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59.貴族が!
しおりを挟むこうして僕とロヴァウク殿下は、ニュアシュとクロウデライに連れられて、警備隊の砦を出た。
朝から賑やかな美しい橋を渡る僕らの間の空気は最悪。クロウデライは今にも僕らに飛びかかってきそうだし、ニュアシュの方は振り向きもしない。
仲間内での余計な衝突はできるだけ避けたいのに……
というのも、今日、僕らは四人で魔物を退治することになる。
魔物は、魔力だけで動く命のないもので、警備隊で魔物退治に出る時は、基本的に少人数で部隊を組んでいく。人数が多すぎると、魔物に魔力を持って行かれて、相手をより強力なものにしてしまう確率が増すからだ。
魔物退治成功のためにも、部隊内での争いは最低限にしたいんだけど……無理かなぁ……
二人に連れられて大きな橋を渡り、大通りから横道に入ると、人通りも少し減った。
静かになった通りで、ずっと無言で前を歩いていたクロウデライが、僕らに振り向く。
「……てめえら……魔法はどのくらい使えんだ?」
「えっと……ロヴァウは一通り使えるみたいです。僕はあんまり……ほとんど我流で、ちゃんと学んだことはありません。特に、回復は……」
僕が答えると、クロウデライにはすごく馬鹿にしたように笑われてしまう。
「はっ……我流!? 貴族様がか!? よく言うよ……」
「……」
クロウデライの方は、ずっとこんな感じ。朝の自己紹介に腹を立てているのかと思ったけど、もちろんそれもあるが、彼の場合は、貴族のことがひどく嫌いみたいだ。彼自身は、多分平民だろう。
警備隊は、貴族が魔物退治や魔法を学びにくる場にされていた。しかし、魔物が急増、凶暴化してきてからは、貴族たちも警備隊から遠ざかってしまった。特にこういう切羽詰まっているところからは、貴族たちはみんな逃げ出して、平民の魔法使いや冒険者を雇うようになっている。
そうなると起こるのが、身分による衝突。平民は、大した仕事もせずに砦でダラダラしてるだけなのに偉そうな貴族が気に入らないし、貴族はもともと自分達が魔物退治を学んでいたところなのに、そこに入り込んできた平民が気に入らない。
僕が以前いた森の奥の街では、警備隊はほとんど貴族で、そういった争いはあまりみたことがなかったけど…………
いきなりこんな風に敵意を向けられるとは思っていなかった。
とはいえ、別の理由で敵意を向けられることには慣れている。
突然の魔法での攻撃を想定して、僕とロヴァウク殿下の周りにこっそり結界を張ったり、周りの様子を感知する魔法を使ったりしてたけど、それも必要なかったのかもしれない。
クロウデライは、貴族のことは嫌いなようだけど、こうして前を歩いてちゃんと案内してくれるし、油断させて魔法を撃ってきたり、話しながら僕らの背後に使い魔を忍ばせて刺してきたりもしない。それだけで、僕は少しホッとした。
彼は、歩きながら顔だけ僕らに振り向いて言った。
「貴族様には、お偉い家庭教師がついてるんじゃねえのか?」
「僕は、そういうのに師事したことはなくて……魔法は王城にいるときに勝手に学びました」
「貴族の方々は呑気でいいねーー。我流って言うなら俺もだよ。無能な貴族どもの頭吹っ飛ばすために勝手に身につけたやつだ。試してみるか?」
「遠慮しておきます……」
頭なくなったら魔物退治に行けなくなると思うんだけど……冗談、だよな? 以前魔物退治に行っていた時は、警備隊の奴らを警戒することに必死で、雑談なんてやったことないからよく分からない。
するとロヴァウク殿下が、僕の前に出た。
「是非試してみようか。クソガキ」
「あ? 誰がガキだ」
「さっきからガキのように喚いている貴様のことだ」
「……っんだと……てめえっっ!!」
クロウデライが叫んで殿下の胸ぐらを掴み上げる。
これはまずい。
ここでは誰がどう見ても態度の大きなムカつく大男にしか見えないロヴァウだけど、正体は王子殿下。下手に手を出させてしまったら、彼の方が気の毒だ。
そう思って止めようとしたけど、ニュアシュの方が先に口を挟んだ。
「クロウデライ。やめなさい。ロヴァウは少し、緊張しているんです。先に魔物を退治しに行きましょう。第一部隊と第二部隊だけでは、こっちまで手が回らないはずです」
「………………うるせえよ……」
彼は舌打ちをして、また先に歩き出す。随分苛立っているようだ。
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