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57.え!? 新人!?
しおりを挟む警備隊の砦は、大きな柵に囲まれ観光客が入れなくなった少しばかり雑草の多い庭の向こうにあった。
遠くから見た時は、驚くほどに美しい砦に見えたけど、ここまでくると、壁には結構蔦が絡みついていて、魔物の襲撃によるものなのか、補修のあとも多い。ところどころ、木の板を打ち付けてあるところもあった。
コティトオン警備隊長は、頭に落ちてきた蔦の葉を振り払い、僕らに振り向いた。
「……驚きましたか? 最近魔物が多いせいで、補修も追いつかない状態なのです」
「伯爵には話したのか?」
ロヴァウク殿下がたずねると、隊長は自嘲気味に微笑む。
「……もちろんです。しかし、取り合ってはもらえませんでした。
「そうか……」
「……伯爵様は……きっともう、街には興味がないのです……」
「……」
「……すみません。今のはどうか、忘れてください」
「ああ……」
「殿下。レクレット。ドアを開けるので、離れていてもらえますか?」
なんのことかと思った。なんでドアを開けるのに、離れる必要があるんだ。
だけど、その理由はすぐに知れた。
僕らがドアから離れると、警備隊長は、ドアノブを握りしめて思いっきり引っ張る。それでもなかなか開かなくて、彼がさらに引くと、ドアは開いたけど、その勢いで彼自身も思いっきり後ろに尻餅をついてしまう。大柄で、剣を下げた彼が、ドアに翻弄されているみたいだ。
ドアはすでに錆び付いていて、赤黒い錆がハラハラ落ちていく。
「……立て付けが悪くなっているのです。殿下……いえ、ロヴァウとレクも、開くときはどうかお気をつけください」
「……」
毎回これだけ苦労してドアを開けているのかな……強力な魔物が現れた時、ドアから攻略しなきゃならないんじゃ、大変じゃないか。
警備隊長は、開いたドアの前に立ち塞がるように振り向いた。
「……ここにはもう、隊員を守る力すらありません。辞めて行った者は数知れず、戦えなくなった者も多いのです。ここで警備隊となるからには、私もあなた方を新人の警備隊員として扱います。今なら……まだ間に合います。どうか、引き返してください」
けれど、ロヴァウク殿下は首を横に振る。
「寝言だな。何をしに来たと思っているんだ」
「……そうおっしゃると思っていました」
そう言って、警備隊長はため息をつきながらも、微笑んだ。
「では、ロヴァウ。失礼ながら、これからは敬語もやめさせていただきます。なんだか少し、緊張するな……」
「……気にすることはない。俺ならば、一週間で隊長、二週間で領主、明日には王に成り上がる。そうなれば、敬ったところで誰も奇妙に思わない」
「……頼もしいことだ」
そう言って警備隊長は、ドアに振り向く。そしてすぐに殿下に向き直った。
「……明日国王って、隊長より早くないか?」
砦の中に入ると、照明が壊れているらしく、真っ暗だった。
照明の代わりに、コティトオン警備隊長が魔法の灯りをランタンに入れて前を歩いていく。
廊下には、木箱に入った荷物が積まれたままだった。何が入っているのかと聞くと、近くの魔法の道具を売る店が、回復の薬を差し入れてくれたらしい。魔物の増加で、回復の薬はますます必要になっているのに、予算を減らされて生傷の絶えない警備隊のために持って来てくれたらしい。
薄暗い廊下を歩いて、隊長は突き当たりにあったドアの前で振り向いた。
「……もう警備隊の面々は集まっている。ロヴァウ、レクも……みんなに紹介するから、挨拶をしてほしい」
僕らが二人が頷くと、警備隊長はドアを開ける。
そこは、デスクがいくつも並んだ事務所のようなところだった。
書類がいくつも積み上がり、部屋の端には剣や杖なんかの武器が雑多に積みあげられていて、少し埃っぽい。
隊長が開けたドアに一番近い席に座っていた人が、僕らに気づいて振り向いた。
真っ赤でふわふわの髪は、彼が座っている椅子の足を隠してしまうほど長い。目は茶色で、手足はひどく華奢だ。着ているものも、何かの制服のようで、肩からは大きなカバンを下げていた。
「たぁいちょぉーー。おはよおございますうーー。遅刻ですか?」
「……すまん、タンヘット。新人を案内していて遅れた」
「シンジン……? しんじん?? え!? 新人!?? 嘘……警備隊に入るの?」
彼は、警備隊長の体を避けるようにして、僕らに首を傾げて聞いてくる。
「やぁめたほうがいいよぉーー。ろくなことにならないから」
「やめろ、タンヘット。せっかく来てくれたんだ」
警備隊長に止められても、タンヘットは素知らぬ顔。
「僕は後ろのお二人さんのことを思ってこう言ってるんだけどねえぇーー」
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