虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
80 / 117

80.ゆっくりして行ってください

しおりを挟む

 廊下に立ち止まって話していると、ニュアシュも駆け寄ってくる。

「クロウデライ!! 先に行かないでください!!」
「なんだよ……うるせーな……」
「また喧嘩を売っていたのですか?」
「なにもしてねーよ!! 何でお前はいつもそう言うことばっか言うんだよ!!」
「……初めて会った頃に、散々殴りかかってきたからです……」
「…………その話すんなよ……」

 嫌そうな顔をするクロウデライに、一瞬微笑んで、ニュアシュは僕らに振り向いた。

「……こんなに早くバラしてしまうなら、最初から隠さなくてもよかったのではありませんか?」
「そんなことはない」

 そう言って、ロヴァウク殿下が腕を組む。

「王族が歩いていても、ギンケールたちには会えなかったし、ギャロルイトも、ここへは来なかった。クロウデライから、貴族が嫌いだと聞くこともなかっただろう」

 すると、それを聞いたクロウデライは、殿下を睨みつける。

「ふざけんな……俺は、てめぇらがなんであっても言う。どーせ死刑になったって、痛くも痒くもねーよ…………」
「……それにしてはさっき下手な敬語を披露していたようですが……」

 ニュアシュにそう言われると、クロウデライは、真っ赤になって彼を怒鳴りつける。

「るせえ!! 下手ってなんだ下手って!! ちゃんと敬語になってただろうが!!」
「怪しいものです」
「つーかお前知ってたなら言えよ!! 俺にだけ黙ってたな!!」
「さっき、気づいていたと言っていたではありませんか」
「それはっ……なんとなく、そうかなって思ってたくらいだ……こんなところに第五王子殿下がいるなんて、思わねーだろ…………そ、そもそも、新人のロヴァウとレクって自分達で言ってたじゃないか!! だったら、ロヴァウとレクでいいだろっ……!! ここにいる間は!!」

 彼に言われて、ロヴァウク殿下は微かに笑った。

「構わない」
「……だったら最初からそう言えよ……そんで? 何しに来たんすか? あの裏通りを取り返しに来たってわけじゃねえんだ……ですか?」
「ここの魔物対策と警備隊の状況を知り、町の魔物を放置している伯爵の城に潜入するためだ」
「伯爵の……? 潜入って……だったらバレたらまずいんじゃないんすか?」
「エンディエフを拘束した時点で、向こうも警戒しているはずだ。今さら隠す必要はない」

 すると、ニュアシュが真剣な顔をして言った。

「エンディエフを拘束するのは、もう少し後でもよかったのではありませんか?」
「いいや。もたもたしていると、向こうに先にギンケールたちを連れて行かれる可能性があった。こっちが先だ」
「……そうですか……」

 答えるニュアシュは少し嬉しそうだった。
 それはクロウデライも同じなようで、彼は気まずそうに口を開く。

「…………なあ…………ロヴァウ。レク」
「……? なんだ?」

 ロヴァウク殿下が首を傾げる。
 僕も何か言われたような気がして、顔を上げた。

 するとクロウデライは、こっちとは目をあわせないように顔を背けたまま「ありがとう」と呟く。

「助かったよ…………あそこの連中、助けてくれて…………新人のくせに……」
「し、新人って、今は関係なくないですか!??」

 僕が聞いても、クロウデライは苛立ったように顔を背けるだけ。

「るせーよ……貴族……死ねよ。俺らだけじゃ、できなかったから……」

 すっごく言いにくそうな彼の隣で、ニュアシュが呆れたように言う。

「すみません。謝意と憎まれ口が重なったこれが、クロウデライにとって、最大級の感謝の言葉なんです。どうか、分かってあげてください」
「余計なこと言うな!」

 赤い顔の彼は、僕らに向かって手招きをする。

「来いよ……まだ今日の仕事、始まったばっかりだし……伯爵の城に潜り込むんだろ? あいつが魔物に無関心なのは、俺らも困ってる。お前らがなんとかするって言うなら……俺らも手伝うから……」
「クロウデライさん……」
「…………でも、王族なら護衛とか部下とか、いっぱいつれてるはずだろ? なんでレクしかいないんだ? 他の護衛は?」
「……僕、護衛じゃありません……一応、殿下とは、荒野の城の討伐隊に参加するために競っている競争相手なんです」
「……なんだそれ。護衛は?」
「いません」
「いない!?? なんでだよ!??」
「なんでって言われても……殿下だから…………」
「お前……本当にその警戒心、なんとかしろ。第五王子が、こんなところでふらふらしてんなよ…………」

 呆れたように言う彼に、僕は何も反論できなくなってしまう。

 すると、ニュアシュが堪えきれないと言った様子で笑って言った。

「……とりあえず、作戦会議でも始めましょう。伯爵は、使者一人を寄越して、門を開く気がありません。きっと、これからもそうでしょう。エンディエフを使ったのも、いざとなれば彼を切り捨て、自分は無関係を装うためです。これからどうするか……あなた方が私たちに協力する代わりに、私たちも、あなた方に協力します。せっかく警備隊に来たのだから、もう少し、ゆっくりして行ってください」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...