虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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89.有効に使おう

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 バーニジッズ殿下からの使い魔を叩き潰し、苛立った様子のロヴァウク殿下に、門番の一人が、恐る恐る声をかける。

「あ、あの……ロヴァウク殿下……」
「今見たことは忘れろ。バーニジッズの存在ごと」
「そ、そんな無茶な…………け、けれど、使い魔がきたことは誰にも言いません!! それだけはお約束します! ただ、その……」
「どうした?」
「ランギュヌ子爵は、バーニジッズ殿下を支持する貴族たちを味方につけています……どうか……お気をつけて……」

 そう言って門番の二人は、部屋から出ていった。

 バーニジッズ殿下を支持する貴族……ってことは、彼を支持する貴族たちが、ロヴァウク殿下を邪魔に思って、勝手にやっているのかな……

 ライイーレ殿下の時と同じだ。あの時だって、ライイーレ殿下は誰かと争う気なんてまるでなかったのに、勝手に祭り上げられて、勝手に敗北だけ押し付けられて、そうした奴らはみんな逃げていった。
 ロヴァウク殿下だって、権力の取り合いのために使われて、苦しいはずなのに……

 通された部屋に僕らだけになると、少し緊張感が増した。部屋の中に罠が張られていないことは確認しているけど、もしかしたら今度は魔物でもけしかけてくるかもしれない。

 窓のそばにはクロウデライが、ドアのそばにはニュアシュが立って、外を警戒している。殿下のすぐそばには僕とコティトオン警備隊長。ギャロルイトはソファに座ったまま、真っ青になっていた。

 静まり返る部屋で、ロヴァウク殿下は僕に振り向いた。

「せっかくの待ち時間だ。有効に使おう」
「有効って……ここで、ですか?」

 部屋の中で出来ることって、限られている気がするけど……

 だけど、ロヴァウク殿下は窓の方に近づいていき、空を見上げてニヤリと笑う。
 僕のリュックから、ライイーレ殿下も顔を出して、彼の肩に飛び乗った。

「罠でも張るの?」

 そうライイーレ殿下に聞かれて、ロヴァウク殿下も彼に振り向いてニヤリと笑う。

「いいや。相手が張った罠がないか調べるんだ」

 それを聞いて、僕はもう一度、部屋の中を見渡した。

「部屋の中は調べたはずですが……」
「城中だ。魔法でこっそり調べる。ランギュヌ子爵が来たら教えろ」
「……はい……」

 僕が答えると、ロヴァウク殿下は頷いて、「たまには仕返ししないとな」と言って笑った。







 しばらく部屋で待っていると、突然バタンと大きな音を立てて扉が開いて、一人の男が飛び込んできた。
 よほど急いで走ってきたのか、彼の後から入ってきた二人の護衛らしき魔法使いが、「待ってください」と言って慌てた様子で部屋に飛び込んでくる。

 けれどその男は、そんなことまるで気にせずに、ロヴァウク殿下に向かって微笑んだ。

「ロヴァウク殿下!!」

 可愛らしい声をあげて彼を呼んだのは、僕と同じくらいの背の、輝くような金色のふわふわした髪の男。大きすぎるローブを着ていて、裾を床に引きずっている。大きな目が殿下の方を向いて、その男は、にっこり笑った。

「ロヴァウク殿下っ……! お久しぶりです!!」

 まるで往年の友人に再会したかのような態度だけど、ロヴァウク殿下が彼を見下ろす目はひどく冷たい。

「……久しぶりだな、ランギュヌ。こんなところで何をしている……? 俺は、ディロヤル伯爵に会いにきたのだが?」
「え? なんでですか? 僕でもいいじゃありませんか!! それとも……僕だと、何か都合の悪いことでもあるんですか?」
「……伯爵はどうした?」
「そんな怖い顔しないでください! 彼はまだ眠ってます! だってまさか、こんなに早く来るなんて、思ってなかったからー!」
「外で俺たちに魔物をけしかけただろう」
「え? なんのことですか? この辺りは魔物が多いから、それに襲われただけじゃないんですかーー…………?」
「……」
「僕は、たまたまここに来ていただけです! だから、ディロヤル伯爵の代わりに、僕がお相手します!!」
「……どうしてもと言うなら、貴様でいい。伯爵はどうした?」
「さっき話したじゃないですかー。寝てるって。今朝、魔物に襲われて倒れちゃったんです。だから僕が介抱しているんです! 僕のこと、ディロヤル伯爵は頼りにしているみたいだから!」
「貴様は必要ない。他に回復魔法を使える者がいるはずだ」

 冷たく言われて、子爵の顔が微かに歪む。

「……そんなことありません。僕がこの城で、一番回復魔法がうまいんだから。だいたい、殿下が何度も面会を求めたりするから、伯爵だって疲れちゃったんじゃないんですか? だからあんな魔物にも苦戦するんですよ」
「そうか。面倒な男が居座っていつまでも帰らないせいかと思った」
「えー。殿下、それ、ご自身のことですかー?」
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