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80.ゆっくりして行ってください
しおりを挟む廊下に立ち止まって話していると、ニュアシュも駆け寄ってくる。
「クロウデライ!! 先に行かないでください!!」
「なんだよ……うるせーな……」
「また喧嘩を売っていたのですか?」
「なにもしてねーよ!! 何でお前はいつもそう言うことばっか言うんだよ!!」
「……初めて会った頃に、散々殴りかかってきたからです……」
「…………その話すんなよ……」
嫌そうな顔をするクロウデライに、一瞬微笑んで、ニュアシュは僕らに振り向いた。
「……こんなに早くバラしてしまうなら、最初から隠さなくてもよかったのではありませんか?」
「そんなことはない」
そう言って、ロヴァウク殿下が腕を組む。
「王族が歩いていても、ギンケールたちには会えなかったし、ギャロルイトも、ここへは来なかった。クロウデライから、貴族が嫌いだと聞くこともなかっただろう」
すると、それを聞いたクロウデライは、殿下を睨みつける。
「ふざけんな……俺は、てめぇらがなんであっても言う。どーせ死刑になったって、痛くも痒くもねーよ…………」
「……それにしてはさっき下手な敬語を披露していたようですが……」
ニュアシュにそう言われると、クロウデライは、真っ赤になって彼を怒鳴りつける。
「るせえ!! 下手ってなんだ下手って!! ちゃんと敬語になってただろうが!!」
「怪しいものです」
「つーかお前知ってたなら言えよ!! 俺にだけ黙ってたな!!」
「さっき、気づいていたと言っていたではありませんか」
「それはっ……なんとなく、そうかなって思ってたくらいだ……こんなところに第五王子殿下がいるなんて、思わねーだろ…………そ、そもそも、新人のロヴァウとレクって自分達で言ってたじゃないか!! だったら、ロヴァウとレクでいいだろっ……!! ここにいる間は!!」
彼に言われて、ロヴァウク殿下は微かに笑った。
「構わない」
「……だったら最初からそう言えよ……そんで? 何しに来たんすか? あの裏通りを取り返しに来たってわけじゃねえんだ……ですか?」
「ここの魔物対策と警備隊の状況を知り、町の魔物を放置している伯爵の城に潜入するためだ」
「伯爵の……? 潜入って……だったらバレたらまずいんじゃないんすか?」
「エンディエフを拘束した時点で、向こうも警戒しているはずだ。今さら隠す必要はない」
すると、ニュアシュが真剣な顔をして言った。
「エンディエフを拘束するのは、もう少し後でもよかったのではありませんか?」
「いいや。もたもたしていると、向こうに先にギンケールたちを連れて行かれる可能性があった。こっちが先だ」
「……そうですか……」
答えるニュアシュは少し嬉しそうだった。
それはクロウデライも同じなようで、彼は気まずそうに口を開く。
「…………なあ…………ロヴァウ。レク」
「……? なんだ?」
ロヴァウク殿下が首を傾げる。
僕も何か言われたような気がして、顔を上げた。
するとクロウデライは、こっちとは目をあわせないように顔を背けたまま「ありがとう」と呟く。
「助かったよ…………あそこの連中、助けてくれて…………新人のくせに……」
「し、新人って、今は関係なくないですか!??」
僕が聞いても、クロウデライは苛立ったように顔を背けるだけ。
「るせーよ……貴族……死ねよ。俺らだけじゃ、できなかったから……」
すっごく言いにくそうな彼の隣で、ニュアシュが呆れたように言う。
「すみません。謝意と憎まれ口が重なったこれが、クロウデライにとって、最大級の感謝の言葉なんです。どうか、分かってあげてください」
「余計なこと言うな!」
赤い顔の彼は、僕らに向かって手招きをする。
「来いよ……まだ今日の仕事、始まったばっかりだし……伯爵の城に潜り込むんだろ? あいつが魔物に無関心なのは、俺らも困ってる。お前らがなんとかするって言うなら……俺らも手伝うから……」
「クロウデライさん……」
「…………でも、王族なら護衛とか部下とか、いっぱいつれてるはずだろ? なんでレクしかいないんだ? 他の護衛は?」
「……僕、護衛じゃありません……一応、殿下とは、荒野の城の討伐隊に参加するために競っている競争相手なんです」
「……なんだそれ。護衛は?」
「いません」
「いない!?? なんでだよ!??」
「なんでって言われても……殿下だから…………」
「お前……本当にその警戒心、なんとかしろ。第五王子が、こんなところでふらふらしてんなよ…………」
呆れたように言う彼に、僕は何も反論できなくなってしまう。
すると、ニュアシュが堪えきれないと言った様子で笑って言った。
「……とりあえず、作戦会議でも始めましょう。伯爵は、使者一人を寄越して、門を開く気がありません。きっと、これからもそうでしょう。エンディエフを使ったのも、いざとなれば彼を切り捨て、自分は無関係を装うためです。これからどうするか……あなた方が私たちに協力する代わりに、私たちも、あなた方に協力します。せっかく警備隊に来たのだから、もう少し、ゆっくりして行ってください」
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