虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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62.またですか!?

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 少し前まで、誰も僕の話なんて聞いてくれなかった。暗殺なんて企んでないって言っても、誰も聞いてくれなかったし、以前警備隊にいた時も、そうだった。それでよく討伐に失敗しては殴られていたのに。

 くそ……なんで僕、こんなことで喜んでるんだ。気を抜いちゃダメなのに……なんだか力が入らなくなりそう。

「えっと……すみません。だ、騙すつもりはなくて……」
「分かっています。あなたは隊長が連れてきた人です。私たちを騙したくて来たはずがありません」
「……」
「ロヴァウク殿下が駅であなたと戦った時、私は後で駆けつけたんです。そのときに、あなたとロヴァウク殿下が駅長と話していたのを見たので、気づいただけです。心配しなくても、クロウデライは気づいていないし、あの時あの場にいた警備隊員は、ほぼやめています。今朝、砦にいた一人は、あの時あそこにいましたが、まだ半信半疑なのでしょう。彼の方には、私から話しておきます」
「あ、ありがとうございます…………」
「素性を隠しているのも、何か事情があるのでしょうが、堂々としていていいと思いますよ。あなたのことは、隊長がよく似ているけど他人だと説明しているはずです。それに……今まだ警備隊に残っているのは、他人の素性なんて知りたくないし、自分も知られたくない人たちばかりですから」
「は、はい…………」
「あの……もう少しだけ、聞いてもいいですか?」
「え?」
「ライイーレ殿下は……今どちらにいらっしゃるのですか?」
「へ!!?? あっ……えっと…………」

 話していいのかな? 僕だけならともかく、ライイーレ殿下は王子。王子殿下の、それも、一度は反乱を疑われた王子の居場所を簡単に教えてしまうわけには……

 悩んでいると、ニュアシュは察してくれたらしい。

「……すみません。話しにくいことを聞いてしまいました。では……お元気でいらっしゃいますか?」
「は、はい……それはもう……」
「そうですか……それならいいんです。私は、これから第一部隊の援護に行きます。レク、ここをお願いします」
「あっ……と、討伐完了の合図は?」
「魔法で空に花火を。救援を呼ぶときは使い魔を。それと……クロウデライを頼みます。彼はすぐに無茶をするので……」
「わ、わかりました……」

 僕が答えると、ニュアシュは僕らに背を向けて空を飛んで行った。
 クロウデライのこと……本当に心配してるんだ……

 僕も、細い通りを走って、先を行くクロウデライとロヴァウク殿下に追いついた。

 クロウデライは、右手に光を携えて、次々に魔物を殴り潰す。
 彼は、持っている魔力の使い方がうまい。多分、僕よりずっと。最低限の魔力を手に集中して、次々と魔物を破壊していく。
 彼自身の魔力は、普通よりどちらかと言えば少ない方だろう。その魔力であんなことを続ければ、普通はすぐに魔力が底をついて倒れてしまう。そうならないのは、一撃に必要な魔力を最低限に抑えているからだ。あんなことができるなんて……

 湧いてくる魔物を次々破壊しながら疾走していくクロウデライ。
 魔物は砕け散って、魔力が残っている破片は、僕らの方に飛んでくる。
 それを切り付けて飛ぶと、今度は僕の方に、僕の体より大きな魔物が向かってきた。それを剣で一刀両断にすると、魔物は霧のようなものを撒き散らして吹き飛んだ。

 クロウデライが、足を止めて僕らに振り向く。

「おせえよ。何してんだ」
「すみません。ニュアシュさん、第一部隊の援護に行きました」
「あいつが……? ……ちっ……魔物が増えてから、そんなことばっかりだ……」

 悔しそうに舌打ちをするクロウデライ。

 その時、狭い路地裏に悲鳴が響き渡った。誰かが魔物に襲われたらしい。

「まだ人がいるのか!?」

 叫んで、クロウデライは、悲鳴が聞こえた方に走っていく。

 近道なのか、人一人が走るのがギリギリなくらい細い道を走り、そこを抜けていくと、周りは廃墟ばかりで、木箱が乱雑に積まれた突き当たりに出た。

 そこにある廃墟の崩れかけた壁に寄りかかり、一人の男が尻餅をついている。やはり魔物に襲われていたようで、不気味な色の蜘蛛のような魔物が、腰を抜かした男の前にそびえていた。

「てめえらはあっちだ!」

 そう言って、尻餅をついた男を指差し、クロウデライは体に魔力をまとって魔物に飛びかかっていく。

 僕はその間に、腰を抜かしている男に駆け寄った。

「……またあなたですか!?」

 腰を抜かしていたの、チミテフィッドじゃないか。何してんだこんなところで。
 彼のことは、フィンスフォロースとロティスルートに預けてきたはずだ。また王城に送ると、伯爵か子爵の手が伸びてきそうだし、すでに抵抗する意志はなかったようだから。

 チミテフィッドは真っ青で震えていたけど、駆け寄ったのが僕だと気づいて、ぎこちない笑顔を作った。

「やあ……また会ったね……」
「な、何してるんですか??」
「……ちょっとくらい、力になれないかなと思って……来てみたんだけど……」
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