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82.それはダメです
しおりを挟む僕たちと一緒に伯爵の城に帰ることになったギャロルイトは、ずっと青い顔をしていた。
「ほ、本当に行くんですか……? 行かない方がいいと思いますが……」
「もちろん、行く」
キッパリとロヴァウク殿下に言われて、ギャロルイトは肩を落としてしまう。
僕は、彼に振り向いてたずねた。
「あの……あなた一体、誰なんですか? 伯爵の使者って言ってましたけど……」
「それは……その……」
彼は少し悩んだようだったけど、やがて項垂れて口を開いた。
「ランギュヌ子爵様に魔法を教えていただいた魔法使いでございます……」
「子爵に?」
僕が聞き返すと、彼はビクッと震え上がる。
そんな彼に、今度はロヴァウク殿下が冷徹な目を向けてたずねた。
「結界維持の道具に、おかしな細工をしたのはランギュヌ子爵だな?」
「そ、それは……わ、私も聞かされていません。ほ、本当ですっっ!! ただ、それを用意したのは子爵様で、結界を弱らせることも打ち消すことも自由自在だと伯爵に話しているのを聞いたことがあります……」
「……子爵は結界を握って伯爵を脅しているのか?」
「そ、そこまでは知りません!! あ、あの……子爵様には、私があなた方と共に伯爵のお城に向かったことは、黙っていてもらえると嬉しいのですが…………」
揉手しながら頼むギャロルイトだけど、ロヴァウク殿下は完全無視。
そんなにランギュヌ子爵が怖いのかな……
ギャロルイトは、怯えた様子で言った。
「……ほ、本当にいいんですか? こ、こ、こんなことをして……王族といえども、ここは、伯爵の領地で……あ、あまり強引な真似をすることは、許されないのでは……」
「なにが許されないだ。俺たちは、結界維持のための道具を修復してもらいに行くだけだ。これを維持するのは伯爵の役目だろう? 正式な手続きも踏んだ」
「け、結界維持の道具の修復ならっ……わ、私に任せてもらえれば、持っていきます!」
「貴様には任せられない」
「……」
「話がこじれたから、使者である貴様が俺たちを連れていってくれるのだろう?」
「わ、私はそんなことは一言もっ……言いました!! 確かに言いました!!」
殿下とクロウデライとニュアシュに囲まれて、ギャロルイトはあっさり頷く。
なんとか城の中には入れそうだけど、その後の策はあまりない。大丈夫かな……
城に入ってからのことを考えていたら、リュックの中からライイーレ殿下が顔を出した。
「レクレット……俺はここにいていいの?」
「へ? はい……だ、だって、警備隊の城に置いていって、何かあったらどうするんですか……」
「そうじゃなくて、俺も何かしたいよ」
彼は、ふらふらとリュックの中から出てこようとする。
ロヴァウク殿下が自らの魔力で作り出した巨大な竜は、背中も広くて、小さなライイーレ殿下が歩いても、落ちたりはしなさそうだけど、それでも心配だ。
「あ、危ないです! 殿下……どうか、リュックの中に入っていてください……」
慌てて彼がリュックから落ちないように、その中に戻す。
すると、ニュアシュが僕に振り向いて言った。
「その小さい犬は、本当に国一番の魔法の異才と言われた第一王子なのですか…………?」
「本当です……魔力を封じられて、こんな姿になっているだけで……」
「……そうですか……」
ニュアシュは、リュックの中から顔を出すライイーレ殿下を、じーっと見つめている。
溢れんばかりの魔力を持ち、四六時中魔法の研究に勤しんでいたライイーレ殿下に、ニュアシュは憧れていたらしい。
その視線に気づいたらしいライイーレ殿下が、彼に振り向いて小首を傾げていた。
今度は、クロウデライがライイーレ殿下に振り向く。
「……とても王子には見えないけどな……」
そう言った彼に、ライイーレ殿下がふざけて「わん」と鳴くと、彼は少し照れたように言った。
「な、なんだよ……腹減ってんのか? ほら……」
彼がビーフジャーキーを差し出すと、早速飛びついて行こうとするライイーレ殿下。
それを僕が抱っこして止めると、ニュアシュがジャーキーを受け取って、ライイーレ殿下の鼻先まで持ってきてくれた。
「可愛らしいですね……子犬にしか見えません」
「……ちゃんとライイーレ殿下です…………殿下、落ちないように気をつけてください」
僕らがそんな話をしているうちに、竜は門の方に降りて行った。
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