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81.片をつけるぞ

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 客間に戻った僕たちは、拘束の魔法が解けたばかりのギンケールたちをタンヘットに預けてから、伯爵の城に向かうことにした。

 本当は、ここからは僕らだけで向かうつもりだったのだが、クロウデライとニュアシュが手伝ってくれることになり、僕らは彼らと隊長と一緒に、ギャロルイトを連れ、伯爵の城に向かうことになった。

 伯爵には、こちらと話す気はまるでないようだが、伯爵のしていたことを知るギャロルイトは拘束したし、おかしな魔法がかけられた結界の道具もある。
 伯爵と対峙できるものは用意したが、向かう先は伯爵の城。罠を張られている可能性は十分あるし、何より、逃亡されては困る。
 僕らが街をあける間、街を守れるように、ロヴァウク殿下がフィンスフォロースを通して、腕利きの魔法使いを集めてくれたけれど、伯爵の城に行く方は人数が少なくて不安だったんだ。
 だから、犯罪者の捕縛に長けているニュアシュやクロウデライの手を借りられることになり、心強かった。

 夜の間に出発の準備をして、巨大な竜の使い魔の背に乗って飛ぶと、朝日が昇る頃に、太陽に照らされた伯爵の城が見えてくる。それは、湖の街から少し離れた、小高い丘の上にあって、静まり返った森に囲まれていた。

「久しぶりですね……ここを訪れるのは」

 そう言って、僕の隣で竜に乗っているニュアシュが城を見下ろす。彼は、拘束の魔法が解けたばかりのギンケールたちの回復を、全て引き受けてくれて、疲れていて当たり前なのに、平然としていた。

「あの……本当によかったんですか?」

 僕が聞くと、彼は「何がですか?」と、本当に不思議そうな顔をする。

「だって……ニュアシュさんたちにしてみれば、伯爵に逆らうことになるんじゃないんですか?」

 恐る恐る聞いた僕に答えたのは、ニュアシュの後ろに座っていたクロウデライ。

「関係ねえよ。悪いのは、増えた魔物を無視してる伯爵だ」

 そう言う彼に、隊長が振り向いて、不安そうに言う。

「あまり乱暴な真似はするなよ。今回は、ロヴァウク殿下の従者として行くのだから」
「……分かってまーす」

 答えるクロウデライは、少し緊張しているようだ。第五王子がいるから、というより、伯爵の城に行くことに。
 彼らも、散々自分達の要請を無視した伯爵のことは、何かおかしいと思っていたようだが、直接会えることはなかったらしい。

 クロウデライは、朝食にと渡されたパンをかじりながら、伯爵の城を見下ろしている。

 それを彼に渡してくれたのは、ロヴァウク殿下に呼ばれて、焼きたてのパンを持ってきてくれたロティスルート。彼は、自らの竜の羽で、僕らが乗る使い魔の竜と並んで飛びながら、器用にパンにバターとジャムを塗って、僕にも渡してくれた。

「はい。レクレットの分」
「あ……ありがとう……」
「ご飯は大事だからねー。俺はそろそろ街に戻るけど、殿下をよろしくね」

 そう言って、彼は僕らから離れて飛んでいく。湖の街に戻ったら、魔物と戦う警備隊の手助けをしてくれるらしい。

 けれど、殿下の従者を魔物と戦わせるわけにはいかないと、最後まで反対していたコティトオン隊長は、竜の最後尾でロティスルートを見送りながら、心配そうに言う。

「……大丈夫でしょうか…………こんなことになってしまい……本当に申し訳ない……」

 すると、それを聞いたロヴァウク殿下が、余裕すら感じる笑みを浮かべて答えた。

「あれの腕は確かだ。任せておけ」
「……ロヴァウク殿下」
「どうした?」
「……感謝いたします。街を助けてくださって……」

 隊長が言っているのは、街を離れなければならないことを見越したロヴァウク殿下が、各地の貴族から腕利きの魔法使いを集めてくれたことだろう。ただでさえ、あの街は魔物が増えているのに、結界は弱まっている。隊長がいない間、あの街を守る人が必要だ。

 ロヴァウク殿下は「礼を言われることではない」と言って、伯爵の城がある方に向き直る。

「だが、ここほどではないにしても、魔物が増えているのはどこも同じだ。伯爵の領地では彼らも動きづらい。片をつけるぞ」
「はい……」

 コティトオン隊長も、真剣な顔で伯爵の城を見下ろしていた。
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