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91.その口を塞いで
しおりを挟む「ここは、僕が引き受けます。結界の維持だって、何もかも僕に任せてくれればいいんです。分かったら結界維持の道具を置いて、すぐに帰ってください」
余裕な様子で言うランギュヌ子爵に、ロヴァウク殿下は険悪な目をして言う。
「貴様に何を任せろと言うのだ? 貴様らがあの街を放置したおかげで、魔物が溢れているというのに」
「大丈夫ですよ。もうすぐ僕が、邪魔なものは全部排除してあげますから。そのために必要な犠牲なんて、些末なものです」
「…………些末だと?」
「はい。分かったら、今すぐにお帰りください。そうだ! 護衛をつけて差し上げますね! 王子殿下が、こーんなところをたったお一人でフラフラしているなんて……魔物に襲われても知りませんよ? 王族が優秀な護衛一人用意できないはずないんですけど……」
「……」
「あ!! 連れていましたね!! その、ろくに回復の魔法も使えないそれ!」
それって……僕のことだろうな……
その馬鹿にしたような目は知っている。僕が散々浴びせられてきたものだ。
ロヴァウク殿下は、ランギュヌ子爵を睨みつけて言った。
「貴様が今言ったのは、レクレットのことか?」
「はい。もちろん」
「それは、レクレットが反逆者だと言われていたからか?」
「いいえ。僕だって貴族なんだし、彼が冤罪だという話が出ていることも知っています。だけど……そうなると、彼を陥れたのはかつてのライイーレ派であり、さらには王家ってことになるけど、いいんですか?」
「……」
「あなたたち王族だって、王家を守るために彼を犠牲にしたんです。それなのに、あなた方王族は、全てが僕らの責任だと、そう言うんですか?」
「……」
「あなたが自分を狙ったと喚いて拘束したチミテフィッドの釈放には、バーニジッズ殿下が協力してくれましたよ」
「バーニジッズはそんなことをしない。バーニジッズ派の連中だろう?」
「またそうやって、なんでも僕たちのせいにされては困ります! 僕らはただ、国をより良いものにするために、より有能なものに先頭に立っていて欲しいだけです! 無能は不要なんです!! そこにいる、それのように」
「貴様はレクレットのことを何も知らないのに、なぜ無能だと言えるんだ?」
「回復の魔法が使えなければ、殿下を守ることなんて、不可能でしょう? そんなものに、なんの価値があるんですか? 僕も、あなたに余計な怪我はさせたくありません。王族のあなたがそんなことになったら、責められるのは僕ですから。ああ、来ました」
彼はそう言って、部屋のドアの方に振り向いた。
そこから入ってきた奴らの顔を見て、僕は一気に気が重くなった。
現れたのは五人の男。
僕がライイーレ殿下を誑かして国王の暗殺を企んだと言われ、断罪されて、罪を償うために働くよう言われた森の奥の街の警備隊の隊長と、隊員が四人。
彼らは、僕がいることに気付いたみたいだ。
隊長は気まずそうな顔をして僕から顔を背けて、隊員のうちの一人は、僕を睨みつけて口を開く。
「レクレット……またお前かよ…………どこへ行ってもトラブルを起こすんだな。うんざりする」
「……」
「こんなところで何をしている?」
「ディロヤル伯爵様に、用があって来ました」
「用? お前が? 反逆者が?」
隊員たちは、ゲラゲラと笑い出す。
それを隊長が「やめておけ」と言って窘めるけど、隊員たちはそんなことお構いなし。一人が、僕に近づいてきた。
「こんなところでお前に会うなんてな……お前にだけには、会いたくなかったのに」
「だから、僕らはディロヤル伯爵に用があっただけです」
「お前が伯爵に用だなんて、偉くなったものだなあ?」
「偉いから会いにきたわけではありません」
面倒だと思いながらも言い返すと、その男は「これだから反逆者は」と言って、舌打ちをする。
「そうだ……もう、お前でいい」
「……何が?」
「こっちも、魔物が増えてどうしようもなくなってるんだ。魔物と戦う奴が足りない。お前でいい。来い」
「……そんなこと言われても困ります。僕はもうあなたたちと戦う理由なんてないんです」
「何を言っているんだ? 恩知らずめ」
「恩知らず?」
「お前のような無能の役立たずの面倒を見てやっただろう? 反逆者だと言われたお前が警備隊に入ってきて、俺たちがどれだけ迷惑したか、分かっているのか?」
「……僕のことは冤罪だと、伯爵が認めたじゃないですか……僕には、あなたたちのところにいる義務なんてありません」
「街が魔物で溢れてもいいのか!? あれだけ迷惑をかけたくせに!」
「出て行けるなら出て行きました。そっちには十分、魔法使いがいるはずです。僕が抜けたからって、なんだっていうんですか……」
「囮がいないんだよ!!」
「……囮?」
「お前の役目だろ。囮になって、魔物引きつけるのは」
「……」
「恩知らずめ。そんな風じゃ、どこへ行ってもお前なんか足手まといだ」
「………………」
「……反論がないなら考えておけ。お前には、王族の護衛なんて務まらないんだ。反逆者が……これ以上、ロヴァウク殿下にも、恥をかかせたくは…………っ!」
ふざけたその言葉は、僕の魔法で止められた。
相手の目の前でぽんっと小さな爆発を起こすその魔法で、部屋の中にそよ風みたいな風が、ちょっと吹く。それだけで、当然誰もが無傷。
危険な魔法ではないけど、相手を脅すにこれで十分だ。大きな爆発を起こしても良かったんだから。
本当は、大人しくしているつもりだった。冷静でいなきゃって、自分に言い聞かせていたんだけど、気づいたら、ついやってしまっていた。
カッとなったのか、その男は僕の胸ぐらを掴む。
「お前っ……!!
「……その口、閉じてください。無礼すぎます」
「黙れっ……罪人の分際でっ……!!! どうせ第五王子のことも騙したのだろう!! 第一王子の次は第五王子か!? 忙しいものだなあ!! 淫魔は!!!!」
「僕のことは、どうぞ好きに言ってください。その歪んだ口からどんな言葉が飛び出したところで、僕は雑音としか思いません。ですが、何も知らずに二人の王子殿下を侮辱するような真似はおやめください」
「なんだと…………」
「例えば僕が、彼らを騙そうとしたところで、彼らは二人とも、びくともしませんよ。ライイーレ殿下もロヴァウク殿下も、僕程度が何を言おうと、自分の矜持に反するような真似はしません。あなたにだってそれはわかっているはずです。何を言ったところで、無駄です。ライイーレ殿下が国王の暗殺なんて企むはずないし、ロヴァウク殿下も、そうですよ」
「…………貴様……ずいぶん、態度が大きくなったじゃないか…………何様だ?」
「そっちこそ。僕をなじる前に自分のことを見てみたらどうです?」
「黙れっっ!!!! お前がっ……! 反逆者でなくなることなんかないんだよ! あの城で、お前はライイーレ殿下の一番そばにいたんだ! それなのにライイーレ殿下を止めることも守ることもしなかったじゃないか!! それなら、やはりお前は反逆も同然だ!! お前なんかをパーティにするなんて、第五王子は頭がどうかしてっ…………」
言いかけた言葉が止まる。懲りない人だ。
僕が呼び出した魔力の剣は、その男の首のすぐ横で止まっていた。本当は止めたくなんかなかったけど、僕が横暴な真似をすれば、困るのはロヴァウク殿下だ。
「僕は、どちらの王子殿下も騙したりしません。殿下も、僕に騙されるようなことはありません。僕をパーティだと言ってくれたのは、ロヴァウク殿下です。殿下に否定されるのなら、それでいいし、やはり僕をそばに置きたくないと思って処分するなら、それでも構いません。けれど、それを他人になんかとやかく言われたくない。ましてあなたになんて。次言ったら、殺しはしないけど、代わりに当分動けなくする。以前お前が僕にしたように」
「…………」
「僕は殿下を尊敬しているし、パーティになりたい。それをお前なんかにとやかく言われる謂れはない。その口を塞いで失せろ。殿下の護衛は僕だ」
キッパリと言うと、隊員の男は腰を抜かしたのか、その場にへたり込んでしまった。
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