた。
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