虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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93.貴様が無能と蔑んだ連中は

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 ロヴァウク殿下は、コティトオン警備隊長に振り向いて言った。

「周囲にいる連中を、全て避難させろ」
「え? しゅ、周囲とは……」
「この辺りにいる、俺たち以外だ。城中の者と、城の周囲にいるものも含め、全てだ」
「なぜ……そんなにたくさんの避難が必要なのですか?」
「ここで争いが起こると、困る連中がいるからだ。貴様は警備隊長だろう。頼んだぞ。代わりに、貴様が望んだものをくれてやる」
「殿下……しかし……」

 コティトオン隊長は、子爵とロヴァウク殿下の方を交互に見ている。
 ここは、ディロヤル伯爵の城。勝手な真似はできない。

 迷う隊長に、ロヴァウク殿下は力強く言う。

「行け。問題が起こったら俺の名前を出せ。王族に言われたと。それだけで貴様が責められることはなくなる」
「殿下…………」

 警備隊長は、少し悩んだ様子だったが、「分かりました」と答え、ニュアシュとクロウデライを連れて行く。
 そして、部屋を出ていく前に、さっきまでは僕を馬鹿にしていたのに今は唖然としている森の奥の街の警備隊たちに振り向いた。

「レクレットはすでに、我々の警備隊の一員です。勝手に連れて行かれては困ります」
「一員だと?」

 隊員の一人が、コティトオン隊長を睨みつける。そして、鼻で笑った気がした。

 コティトオン隊長たちまで馬鹿にするなんて許せない。すぐに食ってかかりそうになる僕の肩に、ニュアシュがぽん、と手を置いた。

 僕が振り向くと、彼は微笑んで、隊員たちに振り返る。

「あなた方は、彼がいないと困りますよね? いつだって彼を盾にして、彼に全部押し付けてきたんですから」
「……なんだと…………」
「私たちを舐めないでください。あなた方が彼にしていたことを、私たちが知らないとでもお思いですか? いつも彼を魔物の前に突き出し、彼ばかりに全て押し付けていたのでしょう?」
「なっ……何を言って……俺たちはっ……」
「彼は私たちの仲間なんです。今さら手を出そうなんて、図々しいですよ」

 仲間って……相変わらず、彼らの言うことには混乱させられる。そんなこと言われたら、また力が抜けちゃうじゃないかっ……!

 俯く僕の前に、クロウデライが立って、隊員たちの前に立ち塞がった。

「…………取れるものなら取ってみろ」

 彼にそう言われて、隊員たちは何も反論しなかった。
 クロウデライは、今度は僕に振り向く。

「先行ってる…………ちゃんと追いついてこいよ……と、途中で倒れても、回収に来ないからな!」
「素直に無事に戻ってこいと、なぜ言えないんですか」

 そうニュアシュがクロウデライを窘めて、彼自身も、僕らに向き直る。

「どうかご無事で…………あなた方も、今は警備隊の一員です。部隊を組んだ隊員は、必ずその無事を確認して、全員で帰らなければならないんです」

 心配そうな彼らに、ロヴァウク殿下は笑う。

「誰の心配をしている? 俺は王だ。俺を害せるものなど、存在すると思うのか?」
「…………杞憂でした」

 そう言って微笑んで、ニュアシュはクロウデライと隊長と一緒に、部屋を出て行った。

 ランギュヌ子爵に止められるかと思ったが、彼はニヤニヤと笑うだけだ。

「いいんですか? ここにいるの、殿下とその役立たずのレクレットだけになっちゃいましたよ?」
「構わない」

 平然と言って、ロヴァウク殿下も、ランギュヌ子爵に振り向いた。

「貴様はまず、何よりも先に、俺のレクレットを侮辱するのをやめろ」
「……それが、何よりも先にすることですか?」
「次に同じことを言えば、貴様の首を落とす」
「わぁ、怖い! 本当に、ロヴァウク殿下はいつも強気ですね! そんなこと、国王であっても勝手にできるとお思いですか?」
「その余裕は、貴様が用意した罠があるからか? 使い魔に……それに、刺客が数人……大したことなかったな」
「…………は?」

 訳がわからないと言った様子で、ランギュヌ子爵が首を傾げている。自分が用意して待ち伏せさせていたものの話を、いきなりされたのだから、驚いて当然だろう。

 そんな様子の彼を見て、ロヴァウク殿下は、ますます楽しそうに笑う。

「貴様は簡単に城に俺たちを入れた。それなら、罠が仕掛けられているかもしれないだろう? 貴様がいつまで経っても来ないから、その間に全てレクレットとコティトオンたちが倒してくれた」
「レクレット……え……よ、四人で?」
「ああ。貴様が無能と蔑んだ連中は、貴様が思うよりずっと有能だ。それに比べて、随分と脆い罠ばかり揃えているではないか。数だけだな。貴様の手の中にあるのは」
「なんだとっ!!」
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