虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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76.平然と

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 夕方。

 日が暮れる頃。

 僕らは砦の中で、じっと外を見つめながら、使者を待った。

 そして、日が暮れそうな頃になって、ディロヤル伯爵からの使者はやってきた。
 それは、宝石をいくつも身につけた魔法使いの男だった。
 宝石は全部、拘束の魔法の道具だ。おそらく、後ろに並ぶギンケールたちを捕まえておくために使っているんだろう。

 幾人もの護衛を従え、ギンケールたちまで連れてきたその男は、ギャロルイトという名らしい。
 コティトオン隊長と僕、ロヴァウク殿下は、他の警備隊の面々と一緒に彼を出迎えて、客間に通した。

 ギャロルイトは、偉そうにふんぞり返ってソファに座り、彼と向かい合うコティトオン隊長の前で足を組んで言った。

「相変わらず薄暗くて汚い砦だな! コティトオン! こんなところに通して、どういうつもりだ!」
「申し訳ございません」

 答えるコティトオン隊長の声は、いつになく冷たい。その背後に控えた僕らも、うんざりして彼を睨むのに、ギャロルイトはこちらの様子など、どうでもいいようだ。

「こっちはこんなところまでわざわざ出向いてやっているのだぞ。どいつもこいつも、のろまなクズどめ!」
「……私のことはともかく、他の者のことまで悪く言うのはお止めください。あなたをここで待たせたのは私です」
「ふん……役立たずが偉そうに。ここの警備隊はどうなっているんだぁっ!?? 市民を危険に晒し、魔物たちの前に突き出したそうではないかっっ!! ここにいる奴らが、全員証言してくれたぞ!」

 彼は、後ろに控えたギンケールたちを指して、またまた胸を張る。

 ギンケールたちは、何も言わなかった。誰もが俯いたまま、死んだような表情で、ただぼーっと、そこに立っている。

 自信満々でこちらを責め立てるギャロルイトを、コティトオン隊長は睨みつけて言った。

「確かに、隊員たちが市民を危険に晒したことは事実です。しかし、彼らは現場の判断で、街と市民を守るために最善と思われる手段を取ったのです。結果、街は守られました」
「黙れ。貴様の醜い言い訳など、聞きたくないわ! 彼らは証言している。警備隊に、無理やり戦わされたと。なんと恐ろしいことだ! 市民を守るべき警備隊が、市民を脅し! 魔物の前に突き出し! よりにもよって魔物と戦わせるとは!!」
「責任を取れというのなら、私が取ります」
「黙れコティトオン!! そればかりではなぁいっっ!!」

 大袈裟な仕草で両手を広げるギャロルイト。隊長を責められることがよほど楽しいようだが、コティトオン隊長の後ろには、ギャロルイトを今にも切り付けそうな顔で睨むクロウデライやニュアシュたちが立っている。

 彼らの前で、ギャロルイトは声を張り上げた。

「彼らは皆、警備隊の連中に盾にされ、大怪我を負ったのだっっ!!!! 本来守るべき対象である市民を盾にして、その上道具のように戦わせるなど、なあぁぁんて恐ろしいことをっっ!! ああ! 恐ろしいっっ!!」

 恐ろしいと言う割に楽しそうなギャロルイトに、コティトオン隊長は冷たい目をして反論する。

「彼らは皆、無傷に見えますが?」
「それはエンディエフがっっ!! とてもとても高価なはずの回復の薬を安く売ってやったのだ!! そうしなければ、誰もが死んでいたのだ!!!! 貴様ら!! エンディエフに感謝しろ!!」

 エンディエフという名を聞いて、背後にいたギンケールたちの表情が、かすかに動いた。
 隊長によると、彼らからあの場所を奪った富豪がエンディエフらしい。

 伯爵家から遣わされたくせに、エンディエフと関係があるようなことを早速大声で叫んだギャロルイトは、すでに自分に酔いすぎて、自制する気などまるでないらしい。

 ギャロルイトは、背後に並んだギンケールたちに振り向いて「そうだろう?」と尋ねると、ギンケールたちは機械的に「はい」と答えて頷いた。

 伯爵だか富豪だか、それともギャロルイト自身の策なのかは知らないが、卑怯な真似をする。

 彼は、ギンケールたちに拘束の魔法をかけて、言いなりにしている。それに、ギンケールたちの傷は、全部殿下が回復させたはずだ。それなら回復の薬なんて必要ない。
 どうせ上手いこと言って近づいて、拘束の魔法をかけて連れてきたんだ。

 彼らを魔法で従えたギャロルイトは胸を張って言った。

「もう貴様らにはこの街を任せてはおけない。コティトオン隊長……貴様は解任だ」
「なぜです?」
「なぜ!? 今聞いていただろう!! 市民を危険に晒したからだ!! ここの警備隊も解散だ! 解散!!」
「なにを馬鹿なことを言っているのです?」
「馬鹿だと!? 貴様程度の貴族が、ランギュヌ子爵にも一目置かれた私を馬鹿だと!? 撤回しろ! 後悔することになるぞ!!」
「ご心配は無用です。私が後悔することはありませんから」
「なんだとっ……!」
「この警備隊をなくして、それから魔物の対策はどうなさるおつもりです?」
「そんなことはディロヤル伯爵がなんとかする。警備隊など、いたところで、なあぁぁーんの役にも立たないではないかぁっ! 見てみろ! ここはひどい状態だ!! 警備隊だというが、すでに隊員はほとんどいない! 最後に残った連中も、柄の悪いグズな平民に、他に行き場のない没落貴族……クズばかりだなあ!! ゴミの吹き溜まりは、なくしておいた方が街のためだ!!」

 それを聞いたクロウデライが、ついにギャロルイトに殴りかかろうとする。彼の隣に立ったニュアシュが彼の腕を掴んで止めなければ、すでに殴っていただろう。
 ニュアシュの方も、相当我慢しているらしい。見ているこちらの背筋が寒くなるような顔をしている。

 一番我慢が続かなかったのは、僕だった。気づいたら僕は、ギャロルイトがいくつも下げている宝石を指差していた。

「それ、拘束の道具ですよね?」
「はあ? なんだ貴様は。警備隊にいたか?」
「昨日から入りました」
「昨日入ったばかりの新人か……貴様のような奴に、なぜそんなことが分かるんだ? あ?」
「分かります。間違いありません。僕も見たことがありますから。そっちの腕輪で、彼らの体の自由を制限して、あなたが首からいっぱい下げているそれで、彼らの命を握ってるんですよね?」
「な、なんのことだ!! 言いがかりは許さんぞっっ!! 無礼者めっっ!!」
「言いがかりだと言うなら、今すぐ外してみてください。できませんよね?」
「黙れ黙れ黙れ!! コティトオン! なんだこの無礼な男は!! こんなものを雇っているのか!?」

 怒鳴るギャロルイトに、コティトオン隊長は平然と言い返す。

「彼は警備隊の大事な一員です。こうやって、あなたの持っている物の正体を全て見抜くくらい、優秀な。侮辱はおやめください」
「……貴様…………っ!!」

 カッとなったのか、ついに立ち上がるギャロルイト。
 けれど、隊長をはじめとする、そこに集まった面々からは、冷たい視線が向けられるだけだった。
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