虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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70.仲がいい!?

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 ロヴァウク殿下は、結界維持の道具を眺めながら楽しそうに言った。

「これはフィンスフォロースに調べさせる」
「……? 何か、おかしなところでもありましたか?」
「さあな。俺はあまり魔法の道具には詳しくないんだ」

 そう言って殿下が笑ったところで、屋根の下から、僕らを呼ぶ声がする。

「おい!! レク!! ロヴァウ!! 降りてこい!!!!」

 屋根の下を見下ろせば、クロウデライが、僕らを手招きして呼んでいた。

「なにしてんだ!! 戻るぞ!」
「は、はい!! 今行きます!」

 答える僕らの横をすり抜けて、空から降りてきたニュアシュが、クロウデライのもとに降りて行く。第一部隊が魔物を退治していたあたりから飛んできたんだろう。

「クロウデライ!!」
「なんだよ……めんどくせえ奴が帰ってきた」
「誰が面倒なんですか!! それより、ここにいた魔物はっ……! 恐ろしい数の魔物がいたはずです!」
「……いねーよ……そんなの」
「ですがっ……」
「とっくに退治したって言ってんだよ……」
「まさか……あれだけの数の魔物を……?」
「そっちはどうなんだよ? 怪我人が出たんだろ…………お前は……どうなんだよ…………」
「どう、と言われましても……私は、回復の魔法が得意ですから。大したことはありません」

 そう言って微笑むニュアシュだけど、それって、かなりひどい怪我をしたけど治してきたってことになるんじゃないか? 着ている服も、大きく破れているし……

 それを聞いたクロウデライが、いきなりニュアシュに掴みかかる。

「そういうのは無事って言わねえんだよ! 早く帰るぞ……バカ貴族!!」

 怒鳴りつけているのに、彼はニュアシュの手を取って、飛行の魔法で空に飛び上がり、砦の方に飛んでいく。

 罵る割に、ニュアシュのことを連れて行っちゃうし、仲がいいのか悪いのか、分からないな……







 魔物退治が終わり、報告の書類が終わる頃には、もう日が暮れた後だった。何しろ、市民に手を出し、警護されるべきチミテフィッドに勝手に協力を要請してしまったんだから、始末書も合わせるとすごい量だ。
 頭を抱える隊長と、文句あるなら聞いてやるから人を寄越せと言い出したクロウデライが、つかみ合いの喧嘩を始めて、ニュアシュが止めに入っていた。

 こんな時ばっかり殿下はどこかに行っちゃうし、書類を何とか終わらせる頃には、僕はくたくただった。

 この警備隊にいる間は、寝泊まりのために砦の一室を貸してくれるらしい。
 ここの警備隊はみんな住み込みで、砦の中にそれぞれ部屋を持って暮らしているようだ。
 僕らが使う部屋へは、クロウデライが案内してくれた。
 古い廊下を歩いて行くと、一つの扉の前で彼は立ち止まって、僕に振り向く。

「ここ。前に辞めていった奴が使ってた部屋。中はその時のままだから。好きにしていい」
「……はい…………ありがとうございます……」
「風呂は飯の前。時間とか砦の中でのルールは、さっき渡したノートに書いてある。飯の時間に遅れんなよ」
「はい……あの……」
「なんだよ……貴族様には狭くて汚いか?」
「……僕が前にいたところに比べれば、豪華すぎて泣きたいくらいです…………」
「……この荒れた部屋がか? どんな部屋に住んでたんだ……」

 部屋っていうか、納屋です。雨漏りしたし寒いし、それに比べたら、こんないい部屋がもらえるなんて、ちょっと泣けてくる。

 だけど、問題は別にある。
 案内された部屋は、二段ベッドがひとつに、机とクローゼットが二つの二人部屋……これって、僕と殿下が二人でこの部屋を使うってことだよな……いいのか……? ロヴァウは本当は、第五王子なのに。

「あ、あの……ロヴァウとここで、二人……ですか?」
「そうだ。問題でもあるのか?」
「ありませんけど……ロヴァウは嫌じゃないかなって……思って……」
「……何言ってんだよ。あんなに仲良いのに」
「はっ!!?? な、仲良い!!???」

 つい、大きな声を出してしまう。

 僕と殿下の仲がいい??? そんな風に見えていたのか!??

「べ、別にっ……ぼ、僕らは……な、仲がいいと言うわけではなく……好敵手で……」
「なに焦ってるんだ? お前」
「だ、だから、僕はっ……!」

 話していたら、急に首筋がぞくっとした。何だ今の……冷たくて柔らかくて……誰か後ろで僕の首、舐めてる!?

「うわっ……!」

 びっくりして振り向けば、リュックから出てきたらしいライイーレ殿下が、僕を見上げている。変な悪戯したの、絶対にこの小さな犬だ……

「ら、ライイーレっ……じゃなくて、ライーレ……い、いたずらしたらダメだろー」

 引攣った顔で言いながら、首にくっついていたライイーレ殿下をつまみ上げる。

 小さな犬の姿の彼は、口を尖らせ小さな声で反論してきた。

「だって、お腹すいたんだもん」
「だからって僕を舐めないでください!」

 あ……そういえば、ライイーレ殿下のご飯がまだだった。書類仕上げるのに夢中だったし、殿下もリュックの中で寝ていたから、つい……

 突然僕のリュックから出てきたライイーレ殿下を見て、クロウデライは首を傾げている。

「なんだそれ……」
「へ!? あっ……え、えっと……こ、これは…………えーっと……ペット? みたいなものです……」
「ふーん……うわ!」

 驚くクロウデライに、ライイーレ殿下は飛びついていく。そして、彼が持っていた紙袋に鼻先を近づけて、尻尾をぶんぶん振っていた。

「こ、こらっ……ライーレ! だ、だめだろ!」
「……別にいい。お前らのだから」

 そう言って、クロウデライは僕に紙袋を押し付けて来る。

「やる」
「え!?」
「……今日の討伐はお前らのおかげで助かった…………別に礼じゃねえけど……」
「で、でも……」

 僕らは彼にいっぱい迷惑かけたのに。
 受け取れないでいると、彼は僕に紙袋を無理やり渡して走っていく。

「とっとと寝ろ! クソ貴族!!」
「は!? え、えっと……お、お疲れ様でしたーーーー!!」

 彼の後ろ姿に向かって言うけど、彼は振り向かずに行ってしまった。

 もらった紙袋を開けると、入っていたのはたっぷりクリームが乗っているカップケーキ。果物をたくさん使っていて、カップにはリボンが結んである。めちゃくちゃ可愛らしい……

 紙袋から取り出して見上げていたら、僕の肩に乗っていたライイーレ殿下が、カップケーキに飛びついて、クリームをたくさん舐めてしまう。僕だってまだ食べてないのに!!

「ちょっ……! 殿下!! 食べないでください! 殿下のご飯は今から用意しますから!」
「待てない。お腹すいた」
「や、やめてください!! それでも第一王子ですか!!」
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