虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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84.慣れないままでもなんとか

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 門番たちに敵意はないようで、ほっとした。

 剣を握る僕の手に、背後にいたロヴァウク殿下が手を重ねる。彼は、「よくやった」と言ってくれて、見上げると、僕に笑顔を見せてくれた。

 誰かが僕の隣に並んでくれて、誰かが僕の背後にいる。
 パーティを組むって、こんな感じなのかな……誰かとパーティを組むなんて、多分一生考えられないと思っていたけど……

 僕も何か言いたいのに、声が出ない。
 それに、なんでだろう。今更、剣を握る手が震える。

 僕はすぐに、魔力の剣を消して首を横に振った。

「……あ……えっ……と……よくやれてなんかいません……勇み足でした」
「そんなことはない。あの街でも、守るのがうまいと思っていた」
「はっ……!?」
「俺の魔法を防ぐほどの腕があるのなら、回復など使えなくても問題ないだろう」
「あ、あります! だって……僕は一人で荒野の城を目指すんだから……」
「まだそんなことを言っているのか?」
「だってっ……!」
「レクレットはすでに、俺のパーティだろう」
「だ、だからっ…………ち、違うって言ってるのに……僕は、パーティなんか組みません。自分の手の内を明かすことも無理だし……それに、僕にとっては誰かの前で警戒を解くのは、ひどく怖くて……」
「解かなくていい。いずれ勝手に解ける」
「……」

 勝手に解ける? そんなに簡単に解けたら苦労しない。

 ……あ、でも、僕はもう警戒を解いていたのか……それも、気づかないうちに。

 だって、それを指摘されたばかりだ。

 ……どんだけ気ぃ許してんだよって。

 いつのまにか僕は、ここにいる人たちに対して、警戒を解いていたんだ。

 急に黙り込む僕に、遠慮を知らないロヴァウク殿下が微笑む。

「……そんな顔をするな」
「え?」
「警戒を解いたところで、お前のパーティは俺だ。何を恐れることがある?」
「殿下……」

 あるだろ。そんなの……

 手を差し出されることが怖いって思ったの、初めてかも。
 本当はその手を取りたいけど、その手を取るのも怖い。

「ぼ、僕は、パーティにはなりません…………好敵手なら……構いませんが……」
「今さら断れると思っているのか?」
「こ、断れるって……そんなの、僕の自由ですっ……!」
「確かにそうだが……」

 殿下が僕の手を握って、僕を引き寄せる。
 剣を握るための手なのに、握られただけで力が抜ける。
 いつのまにか腰に手が回っていて、彼の胸が僕の同じところに擦れ合うくらい、彼がすぐそばにいた。

 他人が、今、自分のすぐそばにいる。

 それなのに、いつもの警戒心が消えていく。

 見上げたら、彼はまるで僕のそんな気持ちすら知っているかのように笑っていた。

「今さら断れるというなら、やってみろ。貴様が挫け敗北を認めるまで、俺が誘い続けてやる」
「何言ってるんですか!! な、なんでそんなにっ……! 僕じゃなくてもっ……ほ、他にいますよね……く……組める……人……」
「なんだ? 他に、の後くらいから、声が小さくて全く聞こえないぞ。俺は貴様以外と組む気はないのだが?」

 聞こえてるじゃないかっ……!

 声が小さくなっているのなんて、自分で気づいてる。だって「他にいるだろ」なんて、本心じゃない。

 他の人と殿下がパーティ組むなんて嫌だ!!

 殿下の隣にいるなら僕がいい。それなのに、パーティを組もうと言われれば怖いと言って断る僕はなんなんだーー!!

 僕って……自分で自覚していた以上に意味わかんなくてかなりクズ……ますます誰かとパーティ組める気なんてしない……組んだところで、すぐに解散したい、なんて思われたら嫌だ。

 結局、僕はどうしたいんだ。

 久しぶりに頭を抱えて叫びたい。みんないるからしないけど。

「そんなことありません! は、離してください! 早くいきましょうっ……! 逃げられたら、困るじゃないですか!」
「勝手に先に行くな。もうパーティだろう」
「違います!!」

 なんだかもう、勝手にパーティにされている……しかも、断れる雰囲気ではなくなっている。僕はまだ、パーティ組むなんて怖いのに。

 彼から逃げるように走ると、すでに門の前で門番と話をしていたニュアシュとクロウデライが僕に振り向いた。

「話は終わりましたか? レクレット」
「おせえんだよ……今更日和る気か? 帰ってもいいんだぞ」

 相手は僕なのに、なんでみんな、こんなに優しいんだよ……どうかしてる。本当に。

 嬉しいのに、どんな顔をしていいか分からなくて、僕は「すみません」と言って、慣れないままでもなんとか笑ってみた。
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