虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
71 / 117

71.魔法のことだけ

しおりを挟む

 あれから、買っておいた食事を腹一杯食べたライイーレ殿下は、すっかりお腹いっぱいになったらしく、二段ベッドの上に飛び乗って、ぐっすり眠ってしまった。
 気持ちよさそうに寝息を立てる彼の隣に座って、彼を見下ろしていると、なんだか落ち着く。

 こうして寝ている姿を見ていると、異才と呼ばれながらも強力な魔法に魅入られ追放された第一王子なんて思えない。

 ライイーレ殿下は、昔からこんな風に無邪気だった。

 お城にいた時のライイーレ殿下は、いつだって魔法の研究に夢中で、寝食なんて元々頭になかったみたいに地下にこもっては魔法の書物を読み漁り、強力な魔法で部屋を壊してしまうような人だった。
 彼に魔法を学ぶために集まった貴族の魔法使いたちも、よく困惑していたけど、ライイーレ殿下は、まるでそんなこと気にしてない。
 僕は家からライイーレ殿下に取り入るように命じられていたけど、早々にそんなことをするのはやめた。
 ライイーレ殿下は本当に、純粋に魔法が好きだったんだ。
 城でたまに会うと、「やあ、また会ったね。君はこの城の魔法使いなのかな? 調子どう?」なんて聞いてくれた。だけど僕が返事をしているうちに、ふらふらと去っていってしまう。僕の返事なんて全く聞いていないのは明らかで、数日経って城でまたすれ違うと同じことを言う。その度に僕は「城の魔法使いじゃなくて、あなたに魔法を習いに来たレクレットです」って説明するのに、「城の」くらいまで言ったところで、すでにライイーレ殿下は僕の前にいない。
 多分、その時のライイーレ殿下は、魔法のことしか考えてなかったんだろう。

 反逆を疑われて、魔力を失ってからは、しばらくぼーっとしていたみたいだけど、僕が再会して、ごはんあげたりしているうちに「ごはんっておいしー」なんて言いながら、僕にも笑ってくれるようになった。だから、ライイーレ殿下が美味しそうに食べていると、僕も少し安心する。本当は、魔法を使いたいのかな……

 寝ているライイーレ殿下に、指で触れる。

 僕はこうして自由になれたけれど、ライイーレ殿下はまだ小さな犬の姿のまま。彼自身は、このままの姿も気に入っているらしいけど、たまには元に戻してあげたりできないのかな……

 あの時ライイーレ殿下を取り押さえた、第五王子のロヴァウク殿下は、フィンスフォロースたちへの報告と、伯爵の城に向かうための準備に行ったきり、まだ戻らない。早く帰ってこないかな……

 そんなことを考えながら、しばらくライイーレ殿下の寝顔を見下ろしていたら、僕まで眠くなってきた。

 頭が重いような気がして、つい、目を瞑ってしまうと、窓を閉めてあるはずの部屋に風が吹いて、二段ベッドの下に、かすかな光が見えた。

 まさか、敵!??

 伯爵がまた刺客でも送ってきたのか!?

 寝ているライイーレ殿下を布団で隠し、彼の周りに結界を張る。
 それから、二段ベッドから飛び降りた。

 すると、背後から僕を呼ぶ声がした。

「レクレット……」

 即座に魔力の剣を作り出し、振り向く。

 だけど、そこにいたのはロヴァウク殿下で、二段ベッドの下のベッドで、書類を読んでいた。

 しかも、変装用の姿ではなく、元の姿に戻っている。藍色の長い髪の間から大きな黒い狼の耳をのぞかせた彼は、すでに寝巻きを着ていて、尻尾をゆらゆら振っていた。

「し、失礼しました!!」

 僕は慌てて、彼の喉元に突きつけていた剣を消す。

 びっくりしたびっくりした!! 絶対、賊だと思って、王族の首に剣を突きつけてしまった!

 飛び退く僕に、殿下はニコニコしながら言う。

「気にしなくていい。レクレットはそうでなければ」
「ち、ちゃんと偽名で呼んでください! な、なんで……いつのまに……!」
「門も扉も閉まっていたからな。魔法で飛んできた」
「そ、そんな時は、使い魔でも飛ばしてくだされば、お迎えにあがります……本当に、申し訳ございませんでした……」

 頭を下げて、ライイーレ殿下を起こさないように小声で言うと、ロヴァウク殿下は首を傾げる。

「どうした? 二人しかいないんだ。普通に話せばいい」
「二人じゃありません。ライイーレ殿下が上で寝ているんです」
「……あいつが?」
「疲れたみたいで……気持ちよさそうに寝てるから、起こさないようにしてあげたいんです……」
「……そうか………………叩き起こそう」
「ダメですっっ!!!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...